間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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話す者。

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気が付けば松明だけでなくドファーニたち商人が乗る馬車のそばに大きな焚火が焚かれ、独特の香りが強く漂い始めている。
見かけは馬そのものだが、精霊魔獣であるバルトロメイの愛馬たちは何か感じるのか、少し後ずさりながらフル払うように顔を何度も振ってから、くるりと自分たちの囲いの方へと戻っていった。
「……いやぁ、ずいぶんちゃんと躾けられていたんだな、あいつら。とりあえずあの魔物除けの匂いで今夜はもう……いや、さっきのあのデカいのは全然この松明に反応しなかったからな……他のやつらの方はどうだったか、ちょっと確認して報告してくるわ」
「あ、はい」
辺りに充満し始めた魔物除けと同じ匂いを放つ松明を軽く振り、バルトロメイを守ってくれた冒険者が大きな焚火に向かう人影に向かいながら、軽く手を振った。
バルトロメイも同じように手を上げると、入れ替わるようにラジムが暗闇から現れる。
地面に倒れ込んだのか服は汚れているが、見たところ怪我はないようで、バルトロメイだけでなくラジム本人もホッとした顔をしていた。
「よぉ……どうだった?」
「いや、何か……大丈夫、だったんだけど……」
「そうか!1匹ぐらいは斃せたか?……って、ここら辺には匂いがないな……襲われなかったのか?それならいいんだけど……」
「い、いや……何かデッカいのが出てきたんだけど……エンとヤシャがやっつけ…いや、蹴り飛ばして……」
「は………?」


ラジムはバルトロメイと共にエンとヤシャの世話をしながら、マジマジとその小柄な馬たちを眺め、仮眠前にバルトロメイから聞かされた信じられない話を思い出し、また頭を振る。
「こいつらがなぁ……水棲魔物ってのはマジで生態がよくわかってないんだ。今回みたいに馬が攫われるって言っても、それは食うためなのか、皮とか骨とか必要なのか、単に気に入らないから持ってったのか……だいたい水の中に持ってかれたもんが浮いて来たり流れてきたっていうのも聞かないからな」
「そうなんだ……」
だいたい人間と魔物との意思疎通が確立されていないため、冒険者たちが遭遇した魔物や魔獣から得られる情報しかないため、陸棲の魔物や魔獣、空を飛ぶモノ、水の中にいるものでは池、小川、海、大きな川、湖にいるそれぞれの水棲魔物といった順で、まだまだ謎は多い。
「海はやっぱり漁師とかそこらに住んでいる人間がけっこう遭遇するから、冒険者だけじゃなくて現地の人間からも情報提供が多いらしいんだけど、こういう大きい川だと、わざわざ魔物が出てくるってわかっているところに住むもの好きはいないだろう?そうなると、俺たち冒険者に依頼が出されるんだけど、まさか川の中に潜って調べるわけにもいかないからな」
「ふぅん………」
そういえば師匠たちが2人ともしつこいくらいに「絶対水が流れているところに近付いてはいけない」と言い付けられていたことを思い出し、そういうことかと納得する。
しばらくそんな話をしながら自分たちが跳ねのけた寝具を畳み、バルトロメイの荷馬車の中も片付け終わった頃、シェイジンたち大人がそれぞれ声を掛けてきて、バルトロメイとラジムは朝食を食べるためにと焚火の火が消えかけている中心へと向かった。


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