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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は男爵を問い詰める ③

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眠るか、食べるか、飲むか──ひたすらその行動のみを繰り返し、サウラス男爵は雑談すらしない。
いや──誰に聞かせるともなくアーウェンに対してブツブツと漏らすのだが、それは同じことの繰り返しで、聞くに堪えない呪詛のようなものだった。
「……クソッ……なぜだ……なぜ、アーウェンは生きているんだ……アーウェンさえいなければ……ヒューデリクが伯爵になるのに……あいつさえ……あいつは……ヒューデリクの下にいればいいんだ……」
「なぜ、アーウェンが生きていてはいけないのだ?なぜ、ヒューデリクという息子が私の後継者になると?」
「クソ……伯爵がアーウェンなんか欲しがるから……使い潰せばいいのに……なぜ、飼い続けているんだ……あんな出来損ない……何故あんなのを……」
「聞けっ!!」
バンッ!と牢格子を叩くと、ようやく男爵の目がこちらを向いたが、虚ろな目つきなのに憎しみを込めてラウドに聞かせるともなくまた呟き始める。
「あんな役立たず……棒切れを振り回すしか能のない……ヒューデリクの方が……あんなのが生き続けていたから……あの時死んでしまえば・・・・・・・・・・……あいつに薬なぞ……もったいない……ヒューデリクのために……」
ゾッとしてラウドがわずかに後ずさると、ニィッと口が裂けたような笑いを浮かべた。
『だよねぇ……?アレは……どんなに魔力を注いだって役には立たなかった……もういない……だから……サウラス家の末子・・を……養子になるのは……末の息子・・・・……今や、末の息子はヒューデリク……ヒヒヒ……』
幼子のような口調と声がだんだんと大人のようになり、老人のように掠れて消えていく──それは超速で成長し老化していくのを見せられているようだった。
「……誰だ、お前は………?」
『オ…ぼ…わ…ク…し……』
ブヨブヨと声は重なり水の中にいるようにこもり、だらしなく広がって消えていく。
それは男爵の目の色も同じだった。

「………気を失っています」
「……まったく話にならん。いや、話をすることすら不可能ということか……どうなのだ?本人の『意識』はあるのか?」
「難しいですね……名前を聞いたことはないのですが、サウラス男爵家は魔力が強い家系でしたでしょうか?」
念のために牢格子に強力な防御魔法をかけていた魔術師が首を捻って、ラウドに尋ねた。
だがその言葉に伯爵は首を横に振るしかない。
「ターランド直系は確かに魔力は強く伝わるし、その得意分野は様々に渡るが、サウラス男爵家を興すに至った大叔母にあたる女性にはほぼその才はなかったと聞く。そのため、一族の末端として名は残ったが……アーウェンの実母殿の家系であるキャスデ家は、名を遺すほどではなくとも剣が得意な者が時折り輩出されたとは聞いたことがある」
「……さようでございますか。しかし、サウラス卿の正気かどうかもわからない言ではありますが、先祖返り的に魔力が強い子息がいらっしゃってもおかしくはないのかもしれません……」
「それが全ての元凶だと?」
「いえ……それは考えづらい。アーウェン様とはひとつ違いとお聞きしました。であれば、末子としてお生まれになった時には、その兄上はまだ一歳になるかならぬかだと思うのですが……」
「クソッ……そうなると、アーウェンやカラに忍ばされていた黒い糸や欠片などの繋がりが無くなってしまったのは惜しい。いや、ふたりの命には代えられるものではないが」
いつの間にかまた寝息を立てて牢の床に寝そべる男爵を見る男たちの表情は、問題がひとつも解決されないことに苛立ち、一向に晴れなかった。
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