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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は妬まれる ①

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ターランド伯爵領の中心である領都で九歳の誕生日を迎える頃にはアーウェンの身長も少し伸び、こけた頬や落ち窪んだ眼はふっくらとして手足も胴体も肉付きがよくなっていた。
最初の頃はエレノアに付き従う従者のひとりと間違われもしたが、今では城にいる使用人はもちろん、城下町一帯に住んでいる者でアーウェンのことを知らない者はいない。
もちろん好意的な者ばかりではなく、痩せぎすな男の子が突然領主様の息子になって大事にされることに反発的な感情を抱く者もいる。
何より義父母と容姿の異なるターランド伯爵夫妻や令嬢と並ぶアーウェンはやはり異質で、彼に対して惜しみない愛情を注ぐのを羨んだり妬ましく思う者だっているのが当然だ。
だからこそ外出をする時にはアーウェンと護衛だけでなく、ラウド自身やヴィーシャム、そしてエレノアと共にいるのだが──

「……何だよ、アイツ」
「すっげぇ痩せっぽっちじゃん」
「お姫様キレイ~」
「あっ!手なんか繋いでる!」
煌びやかな一団に羨望の眼差しを向け、わずかに妬ましさを滲ませる数人の少年や少女たちは、ジッと小さな令嬢と仲良く歩く少年の動きを追っていた。
広すぎる王都の暗部である貧民街よりは目が届くとあって、さすがに領都には明日の食べ物すらないという家庭はないが、労働意欲がなければどうしたって貧富の差はできてしまう。
彼らはそういった自分ではどうしようもない親のもとに生まれてきてしまったために、十歳になってすぐにちょっとした手伝いで自分の食い扶持ぐらいは稼いでいる──そんな理不尽さを噛みしめて生きている者たちであった。

さすがに領主様の娘に嫉妬はしない。
もうそれは『生まれつきが違う』とキッパリ線が引かれている。
どう逆立ちしたって、自分の親は貴族ではないのだから。

だがあの突然現れた子供は違う。

この町で見たこともない、親が誰かもわからない。
ひょっとしたらちゃんと貴族の子どもかもしれないが、そう信じるにはあまりにも威厳がなく、むしろ自分たち側の子どもに見える。
いったいアレは何なのだ──

「あっ!」
「こらっ!待て!」
「ダメよ!チェリー!!」
だがそんな薄暗い感情がふわりと揺らぎ驚いた声が上がったのは、彼らの中でもひときわ小さな人影がタタタッと軽い足音を立てて、小さな花を持って駆け寄ったからだった。


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