間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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振り払う者。

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手応えと言っていいのか──何か気持ち悪いモノを嫌々切っているような感覚が伝わってくるが、目の前の霧が布のように切り払われ、道が開けていく。
そっとその中に足を踏み入れ、同じように目の前の霧を切っていく・・・・・

ゾワリ。
ゾワリ。

別に音がするわけでもないのに、そんな擬音が手のひらに伝わり、ブルルッと悪寒が背中を走った。
「うひぇぇぇ………」
何とも情けない声を上げながらも、バルトロメイは歩みを止められずに進む。
進み、進んで、ようやく辿り着いた場所には、男たちが全員倒れ伏していた。

あの岩の奥なんて、そんなにあるわけはない──はずなのに、ここまで来るのにどれくらいの時間がかかったのだろう。
平坦なはずの通路はどんなに進んでも奥に辿り着かないのに明るく、ようやく何か壁みたいなものに当たったと思ったら変な霧が満ちていて。
それを布の如く切り裂いて進んだと思ったら人が倒れていて。
「だっ、大丈夫ですかっ?!」
慌ててバルトロメイが駆け寄ると、ソレは恐ろしく痩せ細り、まるでミイラのように干からびた皮だった。
いや、確かに生きていた。
皺を作ることさえできないぐらい鞣されたような平べったい皮は、おそらくはそれさえもかなり重く感じるであろう衣服を微かに上下に動かして弱々しくも呼吸を繰り返してはいるが、どうやら昏睡状態にあるらしい。
しかもそれは1つ2つではなく、全部が──全員が、その状態にあるのだ。
「ど…っして……」
まだ意識がある者がおり、バルトロメイの姿を見ることができたのか、ヒュー…とか細い息を吐きながら同じく細い声を上げる。
「おま……」
「だ、だいじょ……ぶじゃ、ない…ですね……」
念のために持っていた湯冷ましの入った水袋をカサカサを通り越して痛々しいほどに干からびた唇に押し当てたが、ほんの数滴が口に入っただけでふぅ…とその男は力尽きたように目を閉じた。
幸いなことにそれは冥土への旅立つ合図ではなく、他の者と同じように眠りにつく寸前だったらしい。
それは何とか手を持ち上げようとして、だが力尽きてポトリと腕を落とす。
「いったい何で……?」
じわりじわりと払ったはずの霧が近付いてくるのに気付き、バルトロメイは男を横たわらせてから、件を下から上へと力いっぱい振り上げた。


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