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第一章 アーウェン幼少期
少年は義妹に守られる ①
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そして部屋は温かいはずなのに、ガチガチと歯を鳴らして体を震わせるアーウェンの目はだんだんと虚ろになって、カラの顔の方を向いているのに視点は合わなくなり、意味不明に呟き始めた。
「だ、だって…ダメ、なんだ……オ、オレ……オレは……言っちゃ、ダメなんだ……エ、エレノアが…おいしいものは、おいしいって…いわ、いわ、なななな……じゃない…と…兄様の……おからだが…悪くなっちゃうって……オレが、わ、わ、悪い子だから……と、父様が……たた、いて……母様を……」
「大丈夫!大丈夫です!息を吸って~、吐いて~、吸って~…吐いて~…吸って~……はい、ゆっくり吐いて……大丈夫……アーウェン様、大丈夫です……」
「…だい…じょ……ぶ……?」
ロフェナが慌てて駆け寄ろうとした足を止め、事の成り行きを見守る位置に戻ると、カラはアーウェンの両手を片手で包み、もう片手で背中を優しく擦って深呼吸するようにと囁いた。
細かい震えはまだ収まらないけれどどうやら自分の声に耳を傾けるだけの余裕が出来たとみて、カラはアーウェンの心の負担を取り除こうと、思いつくままに語り掛ける。
「はい。大丈夫です。エレノア様は、アーウェン様がお花のクッキーを食べれなくたって、サーモンとお花のサンドイッチよりサーモンとレタスのサンドイッチの方を美味しく感じたって、大好きですから。アーウェン様がエレノア様に許しを請う必要はないんです……一緒に、お手を取って歩いて行かれるんですから‥…」
「いっしょ……?お、おこられ…ない…の……?」
「怒りません。エレノア様は、アーウェン様がどんな物を『美味しい』と思うのか、まだ知らないのです。アーウェン様もエレノア様が『美味しい』と思う物を知らないでしょう?だから、それを教えていただいたり、アーウェン様が苦手な物を知っていただくためのお茶会なのですよ?だから……大丈夫です‥…」
「だい…じょう…ぶ……」
アーウェンがボタボタと溢した涙を拭いたのは、小さな手が持ついい香りの白いハンカチだった。
「おにいしゃま…いたいの?おはなで、おなかいたぁいの?」
「いた…ヒック…ヒッ…いた、いたく…ない…だいじょぶ……ヒック…オ、オレ…ボクは……お花のサンドイッチは…ちょっと、苦手……でも、お茶は、おいしいよ?」
「おちゃは、おいちいの?」
「うん」
ズッと鼻を啜ると、カラが粗めのハンカチを差し出してアーウェンの鼻水を拭って綺麗にする。
「あい」
さすがにまだティーポットを扱えないエレノアに代わって、乳母のラリティスがちょうどいい濃さと熱さになった紅茶をジャムの入ったカップに注ぐと、溢さないようにとエレノアが丁寧に混ぜてからアーウェンに渡してくれた。
「おにいしゃま、これ、おいちい?」
「……うん」
鼻が詰まってよくわからないが、それでも薔薇と蜂蜜の香りが温まって高まり、飲み込んだ喉の奥からほわっと満たされるのがわかる。
そして──
「だ、だって…ダメ、なんだ……オ、オレ……オレは……言っちゃ、ダメなんだ……エ、エレノアが…おいしいものは、おいしいって…いわ、いわ、なななな……じゃない…と…兄様の……おからだが…悪くなっちゃうって……オレが、わ、わ、悪い子だから……と、父様が……たた、いて……母様を……」
「大丈夫!大丈夫です!息を吸って~、吐いて~、吸って~…吐いて~…吸って~……はい、ゆっくり吐いて……大丈夫……アーウェン様、大丈夫です……」
「…だい…じょ……ぶ……?」
ロフェナが慌てて駆け寄ろうとした足を止め、事の成り行きを見守る位置に戻ると、カラはアーウェンの両手を片手で包み、もう片手で背中を優しく擦って深呼吸するようにと囁いた。
細かい震えはまだ収まらないけれどどうやら自分の声に耳を傾けるだけの余裕が出来たとみて、カラはアーウェンの心の負担を取り除こうと、思いつくままに語り掛ける。
「はい。大丈夫です。エレノア様は、アーウェン様がお花のクッキーを食べれなくたって、サーモンとお花のサンドイッチよりサーモンとレタスのサンドイッチの方を美味しく感じたって、大好きですから。アーウェン様がエレノア様に許しを請う必要はないんです……一緒に、お手を取って歩いて行かれるんですから‥…」
「いっしょ……?お、おこられ…ない…の……?」
「怒りません。エレノア様は、アーウェン様がどんな物を『美味しい』と思うのか、まだ知らないのです。アーウェン様もエレノア様が『美味しい』と思う物を知らないでしょう?だから、それを教えていただいたり、アーウェン様が苦手な物を知っていただくためのお茶会なのですよ?だから……大丈夫です‥…」
「だい…じょう…ぶ……」
アーウェンがボタボタと溢した涙を拭いたのは、小さな手が持ついい香りの白いハンカチだった。
「おにいしゃま…いたいの?おはなで、おなかいたぁいの?」
「いた…ヒック…ヒッ…いた、いたく…ない…だいじょぶ……ヒック…オ、オレ…ボクは……お花のサンドイッチは…ちょっと、苦手……でも、お茶は、おいしいよ?」
「おちゃは、おいちいの?」
「うん」
ズッと鼻を啜ると、カラが粗めのハンカチを差し出してアーウェンの鼻水を拭って綺麗にする。
「あい」
さすがにまだティーポットを扱えないエレノアに代わって、乳母のラリティスがちょうどいい濃さと熱さになった紅茶をジャムの入ったカップに注ぐと、溢さないようにとエレノアが丁寧に混ぜてからアーウェンに渡してくれた。
「おにいしゃま、これ、おいちい?」
「……うん」
鼻が詰まってよくわからないが、それでも薔薇と蜂蜜の香りが温まって高まり、飲み込んだ喉の奥からほわっと満たされるのがわかる。
そして──
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