247 / 412
第一章 アーウェン幼少期
伯爵は知己に手綱を戻す ②
しおりを挟む
これ以上関わるのは他領への越権行為になるだろうという判断で、ターランド伯爵は手を引いた。
この町にあるグリアース伯爵家別邸にターランド伯爵家の者を『派遣』という形で置いていくことに文句が出たものの、それは領主であるタークジャ・デルー・デュ・グリアースやターニャ夫人が先に依頼し、残る者が了承した結果であり、それらを町民に咎められる謂れはない。
「全員文字が書ければ、筆記試験でもやって『貴族から金を巻き上げるべきかどうか』とか『価値観の合わないものは幼馴染みでも追い出した方がいいか』とか試験を行いたいぐらいじゃよ」
「ハハハ……そんなに識字率は低くはないでしょう?」
「……読むことはほぼできるだろうが、書く方となると……そのために町民全員に勉強するための学び舎を用意したのだがな。王都から持ち込まれる商品が多少高くなるのは致し方ないとは思っていたが……それを理由に貴族に吹っ掛けたり、自分たちが学ばずに済む言い訳にするとはな」
「お節介でなければ、我が領からも書物を安価にお譲りできないか検討させましょう。それとも読み物より、書く物が必要でしょうか?」
「そうじゃの。それよりここのバカ者どもを再教育してくれるような人物の方が必要かもしれんの……そちらは我が領都から連れてこようか」
ラウドからの申し出を頭を振って断るが、グリアース伯爵は溜め息をついた。
「何もこの町に住む者が大成すればよいというわけではない。真っ当に生きていてほしかったんじゃ。そのためには読み書きをし、他領の者たちとの取引を円滑にし、損をせずに心豊かに暮らしてくれれば……そうおもっとったんじゃがのぅ……」
「では小父上、何故小父上がこの町に教育機関を置こうと思ったのか、その真意をお話しください。単に『学べ』と押しつけられても、家業以外に遊ぶ時間を削られる意味が解らぬと反発され、『人を騙すのに有利だ』と思った者たちだけが身につけているのかもしれない。本当に学んでもっと学びたいと思う者を見過ごしているのかもしれない。この町で学ぶことは単なる一歩。次なる学び舎があることを知らねば、『ただの時間の無駄』と思われる。『学び』は子供のためだけではないと教えて差し上げれば」
「うぅむ……確かにの。何でもかんでも王都と同じにせねばと思い、その理由を知っているのは自分たちだけだったとは思っておらなんだ。ましてやそれを悪用とする者だけが学んでおったかもしれんとは……」
「いやいやいや。私が言ったこともまた例え。それを鵜呑みにするのは、小父上の悪い所ですよ!」
ラウドが慌てて言葉を添えると、老伯爵はキョトンとし、今言われたことをゆっくりと噛みしめる。
この町にあるグリアース伯爵家別邸にターランド伯爵家の者を『派遣』という形で置いていくことに文句が出たものの、それは領主であるタークジャ・デルー・デュ・グリアースやターニャ夫人が先に依頼し、残る者が了承した結果であり、それらを町民に咎められる謂れはない。
「全員文字が書ければ、筆記試験でもやって『貴族から金を巻き上げるべきかどうか』とか『価値観の合わないものは幼馴染みでも追い出した方がいいか』とか試験を行いたいぐらいじゃよ」
「ハハハ……そんなに識字率は低くはないでしょう?」
「……読むことはほぼできるだろうが、書く方となると……そのために町民全員に勉強するための学び舎を用意したのだがな。王都から持ち込まれる商品が多少高くなるのは致し方ないとは思っていたが……それを理由に貴族に吹っ掛けたり、自分たちが学ばずに済む言い訳にするとはな」
「お節介でなければ、我が領からも書物を安価にお譲りできないか検討させましょう。それとも読み物より、書く物が必要でしょうか?」
「そうじゃの。それよりここのバカ者どもを再教育してくれるような人物の方が必要かもしれんの……そちらは我が領都から連れてこようか」
ラウドからの申し出を頭を振って断るが、グリアース伯爵は溜め息をついた。
「何もこの町に住む者が大成すればよいというわけではない。真っ当に生きていてほしかったんじゃ。そのためには読み書きをし、他領の者たちとの取引を円滑にし、損をせずに心豊かに暮らしてくれれば……そうおもっとったんじゃがのぅ……」
「では小父上、何故小父上がこの町に教育機関を置こうと思ったのか、その真意をお話しください。単に『学べ』と押しつけられても、家業以外に遊ぶ時間を削られる意味が解らぬと反発され、『人を騙すのに有利だ』と思った者たちだけが身につけているのかもしれない。本当に学んでもっと学びたいと思う者を見過ごしているのかもしれない。この町で学ぶことは単なる一歩。次なる学び舎があることを知らねば、『ただの時間の無駄』と思われる。『学び』は子供のためだけではないと教えて差し上げれば」
「うぅむ……確かにの。何でもかんでも王都と同じにせねばと思い、その理由を知っているのは自分たちだけだったとは思っておらなんだ。ましてやそれを悪用とする者だけが学んでおったかもしれんとは……」
「いやいやいや。私が言ったこともまた例え。それを鵜呑みにするのは、小父上の悪い所ですよ!」
ラウドが慌てて言葉を添えると、老伯爵はキョトンとし、今言われたことをゆっくりと噛みしめる。
5
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる