間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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立候補する者。

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確かに今回の依頼に関して『勝手な行動を取らないように』という契約規則は結んでいるものの、特に違反金や契約解除などといった罰則などは設けていなかったが、雇い主ドファーニも静観しているわけではなかった。
正規の護衛団で一部の者を支店で入れ替えるのは当初から計画されていた通りだったが、本来そのまま休暇に入るはずの者で体力がある者を早駆けさせて小規模でも冒険者ギルドがある村などに向かわせ、正規護衛団で次に商隊が到着する予定の町まで十数人の護衛を向かわせるように連絡を入れさせている。

だがそんな大人たちがアレコレ手を尽くしていることを知らされても、バルトロメイやラジムにできることというと、自分たちとバルトロメイの荷馬車に奇襲が掛けられても対処できるように身体を動かせるよう心の準備だけは怠らないようにとするだけだ。
そのため今まではふたりで並んで荷馬車の御者台に座っておしゃべりしていたのを交代制にし、荷馬車の中でもどちらか片方が起きて用心することを取り決める。
むろんその計画はシェイジンを始めとした後方の冒険者たちに咎められたが、すでに用心して見回りをしていることを逆に指摘されてはぐうの音も出ない。
「だいたいバルトはともかく!俺だってもう何度も野営も見回りもやってるんだから!」
「えっ……ぼ、僕も!できます!!」
ラジムが勢いこんで主張すれば、負けじとバルトロメイも手を上げる。
確かに夜の森で1人になったことはなく、『家族』と暮らしていた時も『師匠たち』と共に住んでいた時も常に誰かに守られていたため、確かにバルトロメイ自身も寝ずの番で役に立つのかどうかはわからない。
だがこれから先もちゃんと『冒険者』という職業に就いていくのならば、こういった夜の見張りというか気を張った活動もしなければならないだろう。
それならば自分だけが守られているだけではいけない──そう思っての挙手だった。

が。
「……いやいやいやいや!お前は一応護衛対象だからな?!たぶんそんなことも忘れてるかもしれんけど!」
そう言ったのは『そんなこと』を忘れ果ててバルトロメイとラジムに様々に稽古をつけた当人である、殿しんがり組の冒険者おとなたちだった。


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