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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己に手綱を戻す ②

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これ以上関わるのは他領への越権行為になるだろうという判断で、ターランド伯爵は手を引いた。
この町にあるグリアース伯爵家別邸にターランド伯爵家の者を『派遣』という形で置いていくことに文句が出たものの、それは領主であるタークジャ・デルー・デュ・グリアースやターニャ夫人が先に依頼し、残る者が了承した結果であり、それらを町民に咎められる謂れはない。
「全員文字が書ければ、筆記試験でもやって『貴族から金を巻き上げるべきかどうか』とか『価値観の合わないものは幼馴染みでも追い出した方がいいか』とか試験を行いたいぐらいじゃよ」
「ハハハ……そんなに識字率は低くはないでしょう?」
「……読むことはほぼできるだろうが、書く方となると……そのために町民全員に勉強するための学び舎を用意したのだがな。王都から持ち込まれる商品が多少高くなるのは致し方ないとは思っていたが……それを理由に貴族に吹っ掛けたり、自分たちが学ばずに済む言い訳にするとはな」
「お節介でなければ、我が領からも書物を安価にお譲りできないか検討させましょう。それとも読み物より、書く物が必要でしょうか?」
「そうじゃの。それよりここのバカ者どもを再教育してくれるような人物の方が必要かもしれんの……そちらは我が領都から連れてこようか」
ラウドからの申し出を頭を振って断るが、グリアース伯爵は溜め息をついた。
「何もこの町に住む者が大成すればよいというわけではない。真っ当に生きていてほしかったんじゃ。そのためには読み書きをし、他領の者たちとの取引を円滑にし、損をせずに心豊かに暮らしてくれれば……そうおもっとったんじゃがのぅ……」
「では小父上、何故小父上がこの町に教育機関を置こうと思ったのか、その真意をお話しください。単に『学べ』と押しつけられても、家業以外に遊ぶ時間を削られる意味が解らぬと反発され、『人を騙すのに有利だ』と思った者たちだけが身につけているのかもしれない。本当に学んでもっと学びたいと思う者を見過ごしているのかもしれない。この町で学ぶことは単なる一歩。次なる学び舎があることを知らねば、『ただの時間の無駄』と思われる。『学び』は子供のためだけではないと教えて差し上げれば」
「うぅむ……確かにの。何でもかんでも王都と同じにせねばと思い、その理由を知っているのは自分たちだけだったとは思っておらなんだ。ましてやそれを悪用とする者だけが学んでおったかもしれんとは……」
「いやいやいや。私が言ったこともまた例え。それを鵜呑みにするのは、小父上の悪い所ですよ!」
ラウドが慌てて言葉を添えると、老伯爵はキョトンとし、今言われたことをゆっくりと噛みしめる。


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