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第一章 アーウェン幼少期
少年は『教師』を得る ②
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あまりにも──ラウド自身はそんなつもりはなかったのだが──長く店員を引き留めてしまったせいか、店主の妻らしき人物が怒りを湛えてこちらにやってきた。
「お客様?うちの店員が何か……?」
「ああ、いやすまない。この店に置いてある品物が珍しくてね。どうやったら手に入るのかを知りたかったのだが……どうやらこのお嬢さんには伝わらなかったらしい」
「え?あれらに……興味が、おありなんですか?」
キョトンと丸くした目からは怒りが消え、代わりに喜色が浮かぶのを見て、ラウドは改めて年かさの女を見る。
それはウェルエスト人だけでなく、おそらくあの土産物たちと同じ国──同盟国のガブス共和国人の特徴である濃い紺色の目と浅黒い肌を持ち合わせている女性だった。
「嬉しいねぇ、旦那様!アタシの母親がガブスの出身でねぇ。行商でまわるのにくっついてきた時、この国で父に見初められて。もっともけっこう美人だったから、行く先々で妾にとか愛人に…とかバカみたいに下に見られて嫌気が差していたところで、父だけが正式に婚姻を申し込んでくれたんです」
「ほう……この娘さんより、あなたの話の方が聞きがいがありそうだ。異国の話は妻がとても好きでしてね。あまりお忙しいようでなければ、どうか話し相手になっていただきたい」
「えっ!いいんですかっ?!母の故郷の話を聞いてくれる人なんて、この市にはいなくって……逆に避けられる始末なんですよ。ほら、あんたはさっさと厨房に行って、料理を作ってもらいな!」
「チッ……あ、はぁ~い……」
小さくはあったが舌打ちの音を鳴らしてから、店員の娘は渋々とラウドから離れた。
その際にヴィーシャムとラリティスをそれぞれ睨みつけたが、ふたりとも完全に無視し、視線に気づいて怯える小さな令嬢をあやすのを見て足音高く店の奥にある厨房へと入っていく。
「……まったく、あいすみません。そんなに悪い子じゃぁないんですよ?ただ……少しばかり、結婚願望が強すぎて」
「だから既婚者を、誰彼構わず誘惑する…と?」
「まったくねぇ……あの子こそ、いい人を見つけてほしいもんです。曰く『結婚してるってことは、結婚できるってことでしょう?だったら、若いアタシの方が断然奥さんに良いじゃない!』……ってね。結婚ってそういうものじゃないよと言っても聞く耳を持ちゃぁしない。しかもお金持ちそうな貴族様だったらなお良しってね……」
だいたい妻同伴で来店した客に粉を掛けて引っかかるような男であれば碌な者ではないとわかりそうなものなのに、何故そこまで考えが及ばないのか──
「アタシの母さ……母の国ではまあ貧富の差があるから、お金持ちの人が議会院っていう組織で物事を決めます。代わりに貴族っていう制度がないんです。ほら、この市にある『市議会』ってあるでしょう?あれをやろうって決めたのが、キンフェニー公爵様のお祖父様で。きっかけはアタシのひいお祖父さんがやっぱり行商でこのキンフェニー領に来たからだとか」
「……楽しいお話ですが、失礼してお聞きしたいことがあるのですが?」
「え?あ、ああ!はいはい。ごめんなさいよ!旦那様から奥様のお話し相手にって言われたのに、もうおしゃべりですみませんねぇ。で、奥様、聞きたいことって何ですか?あの織物の値段でしたら、勉強させていただきますよ!」
ヴィーシャムが割って入るのにも別に機嫌を悪くせず、気の良さそうなその店主の妻はにっこり笑って売り込みに入った。
「お客様?うちの店員が何か……?」
「ああ、いやすまない。この店に置いてある品物が珍しくてね。どうやったら手に入るのかを知りたかったのだが……どうやらこのお嬢さんには伝わらなかったらしい」
「え?あれらに……興味が、おありなんですか?」
キョトンと丸くした目からは怒りが消え、代わりに喜色が浮かぶのを見て、ラウドは改めて年かさの女を見る。
それはウェルエスト人だけでなく、おそらくあの土産物たちと同じ国──同盟国のガブス共和国人の特徴である濃い紺色の目と浅黒い肌を持ち合わせている女性だった。
「嬉しいねぇ、旦那様!アタシの母親がガブスの出身でねぇ。行商でまわるのにくっついてきた時、この国で父に見初められて。もっともけっこう美人だったから、行く先々で妾にとか愛人に…とかバカみたいに下に見られて嫌気が差していたところで、父だけが正式に婚姻を申し込んでくれたんです」
「ほう……この娘さんより、あなたの話の方が聞きがいがありそうだ。異国の話は妻がとても好きでしてね。あまりお忙しいようでなければ、どうか話し相手になっていただきたい」
「えっ!いいんですかっ?!母の故郷の話を聞いてくれる人なんて、この市にはいなくって……逆に避けられる始末なんですよ。ほら、あんたはさっさと厨房に行って、料理を作ってもらいな!」
「チッ……あ、はぁ~い……」
小さくはあったが舌打ちの音を鳴らしてから、店員の娘は渋々とラウドから離れた。
その際にヴィーシャムとラリティスをそれぞれ睨みつけたが、ふたりとも完全に無視し、視線に気づいて怯える小さな令嬢をあやすのを見て足音高く店の奥にある厨房へと入っていく。
「……まったく、あいすみません。そんなに悪い子じゃぁないんですよ?ただ……少しばかり、結婚願望が強すぎて」
「だから既婚者を、誰彼構わず誘惑する…と?」
「まったくねぇ……あの子こそ、いい人を見つけてほしいもんです。曰く『結婚してるってことは、結婚できるってことでしょう?だったら、若いアタシの方が断然奥さんに良いじゃない!』……ってね。結婚ってそういうものじゃないよと言っても聞く耳を持ちゃぁしない。しかもお金持ちそうな貴族様だったらなお良しってね……」
だいたい妻同伴で来店した客に粉を掛けて引っかかるような男であれば碌な者ではないとわかりそうなものなのに、何故そこまで考えが及ばないのか──
「アタシの母さ……母の国ではまあ貧富の差があるから、お金持ちの人が議会院っていう組織で物事を決めます。代わりに貴族っていう制度がないんです。ほら、この市にある『市議会』ってあるでしょう?あれをやろうって決めたのが、キンフェニー公爵様のお祖父様で。きっかけはアタシのひいお祖父さんがやっぱり行商でこのキンフェニー領に来たからだとか」
「……楽しいお話ですが、失礼してお聞きしたいことがあるのですが?」
「え?あ、ああ!はいはい。ごめんなさいよ!旦那様から奥様のお話し相手にって言われたのに、もうおしゃべりですみませんねぇ。で、奥様、聞きたいことって何ですか?あの織物の値段でしたら、勉強させていただきますよ!」
ヴィーシャムが割って入るのにも別に機嫌を悪くせず、気の良さそうなその店主の妻はにっこり笑って売り込みに入った。
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