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第一章 アーウェン幼少期
家庭教師は妹を諭す ③
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兄が理想の男性像だったシェイラにとって、兄より若くしかもろくでもない男たちを追い払ってくれたロフェナは、まさしく『運命の相手』と思い込んでも仕方なかったかもしれない。
何より市の男たちは軽蔑の対象であると同時に、潜在的トラウマの原因である。
たとえどんなにいい男が現れたとしても、同じ市の生まれというだけでシェイラは受け入れることを拒否していた。
だからこそ──『恋人がいるかもしれない』という可能性をひたすら考えないようにし、ロフェナが自分に向かって手を差し伸べてくれる『夢』を見たのだろう。
ニィザが言ったとおり、シェイラの願望はただの『夢』だった。
クレファーは泣きじゃくりながら足を引きずる妹を支えてロフェナとカラのテーブルから離れ、両親の下に連れて行く前に一礼した。
その意味はわかっている──妹の失言失礼を詫びるのと共に、絶対的な口止めを約束するもの。
これから先、彼女もまだ一緒に領地に戻るだろうが、きっとロフェナに熱い視線を送ることはないだろう。
少年ながら母と妹に対して責任を負おうという気概で今まで気持ちに余裕のなかったカラには、さすがにロフェナとシェイラのやりとりは刺激的過ぎたようで、クレファーが連れ去ってくれた今も涙で濡れた床を見つめて呆然としていた。
食事もすでに冷めてしまっているし、何よりどんなに珍しい異国の料理でも手を付けづらいだろう。
「……ちょっと気分が削がれてしまったから、何か別の物を頼もう。これを下げて……」
「いえ!食べます!いただいていいですかっ?!」
ロフェナが側に寄ってきた侍従に命じようとしたところをカラは勢いよく遮って、止める間も許可を出す間もなくシェイラが持ってきて無理やり置いた皿に手を伸ばして、躊躇いなく料理を口に運んだ。
温かい方が美味いに決まっているが、カラはそれでも異国の味に目を輝かせ、別の皿にも手を伸ばす。
「美味い……美味いです、ロフェナ様……本当に……美味いです……」
グッと涙ぐみながら、カラはゴクンと口の中の物を飲み下した。
ロフェナは手を付けないだろうと察したのか、食べられるだけどんどん料理を平らげていく。
仕方のない環境だったとしても、カラは自分の育った施設の厨房で働いていた。
更に今はアーウェンの専属侍従というだけでなく、食事も専任しているぐらいである──育ちからして出された物がどんなものであれ残すことなど考えられない環境であったろうし、また料理に携わった者として出された料理が無残に捨てられるかもしれないという可能性は考えるだに怖ろしいのだろう。
「……そうか。では私もいただくよ」
確かに持ってきた者に下心があったかもしれないが、それはこの皿の上にある料理には関係のないことだ。
食べられるために調理されたのに、それを無駄にすることは主人であるターランド伯爵閣下が厭うことである。
それを思い出して、ロフェナもまたカラがすべて食べてしまう前にと、自分もだいぶ少なくなったガブス料理に手を伸ばした。
何より市の男たちは軽蔑の対象であると同時に、潜在的トラウマの原因である。
たとえどんなにいい男が現れたとしても、同じ市の生まれというだけでシェイラは受け入れることを拒否していた。
だからこそ──『恋人がいるかもしれない』という可能性をひたすら考えないようにし、ロフェナが自分に向かって手を差し伸べてくれる『夢』を見たのだろう。
ニィザが言ったとおり、シェイラの願望はただの『夢』だった。
クレファーは泣きじゃくりながら足を引きずる妹を支えてロフェナとカラのテーブルから離れ、両親の下に連れて行く前に一礼した。
その意味はわかっている──妹の失言失礼を詫びるのと共に、絶対的な口止めを約束するもの。
これから先、彼女もまだ一緒に領地に戻るだろうが、きっとロフェナに熱い視線を送ることはないだろう。
少年ながら母と妹に対して責任を負おうという気概で今まで気持ちに余裕のなかったカラには、さすがにロフェナとシェイラのやりとりは刺激的過ぎたようで、クレファーが連れ去ってくれた今も涙で濡れた床を見つめて呆然としていた。
食事もすでに冷めてしまっているし、何よりどんなに珍しい異国の料理でも手を付けづらいだろう。
「……ちょっと気分が削がれてしまったから、何か別の物を頼もう。これを下げて……」
「いえ!食べます!いただいていいですかっ?!」
ロフェナが側に寄ってきた侍従に命じようとしたところをカラは勢いよく遮って、止める間も許可を出す間もなくシェイラが持ってきて無理やり置いた皿に手を伸ばして、躊躇いなく料理を口に運んだ。
温かい方が美味いに決まっているが、カラはそれでも異国の味に目を輝かせ、別の皿にも手を伸ばす。
「美味い……美味いです、ロフェナ様……本当に……美味いです……」
グッと涙ぐみながら、カラはゴクンと口の中の物を飲み下した。
ロフェナは手を付けないだろうと察したのか、食べられるだけどんどん料理を平らげていく。
仕方のない環境だったとしても、カラは自分の育った施設の厨房で働いていた。
更に今はアーウェンの専属侍従というだけでなく、食事も専任しているぐらいである──育ちからして出された物がどんなものであれ残すことなど考えられない環境であったろうし、また料理に携わった者として出された料理が無残に捨てられるかもしれないという可能性は考えるだに怖ろしいのだろう。
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確かに持ってきた者に下心があったかもしれないが、それはこの皿の上にある料理には関係のないことだ。
食べられるために調理されたのに、それを無駄にすることは主人であるターランド伯爵閣下が厭うことである。
それを思い出して、ロフェナもまたカラがすべて食べてしまう前にと、自分もだいぶ少なくなったガブス料理に手を伸ばした。
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