間の悪い幸運勇者

滑り出る者。

おそらく冷静であったならば、どんなに若いバルトロメイだとしても、そして背負われているのが老人よりもなお軽い成人男性だったとしても、全力疾走などできなかったに違いない。
何せバルトロメイ自身、数年前までは『母』である精霊の加護を受けて、ニンゲンとして足りない栄養を『生気』として取り込んでかろうじて生きていたぐらいである。
まともな食生活が送れるようになったのは師匠であるバルトバーシュたちと暮らしてからだが、それを受け入れるにも時間がかかったのだ。
だがそれでも生命の危機とも言える現在の状況においては、持ち合わせていた素早さの他にも、正常化された日常によってついた筋力や運動能力をフルに、無自覚に活用して脱出を試みていた。
「うひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ～～～～………」
息も絶え絶えにようやく洞窟の外にスライディングして飛び出せたが、背中の男は泡を吹いて白目を剥き、こちらも今にも魂消えんばかりである。
そのことにようやく気付いてバルトロメイは慌てて背中から男を降ろし、そっと草むらに横たえた。
その瞬間──

ドガァァァァァァァン！ガラガラガラッ…ゴロンッ！ガツッ！……

耳を塞ぎたくなるような爆発音に似た音に続き、岩が崩れるような衝突音が長々と響いた。
そしてゴォッという音とともに風がバルトロメイたちの間を駆け抜け、続いて砂ぼこりが視界を奪う。
「………え」
音も埃も落ち着いてから恐る恐る目を開け、背後を振り返ったバルトロメイはポカンとした。