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第一章 アーウェン幼少期
少年従者は自分の罪を告白する ③
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『捨てられる』──その意味をよくわかりもせず、カラは虚ろなままアーウェンのスープにその黒い薬を溶かし入れ続けた。
下働きなど、運よく高位貴族の養子になれた子供と顔を合わせることなどない。
だから厨房や食堂の給仕をする者たちがいかにも心配そうに、新しい子供の食だけでなく、その身体が細すぎることに心を痛め、同情を寄せてどうしたら健康になるかと話すのを鼻で笑っていた。
「偽善者が……」
「え?」
食堂にいた頃と同じ、厨房の隅で冷たい水を使って他の下働きたちと野菜を洗いながら、カラはボソッと呟いた。
水道管を通して贅沢に地下水を使える環境を素晴らしいと思いながら、けっきょくは金に飽かせて作った物だと思うと忌々しく思う。
口の奢った貴族がカラたちのような者たちが暮らす貧困救済施設に併設する食堂に来るとは思えなかったが、単に下賤の女を味わいたいと、貧しい者たちに施しを与えるというご立派な言い訳を持って売春を行う上階にこっそり訪れる者がいたのも知っていた。
この屋敷の主と顔を合わせたことはなかったが、きっと他の貴族と変わることはない──単に見せかけのためだけにどこかから死にかけの子供を引き取っただけだろう。
そうカラは思っていた。
だが、まさか自分自身も呪われているとは思わなかった。
リグレといういかにも貴族子息らしい所作の跡取り息子が帰ってきて、カラが給仕の仕事を一時的に与えられ、初めて自分の雇い主の顔を見たが、どこまでも上品で厳めしく、そして家族を大事にするのと同じように、痩せこけて異常な様子の子供がひと匙ずつ、ほんの少しずつ食事をとるのを見つめる。
その眼差しには貴族として責務を果たしてやったとか、貧しすぎる子供を養育してやっているという優越感はまったく伺えず、本当の父親のように見守っていた。
ズルイ。
カラは自分の父親のことをよく覚えていないが、あまり良い感じではなかった気がする。
大きい身体の男が腕を振り上げて伸びをするたびにビクッと身体が竦むのは、ひょっとしたら覚えていないぐらい小さい頃に父親に何かされたのかもしれない。
母が自分を抱き締めるたびに、その陰に隠れて絶対に出てはいけないと何度も囁くように、叫ぶように言い続ける声を思い出したのはどういうことだろう。
その母が自分や妹が楽しそうに食べるのを微笑んでみているように、貴族の奥様がひと匙分のスープを飲み込むのを嬉しそうに見るのか──ああ、それにはたぶん、坊ちゃまには良くない薬が入っているのに。
そう思った瞬間、記憶が途切れた。
ぐるぐると頭が回る感じで時間が巻き戻り、カラが見下ろす手元には荷物が詰め込まれた古ぼけた鞄があり、育ててもらった恩を忘れて出て行く恩知らずと罵られる声が降りかかってくる。
そしてまた時間が進んで──その時には、カラは自分がやってしまったことをすべて忘れてしまっていた。
下働きなど、運よく高位貴族の養子になれた子供と顔を合わせることなどない。
だから厨房や食堂の給仕をする者たちがいかにも心配そうに、新しい子供の食だけでなく、その身体が細すぎることに心を痛め、同情を寄せてどうしたら健康になるかと話すのを鼻で笑っていた。
「偽善者が……」
「え?」
食堂にいた頃と同じ、厨房の隅で冷たい水を使って他の下働きたちと野菜を洗いながら、カラはボソッと呟いた。
水道管を通して贅沢に地下水を使える環境を素晴らしいと思いながら、けっきょくは金に飽かせて作った物だと思うと忌々しく思う。
口の奢った貴族がカラたちのような者たちが暮らす貧困救済施設に併設する食堂に来るとは思えなかったが、単に下賤の女を味わいたいと、貧しい者たちに施しを与えるというご立派な言い訳を持って売春を行う上階にこっそり訪れる者がいたのも知っていた。
この屋敷の主と顔を合わせたことはなかったが、きっと他の貴族と変わることはない──単に見せかけのためだけにどこかから死にかけの子供を引き取っただけだろう。
そうカラは思っていた。
だが、まさか自分自身も呪われているとは思わなかった。
リグレといういかにも貴族子息らしい所作の跡取り息子が帰ってきて、カラが給仕の仕事を一時的に与えられ、初めて自分の雇い主の顔を見たが、どこまでも上品で厳めしく、そして家族を大事にするのと同じように、痩せこけて異常な様子の子供がひと匙ずつ、ほんの少しずつ食事をとるのを見つめる。
その眼差しには貴族として責務を果たしてやったとか、貧しすぎる子供を養育してやっているという優越感はまったく伺えず、本当の父親のように見守っていた。
ズルイ。
カラは自分の父親のことをよく覚えていないが、あまり良い感じではなかった気がする。
大きい身体の男が腕を振り上げて伸びをするたびにビクッと身体が竦むのは、ひょっとしたら覚えていないぐらい小さい頃に父親に何かされたのかもしれない。
母が自分を抱き締めるたびに、その陰に隠れて絶対に出てはいけないと何度も囁くように、叫ぶように言い続ける声を思い出したのはどういうことだろう。
その母が自分や妹が楽しそうに食べるのを微笑んでみているように、貴族の奥様がひと匙分のスープを飲み込むのを嬉しそうに見るのか──ああ、それにはたぶん、坊ちゃまには良くない薬が入っているのに。
そう思った瞬間、記憶が途切れた。
ぐるぐると頭が回る感じで時間が巻き戻り、カラが見下ろす手元には荷物が詰め込まれた古ぼけた鞄があり、育ててもらった恩を忘れて出て行く恩知らずと罵られる声が降りかかってくる。
そしてまた時間が進んで──その時には、カラは自分がやってしまったことをすべて忘れてしまっていた。
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