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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は義兄に庇われる ①

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だがそこで半歩ほど後ろに下がるアーウェンに気がつき、何がと訝しんだリグレの首筋に少し棘のような感覚を覚える。
「……ペンティモン伯爵?」
「あ、ああ。いや、これはこれは……」
一拍置いてから呼びかけたリグレが盗み見たその顔は、一瞬溶け崩れそうになってから引き締められ、やや眼球を動かすと嫌悪と侮蔑を交わらせるという変化を見せ、さらにリグレに見せたのは人好きのする笑顔という目まぐるしくも信用のならない印象を持たせるに十分なものだった。
「昔知っていた子供に似ておりましてな……いや、子供というか、獣のような見た目と仕草でした。あんな立派な身なりでは……いや、しかし……あの黒髪……?」
記憶を探ろうとする目がまだ体幹が定まらないカーテシーをするエレノアに戻ると、今度こそ笑み崩れた──下卑た意味で。
何と表現していいかわからないが、とにかく妹を見せびらかすのは止めた方がいいと本能が警告を出すのに逆らわず、リグレはそっとエレノアとアーウェンに近付いた。
「この子はエレノア、私の妹です。後ろにいるのはアーウェン……私の義弟おとうとです」
「おとうと……?いや、それではターランド伯爵が迎え入れた養子というのは……なるほど……しかし、ずいぶん毛色が違うような」
「毛色?」
あまりにも貴族らしくない、いやひょっとしたらいかにも貴族らしい蔑むような目付きでアーウェンをジロジロと見定めた上で、ペンティモン伯爵は片頬を持ち上げた。
確かに茶色や黒い髪をしているのは平民に多いとはいえ、貴族にもいないわけではない──むしろ、金や白金、赤や青っぽいというように魔力に対応した髪色をしている方がよほど珍しい。
しかし髪色だけが魔力を示すわけではなく、実際身分に関係なく何の属性ともつかない魔力を持つ者は割と存在するのだ。

そして魔力があろうとなかろうと、リグレは新しい家族となった義弟が好きだった。
「確かに髪の色は私たちとは違いますが、我が家で訓練している髪色の違う警護兵の者たちのように、とても大切に思ってます」
「えっ…ウ……あ、ああ!そう、そうでしょうな!もちろん」
武力に関して国随一とはいえなくとも、諜報や広報、また魔法や魔術といった常人には成し得ない戦いでは追従を許さないと同時に、ターランド伯爵が自分の懐に入った者を手厚く保護するというのは王侯貴族の中では有名な話である。


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