間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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逃げ出す者。

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その鞄はずいぶん高性能だったらしく、バルトロメイが纏めた遺品のすべてを収納できただけでなく、花びらも何枚か入れさせてもらう。
バルトロメ自身が持っていたマジックバッグにも花びらと種の入った子房、茎や根が収納されたが、キラキラ光る魔石の光を惜しみつつバッグ入れた途端、入りきらなかったモノは魔物の残骸だけでなく骨までもが音もなくすべて溶けて消えてしまった。
「えっ……」
もうちょっと植物魔物の遺骸や遺品を持って帰ろうと思っていたのに、手を伸ばす暇もなくスゥッと消えていくのを呆然と眺めてしまう。
何故かはわからないが、どうやら生き残った以外の男たちの冒険者証は全部拾えたらしいし、遺品も遺骨もちゃんと確保できた。
だが──できれば『すべて』持って帰ってあげたかったというのは、一体どういう心境なのだろうか。

かつてニンゲンとはまったく異質の生活をしていたバルトロメイには、『死んだ者の生きた証を遺族に渡す』という認識はなかった。
獣族でも『一族の墓場』という場所がある者もいるが、それらはけっして他の種族には──たとえ『家族』であっても──明かさず、ただ『その場所に辿り着いて死ぬことが最大の幸福』と言っていた。
だからバルトロメイはその地に向かって旅立つ『きょうだい』を見送っても寂しくも悲しくもなく、ただ淡々と日々は過ぎていた。
だいたい寿命的に言えばバルトロメイが一番短いため、見送ることもほぼ無かったということもあるかもしれないし、狩りやただ単に遊びに行ったまま帰ってこないことも多くあり、だからといって一緒に行って戻ってきた者が帰ってこなかった者を悼んでいる場面を見せられなかったということもあるかもしれない。
『家族』は『家族』だったが、やはりニンゲンの『家族』とは少し意味合いが違ったのである。

それでもちゃんと手元に残った物は男とバルトロメイのマジックバッグにしっかり入っており、洞窟もこの大きな部屋が一番最奥だったらしい。
ぐるりと部屋の壁沿いを巡ってみても横穴も何もなかったため、これ以上魔物も出てこないだろうと判断したバルトロメイは自分の長剣は前に抱え込み、、大人にしてはずいぶん・・・・軽くなって・・・・・しまった・・・・男を背負って、ゆっくりと元来た道を歩き出し────


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ─────っ!!!」
今や全速力でバルトロメイは、土と石の道を駆け戻っていた。

最奥の部屋がゆっくりと崩れ始めた時はあまり気にしていなかったのだが、だんだんとその音が大きく、そして近付く気配が早くなるのに気付いてようやく振り向いた。
振り向かなければよかった。
いや、振り向いてよかった。
たたらを踏んだのは一瞬だけで、向きを変えた瞬間に思いっきり足を踏み出したが、そのさっきまでいた場所にも天井の石板がバタバタと床石とぶつかる音が立つ。
眠っていた男はそれを通り越して気絶し、バルトロメイの背中で人形のように揺れているが、おんぶ紐のように縄をかけて自分の身体に括りつけていたのが幸いした。


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