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.....
「社長、できるだけ早く新入社員を雇って下さいよ。」
「うん、わかってる。今募集の広告の準備しているんだけどね。色々と忙しくて。
今週は園…南野くんのご両親にご挨拶に行く予定だし、来週はうちの親の所にだし、ね?ほら、
こういう事は順番をちゃんとしないと。」
部下の前原は、
「だったら、南野さんのご両親に挨拶が済むまで、南野さんに手を出さなかったらよかったのでは?」
という言葉をぐっと呑み込んだ。
(2年も片思い拗らせた挙げ句、嫉妬に狂って手出しておいて、どの口が「順番」とか言ってんだよ。)
前原の心の悲鳴は、脳内を園に埋め尽くされてハートまでズブズブにやられてしまっている高梨には全く届いていなかった。
─────
昨日の夜。
「徹、好き」などと暴力的に可愛い事を言われて、雄杭を締めつけられた高梨は、あっさり中出しした。
それはもうたっぷりと射精(で)た。
あのナカで射精(だ)すのを我慢できるヤツは神だ。
いや、神だって射精すに違いない。
それぐらい良かった。
赤ちゃんが先に出来てしまってはご両親に申し訳ないなどと園を誑かして、ちゃっかり翌日には婚姻届に名前を記入させた。
そして、二日後の土曜日にはご両親に挨拶に行く約束まで取り付けたのだった。
そして、挨拶が済んで結婚を認めて貰えたら、その足で二人で区役所に婚姻届を提出に行く計画なのである。
世の中にはアフターピルというものが存在している事は、高梨も勿論知っている。だが、今日は木曜日で、近所のレディースクリニックは休診だ。他所のクリニックへ行って、男性の医師の診察を受けさせる訳にはいかないし、望まぬ妊娠という訳ではないから、赤ちゃんの事を考えて先に婚姻届を提出しようと約束したのは、我ながら最良の案だったと高梨はクスッと笑った。
こうして、策士・高梨徹の手によって、園は、「人生で彼氏のいた期間たった三日間」で、二日後の土曜日に「人妻」になる事が決まった。いや、決めさせられた。
昨夜の…。『今日は「結婚の約束」か「身体だけ先にもらう」か、どちらかでいい。どっちにするか決めてくれ。』
……という、高梨の行為前の台詞は一体何だったのか?というツッコミはやめてもらおう。
どっちにしろ、園を手に入れるつもりだった高梨には結果が全てなのだ。うっかり射精(で)てしまった事など結婚への一コマに過ぎない。
話がそれた。
園は、結婚すれば、自分にも特殊任務が与えられるようになるのかと考えていたが、それは間違っていた。高梨が言うには、人妻になったとしても、園は魅力的過ぎるから、工作員の仕事は絶対にさせられないのだそうだ。
その事を決定事項だと、高梨は意気揚々と翌日の朝礼で全社員に伝えたのだった。
そして、前原ら部下は切実に「戦力になる社員を新たに雇って欲しい」と訴える事になったという訳だ。
前原は、社長の過保護を目の当たりにしていた為、「南野さんが妊娠でもしたらお腹の子に障るから、できるだけ早く代わりの社員を見つけておいた方がいい」と提案した。
案の定、高梨は神妙な顔で「そうだよな。園…南野くんの身体が大切だもんな。事は一刻を争うな。うん。」と頷いていた。
「スケジュールは詰まっているが、募集はすぐにも出せるから。採用まであと少し待って欲しい。」
「………。」
高梨と前原は見つめ合う。
「………。それで?」
「前原君、何かな?」
「………。今日は南野さんはどうされました?」
「ほら、前原君もさっき言ってくれたように、妊娠初期は身体を大事にしないといけないっていうだろ?だから俺の家で休ませている。」
(妊娠初期って?コイツ、マジか…。仕込んだの昨日だよな?………。初期すらまだ来てねぇよな。)
「社長、冗談は………。」
前原は、目の前にいるこの男は、冗談などは言っていないのだと気がついた。目が恐ろしく真剣だし、きっと過保護がいき過ぎて思考がおかしくなっているのだ。この男は完全な「溺愛系束縛男」になってしまったのだ。
(やってらんねぇ……過保護すぎだろ……、?待てよ?過保護が過ぎるってどういう事だ?保護が過ぎて過ぎて……?………)
前原は思考を諦めた。
(……もういい。……出よう。)
「そうですね…。お大事に…。いや、お幸せに…?では、オレはそろそろ外回りに行ってきます。」
「お、そうか。いってらっしゃい。頑張ってくれ。」
「「「いってらっしゃい」」」周りの仕事達も声を掛ける。
このやりとりを聞いていた他の社員も、皆それぞれ自分の仕事に戻った。
PCに向かって作業する社長の高梨は、誰が見ても完璧な容姿で、少しの欠点も見つからない。
なのに、園が絡むととたん、信じられない過保護レーダーが発動してしまい、ちょっぴり残念な溺愛男に変貌してしまうようだ。
(((ほっとこう)))
今は2年間の想いを実らせた幸せにひたらせやればいい。
園の囲い込みが完全に成功すれば、完璧な顔面を持つ遣り手工作員・高梨がきっとまた戻ってくる事だろう。
採用が上手くいって、快適な職場環境が再び訪れる日を待ちわびる「ブルーマウント」社員達一同の姿がそこにあった。
<完>
「社長、できるだけ早く新入社員を雇って下さいよ。」
「うん、わかってる。今募集の広告の準備しているんだけどね。色々と忙しくて。
今週は園…南野くんのご両親にご挨拶に行く予定だし、来週はうちの親の所にだし、ね?ほら、
こういう事は順番をちゃんとしないと。」
部下の前原は、
「だったら、南野さんのご両親に挨拶が済むまで、南野さんに手を出さなかったらよかったのでは?」
という言葉をぐっと呑み込んだ。
(2年も片思い拗らせた挙げ句、嫉妬に狂って手出しておいて、どの口が「順番」とか言ってんだよ。)
前原の心の悲鳴は、脳内を園に埋め尽くされてハートまでズブズブにやられてしまっている高梨には全く届いていなかった。
─────
昨日の夜。
「徹、好き」などと暴力的に可愛い事を言われて、雄杭を締めつけられた高梨は、あっさり中出しした。
それはもうたっぷりと射精(で)た。
あのナカで射精(だ)すのを我慢できるヤツは神だ。
いや、神だって射精すに違いない。
それぐらい良かった。
赤ちゃんが先に出来てしまってはご両親に申し訳ないなどと園を誑かして、ちゃっかり翌日には婚姻届に名前を記入させた。
そして、二日後の土曜日にはご両親に挨拶に行く約束まで取り付けたのだった。
そして、挨拶が済んで結婚を認めて貰えたら、その足で二人で区役所に婚姻届を提出に行く計画なのである。
世の中にはアフターピルというものが存在している事は、高梨も勿論知っている。だが、今日は木曜日で、近所のレディースクリニックは休診だ。他所のクリニックへ行って、男性の医師の診察を受けさせる訳にはいかないし、望まぬ妊娠という訳ではないから、赤ちゃんの事を考えて先に婚姻届を提出しようと約束したのは、我ながら最良の案だったと高梨はクスッと笑った。
こうして、策士・高梨徹の手によって、園は、「人生で彼氏のいた期間たった三日間」で、二日後の土曜日に「人妻」になる事が決まった。いや、決めさせられた。
昨夜の…。『今日は「結婚の約束」か「身体だけ先にもらう」か、どちらかでいい。どっちにするか決めてくれ。』
……という、高梨の行為前の台詞は一体何だったのか?というツッコミはやめてもらおう。
どっちにしろ、園を手に入れるつもりだった高梨には結果が全てなのだ。うっかり射精(で)てしまった事など結婚への一コマに過ぎない。
話がそれた。
園は、結婚すれば、自分にも特殊任務が与えられるようになるのかと考えていたが、それは間違っていた。高梨が言うには、人妻になったとしても、園は魅力的過ぎるから、工作員の仕事は絶対にさせられないのだそうだ。
その事を決定事項だと、高梨は意気揚々と翌日の朝礼で全社員に伝えたのだった。
そして、前原ら部下は切実に「戦力になる社員を新たに雇って欲しい」と訴える事になったという訳だ。
前原は、社長の過保護を目の当たりにしていた為、「南野さんが妊娠でもしたらお腹の子に障るから、できるだけ早く代わりの社員を見つけておいた方がいい」と提案した。
案の定、高梨は神妙な顔で「そうだよな。園…南野くんの身体が大切だもんな。事は一刻を争うな。うん。」と頷いていた。
「スケジュールは詰まっているが、募集はすぐにも出せるから。採用まであと少し待って欲しい。」
「………。」
高梨と前原は見つめ合う。
「………。それで?」
「前原君、何かな?」
「………。今日は南野さんはどうされました?」
「ほら、前原君もさっき言ってくれたように、妊娠初期は身体を大事にしないといけないっていうだろ?だから俺の家で休ませている。」
(妊娠初期って?コイツ、マジか…。仕込んだの昨日だよな?………。初期すらまだ来てねぇよな。)
「社長、冗談は………。」
前原は、目の前にいるこの男は、冗談などは言っていないのだと気がついた。目が恐ろしく真剣だし、きっと過保護がいき過ぎて思考がおかしくなっているのだ。この男は完全な「溺愛系束縛男」になってしまったのだ。
(やってらんねぇ……過保護すぎだろ……、?待てよ?過保護が過ぎるってどういう事だ?保護が過ぎて過ぎて……?………)
前原は思考を諦めた。
(……もういい。……出よう。)
「そうですね…。お大事に…。いや、お幸せに…?では、オレはそろそろ外回りに行ってきます。」
「お、そうか。いってらっしゃい。頑張ってくれ。」
「「「いってらっしゃい」」」周りの仕事達も声を掛ける。
このやりとりを聞いていた他の社員も、皆それぞれ自分の仕事に戻った。
PCに向かって作業する社長の高梨は、誰が見ても完璧な容姿で、少しの欠点も見つからない。
なのに、園が絡むととたん、信じられない過保護レーダーが発動してしまい、ちょっぴり残念な溺愛男に変貌してしまうようだ。
(((ほっとこう)))
今は2年間の想いを実らせた幸せにひたらせやればいい。
園の囲い込みが完全に成功すれば、完璧な顔面を持つ遣り手工作員・高梨がきっとまた戻ってくる事だろう。
採用が上手くいって、快適な職場環境が再び訪れる日を待ちわびる「ブルーマウント」社員達一同の姿がそこにあった。
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