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退ける者。
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ギュッとおかしな音をたてながら、水棲魔物はゆっくりと身体を沈めた。
松明の灯りで逆に周囲は漆黒の闇だが、魔物が見据える先にあるモノをバルトロメイは知っている。
<避けよ! 我が家族に連なる者! 我らが敵! 汝らを狙わん!>
とっさに口から出たのはガンス家当主のマロシュ老が連れて行ってくれた神殿で、物騒な祝福を和らげて以来初めて口にした神語だった。
「な…何だ?お前……何を言って……?」
人間の耳にはどう聞こえているのかバルトロメイにはわからないが、その叫びは水棲魔物を驚かせて怯ませ、間を置かずに激しく地面を叩く蹄の音が近付いてくる。
「えっ……い、いや、逃げろって……」
「え?!あ、何?お前さん、他国の言葉を話せるのか……スゲェな!」
発音から言語体系自体もまったく異なるが、理解できなかった冒険者は、単純にバルトロメイが何かしら自国語以外の言葉を発したと理解したらしい。
それにしては魔物やバルトロメイの馬が駆け付けた理由をわかっていないが、それはいきなりバルトロメイが大声を出したせいだと納得し、改めて少年を守る位置に移動しつつ魔物をギロリと睨み──ポカンとした。
「え…………」
さっきは力を溜めるように身体を沈ませた魔物は姿を消しており、暗がりで激しい水音が立つ。
そして目の前には小さめとはいえ迫力のある馬の尻が2つ現れ、ブルル…と息を立てながらガツガツと地面を蹴った。
「こ、こいつら……」
「すいません……一応『逃げろ』って伝えたつもりだったんですけど……何か、来ちゃいましたね……」
「伝えた……って、あの変な声?言葉?か?あれ、って他国の言葉じゃ……?」
「え~…あ~…何というか……あの仔たちには通じる言葉、っていうか……」
説明がしづらい。
だいたい神語はすでに失われた言語のひとつで、師匠であるバルトバーシュが神殿が秘蔵していた書物で学んだとはいえ、一般人にとっては何かの機会に聖ガイ教や他の宗派の神殿や教会で祝福を与えられる時に聞くことがあればいい方だ。
たいていは古いその言葉を現代の言葉に言い換えているが、効果はずっと薄い。
だがそういった経験がないのか、冒険者は馬を操る運搬業の者はそんな言葉を使っているのかと納得したようで、今は馬たちで見えなくなってしまった水棲魔物がいた辺りへまた視線を固定して気持ちを集中させたが、先ほどまで聞こえていた武器がぶつかる音や叫びは収まり、代わりに点呼や被害の具合を確認する声が聞こえくる。
「……どうやら何とか無事みたいだな」
「そう…なんですか?」
ホッとしたような声で冒険者が剣をしまうと、駆けつけた2頭に挟まれるように立つバルトロメイは、結局使うことのなかった短剣を鞘にしまいながら、ゆっくりと辺りを見回した。
松明の灯りで逆に周囲は漆黒の闇だが、魔物が見据える先にあるモノをバルトロメイは知っている。
<避けよ! 我が家族に連なる者! 我らが敵! 汝らを狙わん!>
とっさに口から出たのはガンス家当主のマロシュ老が連れて行ってくれた神殿で、物騒な祝福を和らげて以来初めて口にした神語だった。
「な…何だ?お前……何を言って……?」
人間の耳にはどう聞こえているのかバルトロメイにはわからないが、その叫びは水棲魔物を驚かせて怯ませ、間を置かずに激しく地面を叩く蹄の音が近付いてくる。
「えっ……い、いや、逃げろって……」
「え?!あ、何?お前さん、他国の言葉を話せるのか……スゲェな!」
発音から言語体系自体もまったく異なるが、理解できなかった冒険者は、単純にバルトロメイが何かしら自国語以外の言葉を発したと理解したらしい。
それにしては魔物やバルトロメイの馬が駆け付けた理由をわかっていないが、それはいきなりバルトロメイが大声を出したせいだと納得し、改めて少年を守る位置に移動しつつ魔物をギロリと睨み──ポカンとした。
「え…………」
さっきは力を溜めるように身体を沈ませた魔物は姿を消しており、暗がりで激しい水音が立つ。
そして目の前には小さめとはいえ迫力のある馬の尻が2つ現れ、ブルル…と息を立てながらガツガツと地面を蹴った。
「こ、こいつら……」
「すいません……一応『逃げろ』って伝えたつもりだったんですけど……何か、来ちゃいましたね……」
「伝えた……って、あの変な声?言葉?か?あれ、って他国の言葉じゃ……?」
「え~…あ~…何というか……あの仔たちには通じる言葉、っていうか……」
説明がしづらい。
だいたい神語はすでに失われた言語のひとつで、師匠であるバルトバーシュが神殿が秘蔵していた書物で学んだとはいえ、一般人にとっては何かの機会に聖ガイ教や他の宗派の神殿や教会で祝福を与えられる時に聞くことがあればいい方だ。
たいていは古いその言葉を現代の言葉に言い換えているが、効果はずっと薄い。
だがそういった経験がないのか、冒険者は馬を操る運搬業の者はそんな言葉を使っているのかと納得したようで、今は馬たちで見えなくなってしまった水棲魔物がいた辺りへまた視線を固定して気持ちを集中させたが、先ほどまで聞こえていた武器がぶつかる音や叫びは収まり、代わりに点呼や被害の具合を確認する声が聞こえくる。
「……どうやら何とか無事みたいだな」
「そう…なんですか?」
ホッとしたような声で冒険者が剣をしまうと、駆けつけた2頭に挟まれるように立つバルトロメイは、結局使うことのなかった短剣を鞘にしまいながら、ゆっくりと辺りを見回した。
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