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助ける者。
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「……確かに禁じちゃぁいなかったがよ………」
初心者かつ低ランク冒険者向けの採取系依頼は1日2日で終わるものではないが、採取できる時間が夜間や夜明けの数十分以内というように限られている物が多く、それ以外の時間はハッキリ言ってフリーである。
だから昼間を睡眠時間に当てたりのんびりする奴らも多く、しかも時間があるのに手持ちは乏しいとなれば憂さ晴らしに乱暴狼藉を働くしかないとばかりに治安を乱す。
それを取り締まるのは元冒険者だったり現役でも「もうそろそろ落ち着こうかな」と後進に道を譲ろうと考えている者たちだ。
───が。
「……何で俺の女房と娘まで顔見知りになってるんだよ?」
「あ!採取場所の当たりをつけようと思って森に行ったら、ちょうどお嬢さんがかくれんぼしてて」
「かくれんぼ?」
「そうなのよ!行っちゃダメだって言ってたのに……森じゃなくて、領主様の花畑に迷い込んじゃって、追い払われたらしいの」
「で、驚いて森の方に逃げたのはいいけど、いつも入っている方角からじゃなかったから、その……かくれんぼになっちゃって」
つまり迷子の迷子になって、たまたまバルトロメイに見つけてもらったらしい。
いったいどうしてそんなことになったのかと思わないでもないが、とにかく怪我もせず野生の獣や魔物やならず者にも見つからず、町とは反対の方へと進みかけていたところで依頼のための薬草群生地を探していたバルトロメイと出会ったのだという。
「そうか……それは……よかった……」
「……ごめんなさい………ティナちゃんに綺麗なお花があるよって教えてもらったの……そしたら怖いおじちゃんたちがお館様のお家のお花だから摘んじゃダメだって……でももっときれいなお花畑があるからおいでって……でもティナちゃんがついてちゃって……」
「なっ……!」
「大丈夫よ、あんた!カリンもその子も何もないうちにバルトくんが見つけてくれから!」
慌てて娘の友達を救出しようと動こうとしたエピルスを、妻が慌てて止める。
何にしてもその話はずいぶん前のことだからだ。
「何でもそいつらが気絶させたティナちゃんの服を剥ごうとしていた時に、たまたまワームが地面から出てきたらしくてねぇ。ティナちゃんをどうにかしようとする前にそいつらの皮と牙と魔石を収集して懐も暖めようと張り切ったところを、バルト君がエピルスの娘であるカリンと共にこっそりその場から連れて逃げたんだって」
「はぁ~~~~………な、なるほど……そいつぁよかった……」
ニヤリとエピルスが唇を歪めたが、少女を甚振り損ねた間抜け野郎が誰か──妻が今言った魔物素材の納品を受け付けた日とその冒険者たちはギルドの記録に残っているはずだ。
バルトロメイを通した特別室に招き入れて、娘とその友達に面通しさせようと頭の隅に記憶する。
「俺の知らない間に、娘たちが世話んなった。別れの餞別のつもりが、謝礼の品になっちまったな。極上品じゃねえが、少なくともその腰の……ああ、ソイツの代わりに役に立つといいんだが」
そっとバルトロメイの腰帯についている聖剣をそっと指差して、エピルスは真新しい鞘に入った剣を差し出した。
「そんなデカいもんじゃないから、一緒に持てるだろう?」
「まあ!あんた、もっとイイモン買えばよかったのに!」
さすがに何の恩もない一介の冒険者であればこのミスリル剣でも眉を顰められたかもしれないが、娘とその友達の命と貞操の危機を救った恩人ならば話は別らしい。
初心者かつ低ランク冒険者向けの採取系依頼は1日2日で終わるものではないが、採取できる時間が夜間や夜明けの数十分以内というように限られている物が多く、それ以外の時間はハッキリ言ってフリーである。
だから昼間を睡眠時間に当てたりのんびりする奴らも多く、しかも時間があるのに手持ちは乏しいとなれば憂さ晴らしに乱暴狼藉を働くしかないとばかりに治安を乱す。
それを取り締まるのは元冒険者だったり現役でも「もうそろそろ落ち着こうかな」と後進に道を譲ろうと考えている者たちだ。
───が。
「……何で俺の女房と娘まで顔見知りになってるんだよ?」
「あ!採取場所の当たりをつけようと思って森に行ったら、ちょうどお嬢さんがかくれんぼしてて」
「かくれんぼ?」
「そうなのよ!行っちゃダメだって言ってたのに……森じゃなくて、領主様の花畑に迷い込んじゃって、追い払われたらしいの」
「で、驚いて森の方に逃げたのはいいけど、いつも入っている方角からじゃなかったから、その……かくれんぼになっちゃって」
つまり迷子の迷子になって、たまたまバルトロメイに見つけてもらったらしい。
いったいどうしてそんなことになったのかと思わないでもないが、とにかく怪我もせず野生の獣や魔物やならず者にも見つからず、町とは反対の方へと進みかけていたところで依頼のための薬草群生地を探していたバルトロメイと出会ったのだという。
「そうか……それは……よかった……」
「……ごめんなさい………ティナちゃんに綺麗なお花があるよって教えてもらったの……そしたら怖いおじちゃんたちがお館様のお家のお花だから摘んじゃダメだって……でももっときれいなお花畑があるからおいでって……でもティナちゃんがついてちゃって……」
「なっ……!」
「大丈夫よ、あんた!カリンもその子も何もないうちにバルトくんが見つけてくれから!」
慌てて娘の友達を救出しようと動こうとしたエピルスを、妻が慌てて止める。
何にしてもその話はずいぶん前のことだからだ。
「何でもそいつらが気絶させたティナちゃんの服を剥ごうとしていた時に、たまたまワームが地面から出てきたらしくてねぇ。ティナちゃんをどうにかしようとする前にそいつらの皮と牙と魔石を収集して懐も暖めようと張り切ったところを、バルト君がエピルスの娘であるカリンと共にこっそりその場から連れて逃げたんだって」
「はぁ~~~~………な、なるほど……そいつぁよかった……」
ニヤリとエピルスが唇を歪めたが、少女を甚振り損ねた間抜け野郎が誰か──妻が今言った魔物素材の納品を受け付けた日とその冒険者たちはギルドの記録に残っているはずだ。
バルトロメイを通した特別室に招き入れて、娘とその友達に面通しさせようと頭の隅に記憶する。
「俺の知らない間に、娘たちが世話んなった。別れの餞別のつもりが、謝礼の品になっちまったな。極上品じゃねえが、少なくともその腰の……ああ、ソイツの代わりに役に立つといいんだが」
そっとバルトロメイの腰帯についている聖剣をそっと指差して、エピルスは真新しい鞘に入った剣を差し出した。
「そんなデカいもんじゃないから、一緒に持てるだろう?」
「まあ!あんた、もっとイイモン買えばよかったのに!」
さすがに何の恩もない一介の冒険者であればこのミスリル剣でも眉を顰められたかもしれないが、娘とその友達の命と貞操の危機を救った恩人ならば話は別らしい。
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