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葬る者。
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結界が、破られた。
その事実は信じられず、信じてはいけない現実として、目の前の惨状にある。
命を落とした者はいないものの、大きな鰐のような魔物が何匹も森から這い出てきて、慣れない僧兵候補たちをまるで玩具のように甚振っていた。
敵という認識すらされていない。
エクルーはギリッと歯を鳴らし、だが自分から切込みには行かない。
大将という者が功を焦れば、たちまち後続が起きて統率を崩してしまうだろう。
手練れの僧兵本隊ならばともかく、人外との戦いはこれが初めてである彼らに同じ動きを期待することは酷というもの。
では頼りない者たちでは斃し切れない魔物たちをエクルー神官自ら狩って、彼らのやる気を折るのか鼓舞するのかはわからないが、とにかく彼らの『経験』と『成長』を阻むことだけは確かだ。
だからこそ体力も精神力も削られ、それでも連携して何とか仕留めようとしている彼らを後ろから見ていることしかできない。
まあそんなことに気を病む必要のない者もいるわけで、それこそ僧兵本隊真っ青の強大な風魔法で大鰐魔物を真っ二つに切り裂いているのがマクロメイである。
「ギャッハッハッハ────ッ!!オラオラオラオラオラオラァァァァ──ッ!!さっさと片付けねぇと、俺が全部平らげちまうぞぉ!手柄が欲しい奴ぁ、俺より先に止め刺せぇっ!!」
「クッ……エ、エクルー様!」
「……アレはそういう男だ。本気じゃないと思って油断していたら、本当に全部あいつに手柄を持って行かれるぞ?」
「えっ……あれって……後輩たちを鼓舞するための大言壮語なのでは……?」
「そんな気遣いのできる奴が、神殿本館で冷遇されるわけはなかろう」
マクロメイは気にもしていなかったが、僧兵たちのほとんどが目の敵にしていたのはさすがにエクルーも知っているし、上層部でも生意気さと正論さにその存在を煙たがってもいた。
故にあの男が『やる』と言ったら絶対に実現してしまうのだ。
外の騒ぎは静かになったが、それは決着がついて安全になったというわけではない。
むしろ不気味に空気が重くなっている。
「……バルト、支度をしなさい」
「はい」
いつかは来ると思っていたその時。
それはもっと後のはずだった。
しかしそれは今なのだろう。
バルトバーシュは覚悟を決めた。
その事実は信じられず、信じてはいけない現実として、目の前の惨状にある。
命を落とした者はいないものの、大きな鰐のような魔物が何匹も森から這い出てきて、慣れない僧兵候補たちをまるで玩具のように甚振っていた。
敵という認識すらされていない。
エクルーはギリッと歯を鳴らし、だが自分から切込みには行かない。
大将という者が功を焦れば、たちまち後続が起きて統率を崩してしまうだろう。
手練れの僧兵本隊ならばともかく、人外との戦いはこれが初めてである彼らに同じ動きを期待することは酷というもの。
では頼りない者たちでは斃し切れない魔物たちをエクルー神官自ら狩って、彼らのやる気を折るのか鼓舞するのかはわからないが、とにかく彼らの『経験』と『成長』を阻むことだけは確かだ。
だからこそ体力も精神力も削られ、それでも連携して何とか仕留めようとしている彼らを後ろから見ていることしかできない。
まあそんなことに気を病む必要のない者もいるわけで、それこそ僧兵本隊真っ青の強大な風魔法で大鰐魔物を真っ二つに切り裂いているのがマクロメイである。
「ギャッハッハッハ────ッ!!オラオラオラオラオラオラァァァァ──ッ!!さっさと片付けねぇと、俺が全部平らげちまうぞぉ!手柄が欲しい奴ぁ、俺より先に止め刺せぇっ!!」
「クッ……エ、エクルー様!」
「……アレはそういう男だ。本気じゃないと思って油断していたら、本当に全部あいつに手柄を持って行かれるぞ?」
「えっ……あれって……後輩たちを鼓舞するための大言壮語なのでは……?」
「そんな気遣いのできる奴が、神殿本館で冷遇されるわけはなかろう」
マクロメイは気にもしていなかったが、僧兵たちのほとんどが目の敵にしていたのはさすがにエクルーも知っているし、上層部でも生意気さと正論さにその存在を煙たがってもいた。
故にあの男が『やる』と言ったら絶対に実現してしまうのだ。
外の騒ぎは静かになったが、それは決着がついて安全になったというわけではない。
むしろ不気味に空気が重くなっている。
「……バルト、支度をしなさい」
「はい」
いつかは来ると思っていたその時。
それはもっと後のはずだった。
しかしそれは今なのだろう。
バルトバーシュは覚悟を決めた。
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