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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己の妻と邂逅する ①

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その後やはり食事だけで疲れてしまったアーウェンだったが、それでもラウドが話したいと希望すれば今までのように恐る恐るという感じではなく、トトトっと軽い足を立てて側へと寄ってくる。
その軽快さにやはりラウドは驚かざるを得ない。
そしていつも影というよりも、まるでアーウェン自身を背後から包むかのようにピッタリとくっついているカラは、あえて距離を取りアーウェン自身がしたいようにさせているように見える。
成長したのは義息子だけではないのかもしれない。


グリアース伯爵夫人は夕方には優雅に町へと到着した。
元々が町長の娘であり、表向きは愛想の良かった父親のおかげで、ターニャ夫人のことは無碍に扱われない。

しかし雰囲気が悪い。

自分がまだ結婚する前、息子にこの町を任せる前、そして「これからは息子を管理人としてよろしく頼む」と言った人たちの姿がほとんど見当たらないのだ。
夫がいるはずと思って訪ねた役場にいた顔見知りは以前からほとんど役職を与えられていなかった平職員ばかりだったが、その上の者というのが全く面識のない者ばかり──特に秘書だという女は明らかにこの近隣の町村の出ではない。
「……あなた、海地方の出ね?どうしてこの町にいらしたのかしら?」
確かに町政については手を出さなくなったとはいえ、領主は今まで通り夫であり、町民の増減や名や家族構成などと言った大切なことはきちんと報告されていたはずだが──
「え?別に……来たかったから、来ただけです。そんなの、あなたに関係ないでしょ」
「関係?ありますよ」
「は?」
「私はこの町の管理人であるクージャの母。領主であるタークジャ・デルー・デュ・グリアース伯爵の妻、ターニャ・クリウム・デュ・グリアースですよ。それで?あなたはいったいどなた?私はこの町で代々町長を勤めていた家の者。でもあなたは見たことがないわ。この者の戸籍を持っていらっしゃい!」
「えっ?えっ?何?マジ?!クージャが『俺の家は貴族だ!』とか言ってたけど、あれって本当なの?嘘でしょ?!あんなに礼儀のなってない男よ?あれなら商船の船長の方がまだ女の扱い方を知っているわよ?!」
「そう……では今すぐ荷物をまとめて、女の扱いの上手い殿方のいらっしゃる町へお行きなさい。名を名乗らないということは、この町の者ではないのだから。戸籍担当の者!責任者はいないのね?」
「はっ、はいっ……」
帳面を持ってきた男は確かターニャが息子に引き継いだ時は経理課の役職についていたはずだが、今は何も役を与えられていないという。
「その……上の者たちも皆、クージャ様と共に港町の方へその……し、視察…に……」
「視察?そう……では、夫は?」
「は…はい……その、お屋敷の方へ帳簿や収支会計の資料など、重要書類を持って寄こすようにと……あちらで調べると」
「そう。では私もあちらに参りますわ。先ほども言いましたが、あの名無しのどこぞの女はすぐに……いえ、逃げられてはあの人も困るでしょうね。ターランド伯爵様はまだこの町に逗留されているはずね?そちらにお預けして」
「はっ…はい!」
隙を見て逃げ出そうとしてたらしい女はあっという間に取り押さえられ、そのままターランド伯爵一行が逗留しているはずの宿屋へと連れられていった。


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