18 / 258
取り引きする者。
しおりを挟む
聖ガイ・トゥーオン神殿の上層部に対する交渉は、ある意味難航した。
上の者たちにとってバルトバーシュの古代文献や神語の研究は貴重な財産のひとつであり、神殿が行う神事にも影響するため、問題児のマクロメイだけあの隔離された地に残し、少年とバルトバーシュを本館に戻す『寛大な処置』を提示されたのである。
翻って隔離チーム側としては、捌ききれない上等な綿花をすべて神殿側に持ち帰ってもらって精製し、地域貢献に間接的に貢献するから、バルトバーシュとマクロメイの研究に必要な物すべてをあっちに送って二度と関わって来るな──というのが、かみ砕いたマクロメイの要求だった。
むろんそれがそのまま受け入れられることはなく、マクロメイだけ置き去り、もしくはバルトバーシュと少年は本館に戻る代わりにマクロメイは毎日本館へ通って週末はミサのために本館に籠る、食糧など一切の援助拒否を解除してマクロメイだけは住みよいようにするなど、とにかく『お前は要らん』という条件ばかり突き付けられ、当然それが受け入れられるはずもない。
マクロメイとしても本館に戻って、僧兵隊や上層部と衝突しまくるよりは、魔法研究をし放題にできる元・廃屋側の広い敷地は格段の差がある。
だからと言って生贄の子羊を、むざむざと為政者たちに渡すつもりはない。
何せバルトバーシュの神語の研究にとって少年は文字通り『宝物』であるし、おそらく口減らしでどこかの森に捨てられた少年が人外とどのように生きてきたのかを研究し、『奇跡の子』として恩恵をもたらす象徴として担ぎ上げれば、辺境の地にあるということで重要な役目を担いながらも軽視されがちなこの聖ガイ・トゥーオン神殿の名を国中に知らしめて俗物的に『儲ける』ことが可能なのだ。
「あーあ。バルトバーシュが泣くぜぇ?あいつはいまだに、神殿のお偉いさん方に夢見てるんだから」
「マクロメイ!」
そっと窘めながらも、エクルーもあまりに自分たちの都合ばかり押し付ける条件しか示さない上層部に対し、冷ややかな視線になることを止められない。
「と・り・あ・え・ず!」
バンッと強く机を叩き、マクロメイは緩やかな風を纏いつつ、見本にと持ってきた袋を開け、その場に綿花を溢れ出させる。
「こいつを精製する仕事をやるって言ってんだ。ひよっこ神官どもでもいいし、仕事に焙れてる奴らを雇うのでもいい。おそらくこいつぁ南方でもめったにお目にかかれない上物のはず。育つかどうかわからんが、種付きだ……一攫千金の約束はできねえが、植物研究部署に回して綿花畑をこの地域に展開して、地域民に富をもたらす方が、神事でっち上げ行事よかよっぽど感謝されるぜぇ?」
まるで悪魔の囁きである。
あるが──乗らない手はないと思えるほど確かに上等な綿花を実際に手を取り、ようやくマクロメイの出した条件を渋々飲んだ。
「……今日中にお前たちの研究の物を届けさせよう」
「ああ、いくらでも持って来いよ。ついでに麻袋をあと50は頼まぁ」
「なっ……?!」
驚いたのは上層部だけでなく、実際に綿花の詰まった麻袋を見たエクルーもである。
「ま、まさか……あの部屋にあったのが全部では……?」
「あの部屋にあったのは、麻袋に詰めれた分だけ~。残りは元・厩の端に部屋作って、結界の外で見つけるたびに持ち込んである」
親に二度も捨てられた『不幸な少年』は、どうやらとんでもない贔屓を自然からもたらされているようだった。
上の者たちにとってバルトバーシュの古代文献や神語の研究は貴重な財産のひとつであり、神殿が行う神事にも影響するため、問題児のマクロメイだけあの隔離された地に残し、少年とバルトバーシュを本館に戻す『寛大な処置』を提示されたのである。
翻って隔離チーム側としては、捌ききれない上等な綿花をすべて神殿側に持ち帰ってもらって精製し、地域貢献に間接的に貢献するから、バルトバーシュとマクロメイの研究に必要な物すべてをあっちに送って二度と関わって来るな──というのが、かみ砕いたマクロメイの要求だった。
むろんそれがそのまま受け入れられることはなく、マクロメイだけ置き去り、もしくはバルトバーシュと少年は本館に戻る代わりにマクロメイは毎日本館へ通って週末はミサのために本館に籠る、食糧など一切の援助拒否を解除してマクロメイだけは住みよいようにするなど、とにかく『お前は要らん』という条件ばかり突き付けられ、当然それが受け入れられるはずもない。
マクロメイとしても本館に戻って、僧兵隊や上層部と衝突しまくるよりは、魔法研究をし放題にできる元・廃屋側の広い敷地は格段の差がある。
だからと言って生贄の子羊を、むざむざと為政者たちに渡すつもりはない。
何せバルトバーシュの神語の研究にとって少年は文字通り『宝物』であるし、おそらく口減らしでどこかの森に捨てられた少年が人外とどのように生きてきたのかを研究し、『奇跡の子』として恩恵をもたらす象徴として担ぎ上げれば、辺境の地にあるということで重要な役目を担いながらも軽視されがちなこの聖ガイ・トゥーオン神殿の名を国中に知らしめて俗物的に『儲ける』ことが可能なのだ。
「あーあ。バルトバーシュが泣くぜぇ?あいつはいまだに、神殿のお偉いさん方に夢見てるんだから」
「マクロメイ!」
そっと窘めながらも、エクルーもあまりに自分たちの都合ばかり押し付ける条件しか示さない上層部に対し、冷ややかな視線になることを止められない。
「と・り・あ・え・ず!」
バンッと強く机を叩き、マクロメイは緩やかな風を纏いつつ、見本にと持ってきた袋を開け、その場に綿花を溢れ出させる。
「こいつを精製する仕事をやるって言ってんだ。ひよっこ神官どもでもいいし、仕事に焙れてる奴らを雇うのでもいい。おそらくこいつぁ南方でもめったにお目にかかれない上物のはず。育つかどうかわからんが、種付きだ……一攫千金の約束はできねえが、植物研究部署に回して綿花畑をこの地域に展開して、地域民に富をもたらす方が、神事でっち上げ行事よかよっぽど感謝されるぜぇ?」
まるで悪魔の囁きである。
あるが──乗らない手はないと思えるほど確かに上等な綿花を実際に手を取り、ようやくマクロメイの出した条件を渋々飲んだ。
「……今日中にお前たちの研究の物を届けさせよう」
「ああ、いくらでも持って来いよ。ついでに麻袋をあと50は頼まぁ」
「なっ……?!」
驚いたのは上層部だけでなく、実際に綿花の詰まった麻袋を見たエクルーもである。
「ま、まさか……あの部屋にあったのが全部では……?」
「あの部屋にあったのは、麻袋に詰めれた分だけ~。残りは元・厩の端に部屋作って、結界の外で見つけるたびに持ち込んである」
親に二度も捨てられた『不幸な少年』は、どうやらとんでもない贔屓を自然からもたらされているようだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました
鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。
そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。
「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。
ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね?
という「誰が勇者だ?」的な物語。
半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~
Bonzaebon
ファンタジー
東方一の武芸の名門、流派梁山泊を破門・追放の憂き目にあった落ちこぼれのロアは行く当てのない旅に出た。 国境を越え異国へと足を踏み入れたある日、傷ついた男からあるものを託されることになる。 それは「勇者の額冠」だった。 突然、事情も呑み込めないまま、勇者になってしまったロアは竜帝討伐とそれを巡る陰謀に巻き込まれることになる。
『千年に一人の英雄だろうと、最強の魔物だろうと、俺の究極奥義の前には誰もがひれ伏する!』
※本作は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
レアモンスターの快適生活 ~勇者や魔王に目を付けられずに、楽して美味しくスローライフしよう~
スィグトーネ
ファンタジー
剣と魔法のファンタジー世界。
その森の片隅に住む【栗毛君】と呼ばれるウマこそ、今回の物語の主人公である。
草を食んで、泥浴びをして、寝て……という生活だけで満足しない栗毛君は、森の中で様々なモノを見つけては、そのたびにちょっかいを出していく。
果たして今日の彼は、どんな発見をするのだろう。
※この物語はフィクションです
※この物語に登場する挿絵は、AIイラストさんで作ったモノを使用しています
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる