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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己に手綱を戻す ③

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「確かにのぅ……いろいろと気配りも考えも足りんところがあったようじゃ。『年功序列』と考え、適材かどうかも考えずに王都での我が伯爵家の名代は長男、この町や領都は次男、そして三男はどこぞの貴族に婿入りできれば……と思うておったが。うぅむ……やはり、あやつの言うとおり、この町はコウジャに任せようかの」
「あやつ……?」
「うむ。コウジャの奴が、『母上の生まれた町を自分の名に改名するなど、領主代理として自覚はあるのか?!領民のことを考えず、単に自分の偉さを吹聴したいだけではないのか?!』と憤りおって……三男では我が領の後継ぎになれんから、そのように言っているのだとばかり……」
「コウジャは幼少より利発な子でしたからね。兄二人よりよほど貴族的な傲慢さはなく、いろいろと領地改良のために勉強していると聞きましたよ」
ラウドの年齢的には長男のカヤジャと少しばかり面識があるものの、三男のコウジャに至っては生まれた時に贈り物を持って挨拶に訪れて以来、ほぼ顔を合わせていない。
しかしその聡明さはなかなかのものという噂は聞いており、実際ターランド伯爵領から旅人を装ってグリアース伯爵家の内情をある程度は拾っていた。
次男の件に関してはグリアース本邸を出た後はあまり話も聞かれなかったことから、このアズ町で自分の身の丈に合った仕事をしているのだろうと情報収集を放置していたのだが、それがまさかこのような形で知己に警告することになろうとは──
「いずれにせよ、手遅れになる前に次男と三男の立場を入れ替えられた方が賢明でしょうね。幸いにも長男は領地経営よりも王都の生活の方が合っているようであるし」
「ふん……そうじゃの。あやつには王都での友人知人との顔繫ぎを任せるわい。早うこの町の評判回復も狙わんと……何が港町で商売じゃ!いっそ戻らんで、どこぞの漁師の婿になればええ!」
フンッ、フンッと鼻息も荒くグリアース伯爵は喚いたが、まさかそれが事実になるとは誰も予想はしなかった。


次男のクージャが戻るのを待たず、ターランド伯爵家一行がアズ町を発ってから七日後──
グリアース伯爵からの使いだという早馬が旅団に追いついてきた。
「とっ、当主様っ…よりっ……至急、知らせよっ……っと……」
息も絶え絶えに伝える使者は途中の村で早駆けに慣れていない馬を借り受けて乗り継ぎつつ走破し、これから野営を始めようと準備していた最後尾の者に気付いてもらって、領主のテントへと案内された。
「書簡はあるか?」
「いっ……いえっ……書簡は後ほど……まずはこの印書のみ預かり……略式ではありますがっ…領主代理交代の、ご報告を、と……」
ようやく息を整わせると、使者は懐からグリアース伯爵直筆の署名と印章を押印した紙を見せた。
「ふむ……確かに小父上の筆跡。確認した。申せ」
「ハッ……アズ町町長代理であるクージャ殿は、ターランド伯爵閣下ご一行がお発ちになった二日後に帰還されました。その際かなりの怪我を負っており、ご子息に付き添っていた者が負わせたものと判明いたしました」
「怪我?」
「ハッ。クージャ殿はその……『出張先』の港町でかなり羽振りよく過ごされ、気が大きくなられたのか……町の娘の家に押し入って無体を働きました。その父親が事後に娘に向かって金を投げつけているクージャ殿を見咎め、娘の身柄を引き取るようにと迫りました。むろんそのようなつもりはないとクージャ殿は言い返しましたが、その際に貴族の身分を明かすような物を持っておらず、ただの強姦魔として暴力を受けたのです」
「……それはまぁ……何とも、自業自得な。連れはいなかったのか?」
「娘に乱暴を働くようにとけしかけ、その様子を見ていたということですが、父親が戻ってきた時に素早く逃げたとのことです。今はグリアース伯爵家当主様が領にいた兵を直々に向かわせ、港町の警察と連携してその者たちの行方を追っております」
「者たち……ということは複数か?」
「ハッ。現在クージャ殿からは詳しく話が聞けないため、連れてきた娘の父親が当主様にお話しされております。この件に関しては解決次第、あるいは経過を閣下へお知らせするようにと仰せつかりました。解決の際にはコウジャ殿が新たな町長代理となり、クージャ殿は乱暴を働いた娘の家に婿に入ることとなっております」
乱暴を働いた上にその家に婿入りなど、ラウドはあまりの常識外れに驚く。
そのようなことをグリアース伯爵が許すはずもないのだが──
「その……私自身はその漁師の娘というのを見ておりませんが、どうやらずいぶん前から父親のいない隙を狙って売春していたようで……そうとう綺麗な娘だったため、クージャ殿もその気になったのだと……無体というより、その……合意の上そのような行為に及び、クージャ殿が上乗せした支払いをしていたところを見つかったようです……」
「なんとまあ……」
恥ずかしそうに告げる使者に向かい、ラウドは呆れたような声を上げる。
ある意味お似合いのふたりが、めあわせられたと言えるかもしれない。


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