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第一章 アーウェン幼少期
少年は謝罪を受ける ③
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アーウェンがようやく落ち着くと、今度ログナス・ディーファン・ルッツ・ルアン伯爵がすっくと立ちあがり、アーウェンのすぐ横の床に跪く。
アーウェンはその勢いにビクリと身体を強張らせたが、ルアン伯爵が片膝を立てて拳を床につけた姿勢で頭を下げているのを見、ついで義父の顔を見上げた。
「アーウェン。これが『騎士の礼』だ。お前はこれから我が領地へ戻り、勉強し、そしていずれは騎士か警護兵となるだろう。だからこそ、この過ちを犯した男の正しき『謝罪の礼』を受け、考え、許すか許さないかを決定しなければならない」
「きし……れい……?」
「まずは聞こう。ログナス・ディーファン・ルッツ・ルアン伯爵卿」
「ハッ……まずは、アーウェン殿。私はログナス・ディーファン・ルッツ・ルアン伯爵。この度私は、あなたが正式なターランド伯爵ご夫妻の嫡子ではなく、養子であることを侮り、礼を失したことをあなたのお義父上に申し上げました。あなたの生い立ちや、王都でのターランド伯爵閣下の下での生活を存ぜぬこととはいえ、あなたを軽んじてよいことではありません。騎士として、ルアン伯爵家当主として、恥ずべき行為を謝罪申し上げます。謹んでお受入ください」
「…つ、つしん……で……?」
長口上であり、またアーウェンには理解しづらい言葉ばかりで、何を言われているのか半分も理解できず、アーウェンは義父をまた見上げた。
「ログラス……もう少し優しく言えないか?」
「え…えぇと……も、申し訳ない……我が家には後継ぎがおらず、子供と接したことがないもので……」
「まったく……要はこのおじさんが『アーウェンをバカにしてごめんね!許してね!』と言っているのだよ」
「は…バ…カ……?」
危うくログラスがまた『この子はやはり知能が足りないのでは?』と言いかけるようなことを、ポカンとするアーウェンは呟いた。
「あの……とう、さま……『バカ』って、ぼくは、そう……ですよね?」
ターランド伯爵家で、アーウェンに対してそう呼んだことはない。
会話の中で『バカだなぁ』というほんわりした表現はあったかもしれないが──少なくとも、アーウェン本人を指して『バカ』という呼称で呼んだことはないはずだ。
ということは──
「サウラス男爵……いや、お前のお父上が、お前をそう呼んでいた…と……?」
「え…え…は……い……あの……お食事を持っていくと『バカが!こんなに遅く持ってきおって!冷めてしまったではないか!』って……あの……はい」
何故か少しだけ胸を張ってサウラス男爵の口真似をすると、アーウェンは顔を突き出してギュッと目を瞑った。
「ア…アーウェン……?何を、している……?」
「……あの……ロアン様のお家にいる時の兵隊さんの前で、とうさまの真似をしたらこうしろって……それでほっぺたをギューッと。それで……えぇと……『おとうさまのまねをして、ごめんなさい』って、こう……」
そう言いながらアーウェンは真っ赤になるほど自分の両頬を抓って引っ張り、ついでラウドの横からソファを滑り降りると、ログラスと向かい合う位置で額を床に擦りつける土下座をしてみせた。
「そうすると、兵隊さんたちが笑ったんです。だから、僕もこうして笑って……」
そう言いながらニパッと笑ってみせたアーウェンの顔は、とてもではないが『可愛らしい』とは言えない、とてもとても下卑た笑顔だった。
アーウェンはその勢いにビクリと身体を強張らせたが、ルアン伯爵が片膝を立てて拳を床につけた姿勢で頭を下げているのを見、ついで義父の顔を見上げた。
「アーウェン。これが『騎士の礼』だ。お前はこれから我が領地へ戻り、勉強し、そしていずれは騎士か警護兵となるだろう。だからこそ、この過ちを犯した男の正しき『謝罪の礼』を受け、考え、許すか許さないかを決定しなければならない」
「きし……れい……?」
「まずは聞こう。ログナス・ディーファン・ルッツ・ルアン伯爵卿」
「ハッ……まずは、アーウェン殿。私はログナス・ディーファン・ルッツ・ルアン伯爵。この度私は、あなたが正式なターランド伯爵ご夫妻の嫡子ではなく、養子であることを侮り、礼を失したことをあなたのお義父上に申し上げました。あなたの生い立ちや、王都でのターランド伯爵閣下の下での生活を存ぜぬこととはいえ、あなたを軽んじてよいことではありません。騎士として、ルアン伯爵家当主として、恥ずべき行為を謝罪申し上げます。謹んでお受入ください」
「…つ、つしん……で……?」
長口上であり、またアーウェンには理解しづらい言葉ばかりで、何を言われているのか半分も理解できず、アーウェンは義父をまた見上げた。
「ログラス……もう少し優しく言えないか?」
「え…えぇと……も、申し訳ない……我が家には後継ぎがおらず、子供と接したことがないもので……」
「まったく……要はこのおじさんが『アーウェンをバカにしてごめんね!許してね!』と言っているのだよ」
「は…バ…カ……?」
危うくログラスがまた『この子はやはり知能が足りないのでは?』と言いかけるようなことを、ポカンとするアーウェンは呟いた。
「あの……とう、さま……『バカ』って、ぼくは、そう……ですよね?」
ターランド伯爵家で、アーウェンに対してそう呼んだことはない。
会話の中で『バカだなぁ』というほんわりした表現はあったかもしれないが──少なくとも、アーウェン本人を指して『バカ』という呼称で呼んだことはないはずだ。
ということは──
「サウラス男爵……いや、お前のお父上が、お前をそう呼んでいた…と……?」
「え…え…は……い……あの……お食事を持っていくと『バカが!こんなに遅く持ってきおって!冷めてしまったではないか!』って……あの……はい」
何故か少しだけ胸を張ってサウラス男爵の口真似をすると、アーウェンは顔を突き出してギュッと目を瞑った。
「ア…アーウェン……?何を、している……?」
「……あの……ロアン様のお家にいる時の兵隊さんの前で、とうさまの真似をしたらこうしろって……それでほっぺたをギューッと。それで……えぇと……『おとうさまのまねをして、ごめんなさい』って、こう……」
そう言いながらアーウェンは真っ赤になるほど自分の両頬を抓って引っ張り、ついでラウドの横からソファを滑り降りると、ログラスと向かい合う位置で額を床に擦りつける土下座をしてみせた。
「そうすると、兵隊さんたちが笑ったんです。だから、僕もこうして笑って……」
そう言いながらニパッと笑ってみせたアーウェンの顔は、とてもではないが『可愛らしい』とは言えない、とてもとても下卑た笑顔だった。
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