66 / 412
第一章 アーウェン幼少期
伯爵は義息子の安全を優先する ①
しおりを挟む
どうやったらそんなものがアーウェンの身体の中に入るというのか──だいたい古代種などという代物がまだ現存するとしても、その貴重性から王都内ではほぼ貧しい庶民レベルで生活していた男爵家では、当主でも手に入れられまい。
「確かに、サウラス男爵が王都内で怪しい連中と付き合った……という報告はありますが、それは一獲千金を狙ったものだったようで、違法性のある物資の購入などではないと」
「一攫千金?」
「……要はギャンブルです。小銭程度ですが、懐を温めて帰っていくことが多かったという証言もあります。まぁ……裏道で狙われるほどの儲けではなかったので、今まではそう咎められることもなかったようです」
ラウドは報告書をいやいや眺めると、大きなため息をついた。
アーウェンのためにと用意した支度金がそんなことのために使われていたとは──
「あ、いえ。それはお支度金使い込みの前までです。現在は伯爵家から派遣した執事が采配を振るい、何とか質の悪い連中とは縁を切らせることに成功したということです。そのことはサウラス男爵夫人の血縁であるキャステ家の商会方面からも調査が入り、愚かなことに彼を引き抜こうとしたらしいですが」
「……サウラスも大概だと思ったが、キャステ家も阿呆ぞろいなのか?」
「商業の発展に熱心だと言い変えればよろしいかと」
バラットが嘲笑を浮かべる。
サウラス家の没落は火を見るより明らかで、放置すれば次期当主になるはずの長男が引き継いだ途端に王都の屋敷は崩れて、名実ともに男爵家が潰れるかもしれない。
「おそらくその件の首謀者は前キャステ家当主殿か?であれば、逆にサウラス男爵が自滅するように仕向け、娘と孫を自分たちの手元に引き取り、ついでに有能な者を配下に置く……か。小賢しいにも程がある」
「すでに次男と三男は商会に取り込み済みですしね。ついでにアーウェン様を生まれてすぐに引き取って下されば、あのようにひどい生活を送られなかったはずですのに……」
「まあ……手遅れになる前に我が家に迎えられた。キャステ家に引き取られてしまっていては……」
「いえ、過ぎた話をいつまでもしていては…ふ…ふふふ……」
「ああ、そうだな……クッ…ハハ……ハハハ……」
悩ましい話をしているはずなのに、ラウドとバラットの顔はアーウェンがターランド伯爵家にいるということでニヤつき、だんだんと笑いが止まらなくなっていく。
このままでは不気味な笑いが止まらないと見て、魔術師長が咳払いをして注意を促した。
「……伯爵閣下……それよりも、古代種の話ですが……」
「あっ……あぁ、うんっ…ウゥンッ!も、申し訳ない。つい……いや、それで…古代種は本当にもう生息していないのか?」
「そう…ですね……『絶滅した』というのは、『野生種が茂っている古代森』が見つかっていないということです。『魅惑の実』の有毒性を弱毒化し、観賞用に栽培されている人工種は現存します。ただし結実しても石のように固く小さな実が生るだけで、古代種と同じ毒性を得ようとしても数百本分の実を収穫し、胡麻粒ほどの種を取り出すために地面に植え、発芽する前に掘り出して、干して、擂り潰して……とにかく時間も手間もかかります。しかも時間が経つにつれ、毒性は抜けてしまうのです」
「何ともまぁ……手をかけるだけ無駄となりそうな毒の集め方ですね……」
魔術師長の説明に、バラットが呆れた声を上げた。
「ええ。ですので、もっと手軽に毒を得るために古代種を手に入れようとすれば、王家であっても宝蔵のひとつが空になるほどの対価を払わねばならないでしょう。しかも完全に水分が抜けた状態でなければ加工しても腐ってしまうため、乾燥させて利用するためには少なく見積もっても三年はかかります。ですが……」
「ですが?」
躊躇い口籠る魔術師に、ラウドは眉を上げ、バラットが先を続ける言葉を投げかけた。
「確かに、サウラス男爵が王都内で怪しい連中と付き合った……という報告はありますが、それは一獲千金を狙ったものだったようで、違法性のある物資の購入などではないと」
「一攫千金?」
「……要はギャンブルです。小銭程度ですが、懐を温めて帰っていくことが多かったという証言もあります。まぁ……裏道で狙われるほどの儲けではなかったので、今まではそう咎められることもなかったようです」
ラウドは報告書をいやいや眺めると、大きなため息をついた。
アーウェンのためにと用意した支度金がそんなことのために使われていたとは──
「あ、いえ。それはお支度金使い込みの前までです。現在は伯爵家から派遣した執事が采配を振るい、何とか質の悪い連中とは縁を切らせることに成功したということです。そのことはサウラス男爵夫人の血縁であるキャステ家の商会方面からも調査が入り、愚かなことに彼を引き抜こうとしたらしいですが」
「……サウラスも大概だと思ったが、キャステ家も阿呆ぞろいなのか?」
「商業の発展に熱心だと言い変えればよろしいかと」
バラットが嘲笑を浮かべる。
サウラス家の没落は火を見るより明らかで、放置すれば次期当主になるはずの長男が引き継いだ途端に王都の屋敷は崩れて、名実ともに男爵家が潰れるかもしれない。
「おそらくその件の首謀者は前キャステ家当主殿か?であれば、逆にサウラス男爵が自滅するように仕向け、娘と孫を自分たちの手元に引き取り、ついでに有能な者を配下に置く……か。小賢しいにも程がある」
「すでに次男と三男は商会に取り込み済みですしね。ついでにアーウェン様を生まれてすぐに引き取って下されば、あのようにひどい生活を送られなかったはずですのに……」
「まあ……手遅れになる前に我が家に迎えられた。キャステ家に引き取られてしまっていては……」
「いえ、過ぎた話をいつまでもしていては…ふ…ふふふ……」
「ああ、そうだな……クッ…ハハ……ハハハ……」
悩ましい話をしているはずなのに、ラウドとバラットの顔はアーウェンがターランド伯爵家にいるということでニヤつき、だんだんと笑いが止まらなくなっていく。
このままでは不気味な笑いが止まらないと見て、魔術師長が咳払いをして注意を促した。
「……伯爵閣下……それよりも、古代種の話ですが……」
「あっ……あぁ、うんっ…ウゥンッ!も、申し訳ない。つい……いや、それで…古代種は本当にもう生息していないのか?」
「そう…ですね……『絶滅した』というのは、『野生種が茂っている古代森』が見つかっていないということです。『魅惑の実』の有毒性を弱毒化し、観賞用に栽培されている人工種は現存します。ただし結実しても石のように固く小さな実が生るだけで、古代種と同じ毒性を得ようとしても数百本分の実を収穫し、胡麻粒ほどの種を取り出すために地面に植え、発芽する前に掘り出して、干して、擂り潰して……とにかく時間も手間もかかります。しかも時間が経つにつれ、毒性は抜けてしまうのです」
「何ともまぁ……手をかけるだけ無駄となりそうな毒の集め方ですね……」
魔術師長の説明に、バラットが呆れた声を上げた。
「ええ。ですので、もっと手軽に毒を得るために古代種を手に入れようとすれば、王家であっても宝蔵のひとつが空になるほどの対価を払わねばならないでしょう。しかも完全に水分が抜けた状態でなければ加工しても腐ってしまうため、乾燥させて利用するためには少なく見積もっても三年はかかります。ですが……」
「ですが?」
躊躇い口籠る魔術師に、ラウドは眉を上げ、バラットが先を続ける言葉を投げかけた。
4
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
隠された第四皇女
山田ランチ
ファンタジー
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる