間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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夢と理想がある者。

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この国には一夫多妻の制度はない。
だから新しく妻を娶るには、死別するか話し合って離縁を選ぶかだが、海を渡った遠い国には目も覚めるような美女ばかりを集めて享楽の限りを尽くす王がいるという。
しかもその王は唸るほどの財を成しており、誰もその王を羨みはしても反乱を起こすこともできないほどらしい。
「いいよな~……しかも国中の美女だけじゃなく、取り引きによって他国の美女も囲ってるってよ!はぁ~……男の夢ぇ~ん……」
そういうとラジムは自分で自分の身体を抱き締め、むちゅぅと唇を突き出してキスをする仕草をしたが、その動きが何を意味するのかやどうしてその『美女をたくさん集める』というのが『男の夢』とやらになるのか、バルトロメイにはちっともわからない。
「じゃあ、ラジムの父は『男の夢』なの?」
「ああ……それは違う。親父に財産なんかねぇよ。俺は2番目だけど、まだ下に4人も弟妹がいるんだぜ?食わせていくのに精いっぱいで、お袋もすぐ下の妹も働きっぱなしさ。せめて下3人は少しでも学をつけてやろうって話しててさ。兄貴はもう結婚してて、女の子が1人…いや、もうすぐ2人目が産まれる……俺の理想の家庭だよ」
「理想……?ラジムの『夢』は『美女がいっぱい』じゃないの?」
「んん?……う~ん……い、やぁ……夢っつーか理想っつーか……いや、『夢』は『夢』で理想とはまた違うっていうか……」
「違う?何で?」
「な、何でって……」
「おおい!寝ろって!明日は早くから発つからな!!」
ガバッと幌が開けられ、夜勤で周囲を見回っていた冒険者が『子供たち』に向かって怒鳴りつける。
慌てて毛布をかぶって寝たふりを──もちろん潜り込んですぐに寝むれるわけではないことは、覗いた方もわかっているが──見届けてからきちんと幌を直し、ブツブツと夜の見回りと年若い者たちの元気に対する羨ましさへの文句を垂れ流しながら離れていった。


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