間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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背負う者。

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まだこの村が『町』だった頃──そんなに昔ではないはずなのに、それは幻だったと思うほどこの地は廃れてしまった。
原因は、ある冒険者たちがある廃墟をあばいたこと。

『廃墟があって、魔物が出てくる?しかも誰も踏破してない?俺たちで全部攫っちまおうぜ!』
『オオオゥ────ッ!!』
ドウシュは流れ者として当時この町に住み着き、さてこれから先はどうしようかと思っていた時だった。
長兄のことは嫌いではなかったが、他の兄たちより何もかも劣っていたことに、そして一族の者が多い割に金持ちというには程遠い実家に嫌気が差して唯一の取り得である剣の腕を驕って冒険者になったが、自分には大して実力がなかったことに気落ちしていた。
もっともドウシュの本当の才能は短剣を使った接近戦や斥候──盗賊シーフという職業が合っていたのだが、名前の悪さにそれを認めるのを嫌がっていたのである。
だがその酒場で叫んでいた者たちにとって、ドウシュの『斥候なら役に立つ』という言葉こそ待っていたものだった。
おまけにドウシュ自身は自分で自覚するよりも勘が鋭く、開き直ってシーフの腕を上げる経験値を積んでいれば、それなりに高ランクの冒険者になれたはずである。
だがそれこそ彼よりも盗賊じみた冒険者たちにとっては、適性はあってもランクが上がっておらず、冒険者ギルドを通して一時的にパーティーに入れたとしても安い給料を払えば済むドウシュは、都合の良い『使い捨て』できる人材だった。
だからそのまま正式なメンバーではなくその場限りの臨時斥候としてうまく言いくるめて仲間にし、廃墟にあった数々のお宝と共に封印の役目も果たしていた神像を動かしたことによって発動した『呪い』をドウシュひとりに背負わせたのである。

「……その呪いについては、この村の…いや、町の町長である我が家と、長老たちの家にずっと伝わっている秘伝の記録書に、簡単だが記されていた」
「え……」
ガイノーの告白に、レーアは目を見開いた。
それは今この村に残るほとんどの者が知らず、だが違う形で言い聞かされていたことである。

村の外の廃墟に近付いてはいけないよ
   魔物がいるよ
   食べられちゃうよ
   魔物が怒るよ
   怒った魔物はすべてを枯らすよ
   怒った魔物は全部を飲み込むよ

ドウシュの身体に潜んだ魔物は封印されていた時間を取り戻すかのように、自分が封印されていた廃墟の周りの森を枯らし、平原を枯らし、花を咲かせない食べられないそして枯れないただの草を蔓延らせて町にまでその影響を及ぼして人間が生きられる環境を奪い始めた。

そこから後のことはレーアがバルトロメイに話した通りで、町が村へと住人を減らした急激な衰退は、ドウシュの死を見送った者たちの知るとおりである。


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