間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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理解する者。

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その目論見は確かに当たり、およそ半年に1度の割合でマクロメイが面倒くさそうに神殿本館を訪れ、手入れの終わった綿と布に仕立てた物や糸を3人分積んだ荷馬車を操るエクルーと共に、あの一軒家に戻るための交渉に応じた。
だんだんと上層部は要求をエスカレートしようとしたが、十代半ばまで市井に在ったマクロメイの敵ではなく、強欲さを嘲笑われては羞恥か反抗されたことへの怒りかの違いで皆顔を赤らめる。
「……まったくいい歳をした者たちが、情けない…………」
「ケケケッ。そんなもんさ、人間なんて。特に権力を持った奴ぁ、キリも止める奴もいねぇ。おまけに赤ん坊みたいに我慢も利かねぇ。いろいろとボケたじい様たちにとっちゃぁ、俺たち若者ワカモンが命令を聞かないわけがない……だからああやって怒鳴りつけて、言うこと聞かせようと躍起になってるってわけさ」
「……詳しいんだな」
「貧乏舐めんなよ?ガキの頃から家業手伝って、大人相手に取り引きまでやるんだ。ハイハイとしか返事をしない世間知らずで軟弱な神官相手しかしたことのないジジィどもに負けるかよ」
バルトバーシュやマクロメイとはまったく違い、実は武闘派伯爵家の三男で苦労知らずだったため、バルトバーシュが子供の頃から戦ってきた大人たち──特に師匠と呼ぶ伯爵家所属の老騎士に従うことに慣れていた。
そのため『年齢や立場が上の者の言うことは絶対』という方式が叩き込まれており、それはこのまま成長しても変わらず、聖ガイ・トゥーオン神殿に来た当初の大神官長も清廉高潔で尊敬できる人物だったということが、殊更上層部の腐敗に触れることもなく、ここまで過ごしてしまったのである。

だがそれは何もエクルー神官に限ったことではなく、上層部のやっていることを教えるには融通が利かなかったり、純粋に大神官たちを『聖なる者』として崇める若い神官たちが一括りに排除されていただけだった。



「帰ーったぞー!」
歌うようにマクロメイが呼びかけると、塀の一部である細めの丸太をどけて荷馬車を通した少年がニコニコと笑っている。
最初の時こそ怖がってバルトバーシュの後ろに隠れていた少年は、ここ2年の間でグッと背も伸び、まだ細いながらもしっかり肉もついていた。
「……元気そうだな」
「ああ。うちのガキどもと違って何でも食ってくれたからなぁ」
「ガキども?」
マクロメイは研究文官であり魔法術師であり、孤児院担当ではないはずだ。
エクルーが疑問を眉を動かすことで表現すると、マクロメイは苦笑しながら自分の過去を簡単に話す。
「うちの親は子供に恵まれなくてな……俺を始めとして、捨てられたガキを次々と養子にしたんだ。総勢10人きょうだいだぜ?金持ちでもないのに、引き取るにも限度があらぁな」
照れくさそうにしているマクロメイを意外そうな目でエクルーは見やったが、そういえばこの男のことは何も知らない──神殿に来る前にどんな家にいて、どんな生活をして、どう生きてきたのかを知らないということに気が付いた。


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