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部長……教えて下さい

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    なんだかんだ、部長と二人で話すきっかけもタイミングもないまま、金曜日になってしまった。
    午後になっても、部長は席にいるけど、小川さんや同期の秋元君もフロアにいるので話しづらい。

    書類の整理をしていると、電話が鳴った。

「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」

「…。あんまり美しい声なんでテープかと思いましたよ。新井運輸の近藤ですが、うちの担当の神谷君はいますか。」

「あいにく神谷は外出しておりますので、掛け直させていただいてもよろしいですか。…では近藤様、お電話番号をお願いいたします。」

「あ、はい、070-○○○○-○○○○です。鈴原さん、って言ったっけ、すごく感じのいい話し方ですね。」

「お褒めいただきありがとうございます……。神谷に伝えますので、近藤様、電話をお切りになってお待ち下さいませ。」

「丁寧に、ありがとう」

    電話を切ると、聞いていた秋元君が、
「もしかして、お客様に応対褒められた?」
と、聞いてきた。

「はい、感じがいいって言われちゃいました。」

「わかるなぁ。僕が聞いていてもそう思ったから。」

「本当ですか?嬉しいです。そうだ、神谷さんに電話しないと…。」

「ははは、急いで。せっかく褒められたんだから。」

    そうですね、と言って、神谷さんに電話を掛けて、内容を伝えて受話器を置くと、部長が私の席にやってきた。

「お疲れ様、お客様の評判が良くて助かっていますよ。ところで、鈴原さん、今日の夜、少し時間ある?」

「?はい、何の予定もありませんが。残業ですか。」

「飯食いながら少し話があるんだが、いいかな。」

「勿論、大丈夫です。」
──部長から話をふってくれた!
    
    終業後、私は待ち合わせの場所に向かった。

・・・

    部長の知り合いがやっているという料理店で、雑談をしつつ、おすすめの和食ご膳をご馳走になり、お腹がいっぱいになった所で切り出した。

「部長、新人歓迎会の時はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!それと…これ…。」

    (払ってくれたのは部長でありますように、と、)お金を入れた封筒を差し出した。

「封筒の中身、確認するよ?」
中身を見た部長は、はぁ、とため息をついて私に封筒を戻した。
「これを私に寄越すという事は、あれから杉崎と話していないんだな?」

「……もしかして、ホテルの宿泊代を払ってくれたのは……?」

「杉崎課長だな。飲み会の後、3人でタクシーに乗ったが、杉崎が1人で送るってきかないから、私は先に降りたんだ。」

「!!」そんな………。

「そういう訳だから、謝罪と感謝は杉崎にしてくれ。」

「部長~!私、一体どうすればいいんですかぁ~?」

「杉崎にも困ったもんだよな。鈴原さんの事あんなに気にしてるのに。」小さな声で呟く。

「部長?何かおっしゃいました?」

「鈴原さん、君達二人、どうして何も話さないのかな。」

「私にも分からないんです。課長は私を嫌いみたいです。」

「くくっ。嫌いな子をあんなにムキになって送る奴なんかいないだろう。」

「だったら、どうしてあんなに私を睨むんですか。」

「それは、本人に聞いてみないと。何誤解してるのか知らないが、鈴原さんはこんなに分かりやすいのにな。」

「……部長も私の事変に誤解してませんか…。」

「ははは、兎に角、杉崎と話をしてみろ。なーんだ、そんな事だったのかってなるんじゃないか?」

「……。話、ですか………。はい、そう、ですね。分かりました。何とかやってみます。
    さっきのとは別で……、これは今日の分と飲み会の時のお礼で気持ちです。早く帰らないと、奥様が待ってますよね。部長、今日はお時間どうもありがとうございました。」

「いやいや、今日は私の奢りだよ。それに、お礼の言葉だけで十分だ。でも、もしも杉崎と上手く話せたら、その時はちゃんと報告してくれよ。」

「………はぃ…。」蚊のなくような声で返事をした後、再度、ご馳走様とお礼を言って、私は家に帰った。





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