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第一章 アーウェン幼少期

老伯爵は決意を新たにする ③

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「普通ならばお前の母にグリアース伯爵が後ろ盾となることを許可してもらうのだが、私がお前の父代わりに許可しよう。グリアース伯爵が後見人となり、今後アーウェンの専属従者として、お前が第一にその背中を守ることを許す」
「はっ……はい……」

記憶がないとはいえ、アーウェンを、伯爵家の息子となった人を害そうとしたこと。
産まれや育ちを蔑まれることなく、ただの平民だというのに貴族の現当主が後見人となること。
そして──『父』という恐怖の対象が、ずっと立派な尊敬できる人物に変わったこと。

赦され、許され、そして満たされる。
カラはいったい自分がどんな徳を積んで、こんな褒美がもらえるのかとあまりの大きさに畏怖の念を抱くよりも先に、安堵の涙を流した。


アーウェンのためだけでなく、ターランド伯爵一家とその側近たちを滞在させるために、グリアース伯爵夫人のこの小さな家は大掃除することとなった。
アーウェンが寝かされた応接室でとりあえず一行が寛ぎ、その間にグリアース家で雇っている者たちだけでなく、まだ宿屋にいた下働きの者たちも呼ばれ、すべての部屋が整えられる。
さすがに両伯爵の本邸のような大きさではないため、すべての客室も食堂も浴室も厨房なども見違えるようになった。
「ほぅ……やっぱりターランドの魔術力ちからはすごいのぅ」
ニコニコとグリアース伯爵は機嫌がいい。
窓や扉を全開にし、埃やゴミなどを一斉に吹き飛ばしてまとめ、同じく風魔法で洗濯した物を次々と乾かす。
ゴミは燃える物はすべて火魔法で燃やされたり、土魔法で処理される。
水魔法で空気中から清らかな水を作り出し、わざわざ街の真ん中にある井戸まで汲みに行かずとも厨房に設置された汲み上げ機を正常に動かすために使ったり、浴室を綺麗に洗い流す。
ありえない光景に屋敷の者たちは恐れ慄いたが、グリアース伯爵は単純に感心し、さらに放置されっぱなしで枯れかけて荒れ放題だったサンルームの植物たちまでもが手入れされて生き生きとなっていることに喜んだ。
「ほっほぅ!妻は息子に任せたからと領地に引っ込んでしまったが、こりゃあすぐにでも連れてきてやらなければならんのぅ!」
「それは我々が出立してからになさってください。それよりも、ご依頼いただいた役所の件ですが……」
「おぁ!どうじゃった?」
「一言で言えば……『機能不全』といったところでしょうか。王都とは違って住民の流入出がないため、そちらはほぼ放置。町の整備などは定期的に行っているようですが……奥様が決めた事業が進んでおらず、他の町から職人を呼んで行うはずだったものがいくつか停止しています。そのための予算がどこかに流用されていますね」
「何?……いや、どこで使われているか、たぶん予想はつくが」
「ええ、あとはこの家の執務室に答えを見つけるべきかと」
「なるほど、なるほど」
ラウドはカラにそのままアーウェンの様子を見るようにと言い付け、グリアース伯爵とともに、本来ならば母からさまざまな権利と義務を引き継いだ息子のクージャが仕事を行っていたはずの執務室へ向かった。


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