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第一章 アーウェン幼少期

少年は歌を知る ④

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それはラウドたちにはよく聞き慣れた声──いや、歌だ。
ターランド伯爵領として王家より分け与えられるよりずっと前から、あの地方にある伝承歌。
地の精霊を、神を、自然を讃える美しい歌である。
ターランド領に産まれた者は皆、産声を上げた瞬間からその歌で生誕を讃えられ、事あるごとに歌われ、そして集まれば混声合唱が始まるほど身に沁みついている歌だ。
「しかし何だって今頃……?領地に着いてから祝い歌うのかと思っていたが」
「ええ。確かに……練習が足りていないようですが、騎士たちも混ざっているようですね。見てまいりましょうか?」
「……いや、私も久しぶりに歌いたくなった。行こう」
ロフェナは王都生まれであまり伝承歌に親しんではいないが、歌い手の中に聞き覚えのある声を聞きつけてほんのわずかに表情を緩めたが、そんな変化はおそらくラウドやロフェナの父であるバラットぐらいしかわからないだろう。


先発隊が行ったため野営していた場所はやや空いていて、そこにベンチが置かれている。
ちいさな背中が三つ並んで座っているが、その目の前ではバス、テナー、アルト、ソプラノと綺麗に分かれた即席合唱隊が伴奏もなくひとつ目の伝承歌を歌い終わるところだった。
バスの位置にあり皆よりやや前に立つ男は従者の中でも年長者であるが、今回はその者が指揮を執っているらしく、片手で三本の指を立てるともう片方の腕を上げて合図を送る。
リズムよく三回その腕が指揮棒のように振られると、今度は古い古い言葉──かつて呼ばれていたテーリャ地方語の歌が紡がれる。
まずはソプラノが歌い始め、追いかけるようにアルトとテナー、そして最後にバスが追いついて交じり合った声が美しくたなびいた。
かなり離れたところで最後に発つ者たちが食事をし、合唱に加わっていない兵たちが彼らの寝床やテントをしっかりと馬車にしまい込む。
その中にクレファーの家族もいるが、両親はともかく妹であるシェイラ・チュラン・グラウエスはその歌が始まると一瞬だけ手を止めこちらを一瞥もしないロフェナの背中を見ていたが、そそくさと食事を終えて片付けもそこそこに自分たちの馬車に戻った。
パチパチと小さな手で拍手が起こるとタイミングを見計らってラウドもその合唱隊に加わったが、誰も遠慮はしない。
それを見てアーウェンとカラは驚いた顔をしたが、エレノアは目をキラキラと輝かせる。
テナーの中列にラウドが収まったのを確認し、野営を平和に過ごせたこの地に感謝を伝える最後の讃美歌が歌われた。


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