6 / 23
部長……教えて下さい
しおりを挟む
なんだかんだ、部長と二人で話すきっかけもタイミングもないまま、金曜日になってしまった。
午後になっても、部長は席にいるけど、小川さんや同期の秋元君もフロアにいるので話しづらい。
書類の整理をしていると、電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」
「…。あんまり美しい声なんでテープかと思いましたよ。新井運輸の近藤ですが、うちの担当の神谷君はいますか。」
「あいにく神谷は外出しておりますので、掛け直させていただいてもよろしいですか。…では近藤様、お電話番号をお願いいたします。」
「あ、はい、070-○○○○-○○○○です。鈴原さん、って言ったっけ、すごく感じのいい話し方ですね。」
「お褒めいただきありがとうございます……。神谷に伝えますので、近藤様、電話をお切りになってお待ち下さいませ。」
「丁寧に、ありがとう」
電話を切ると、聞いていた秋元君が、
「もしかして、お客様に応対褒められた?」
と、聞いてきた。
「はい、感じがいいって言われちゃいました。」
「わかるなぁ。僕が聞いていてもそう思ったから。」
「本当ですか?嬉しいです。そうだ、神谷さんに電話しないと…。」
「ははは、急いで。せっかく褒められたんだから。」
そうですね、と言って、神谷さんに電話を掛けて、内容を伝えて受話器を置くと、部長が私の席にやってきた。
「お疲れ様、お客様の評判が良くて助かっていますよ。ところで、鈴原さん、今日の夜、少し時間ある?」
「?はい、何の予定もありませんが。残業ですか。」
「飯食いながら少し話があるんだが、いいかな。」
「勿論、大丈夫です。」
──部長から話をふってくれた!
終業後、私は待ち合わせの場所に向かった。
・・・
部長の知り合いがやっているという料理店で、雑談をしつつ、おすすめの和食ご膳をご馳走になり、お腹がいっぱいになった所で切り出した。
「部長、新人歓迎会の時はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!それと…これ…。」
(払ってくれたのは部長でありますように、と、)お金を入れた封筒を差し出した。
「封筒の中身、確認するよ?」
中身を見た部長は、はぁ、とため息をついて私に封筒を戻した。
「これを私に寄越すという事は、あれから杉崎と話していないんだな?」
「……もしかして、ホテルの宿泊代を払ってくれたのは……?」
「杉崎課長だな。飲み会の後、3人でタクシーに乗ったが、杉崎が1人で送るってきかないから、私は先に降りたんだ。」
「!!」そんな………。
「そういう訳だから、謝罪と感謝は杉崎にしてくれ。」
「部長~!私、一体どうすればいいんですかぁ~?」
「杉崎にも困ったもんだよな。鈴原さんの事あんなに気にしてるのに。」小さな声で呟く。
「部長?何かおっしゃいました?」
「鈴原さん、君達二人、どうして何も話さないのかな。」
「私にも分からないんです。課長は私を嫌いみたいです。」
「くくっ。嫌いな子をあんなにムキになって送る奴なんかいないだろう。」
「だったら、どうしてあんなに私を睨むんですか。」
「それは、本人に聞いてみないと。何誤解してるのか知らないが、鈴原さんはこんなに分かりやすいのにな。」
「……部長も私の事変に誤解してませんか…。」
「ははは、兎に角、杉崎と話をしてみろ。なーんだ、そんな事だったのかってなるんじゃないか?」
「……。話、ですか………。はい、そう、ですね。分かりました。何とかやってみます。
さっきのとは別で……、これは今日の分と飲み会の時のお礼で気持ちです。早く帰らないと、奥様が待ってますよね。部長、今日はお時間どうもありがとうございました。」
「いやいや、今日は私の奢りだよ。それに、お礼の言葉だけで十分だ。でも、もしも杉崎と上手く話せたら、その時はちゃんと報告してくれよ。」
「………はぃ…。」蚊のなくような声で返事をした後、再度、ご馳走様とお礼を言って、私は家に帰った。
午後になっても、部長は席にいるけど、小川さんや同期の秋元君もフロアにいるので話しづらい。
書類の整理をしていると、電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」
「…。あんまり美しい声なんでテープかと思いましたよ。新井運輸の近藤ですが、うちの担当の神谷君はいますか。」
「あいにく神谷は外出しておりますので、掛け直させていただいてもよろしいですか。…では近藤様、お電話番号をお願いいたします。」
「あ、はい、070-○○○○-○○○○です。鈴原さん、って言ったっけ、すごく感じのいい話し方ですね。」
「お褒めいただきありがとうございます……。神谷に伝えますので、近藤様、電話をお切りになってお待ち下さいませ。」
「丁寧に、ありがとう」
電話を切ると、聞いていた秋元君が、
「もしかして、お客様に応対褒められた?」
と、聞いてきた。
「はい、感じがいいって言われちゃいました。」
「わかるなぁ。僕が聞いていてもそう思ったから。」
「本当ですか?嬉しいです。そうだ、神谷さんに電話しないと…。」
「ははは、急いで。せっかく褒められたんだから。」
そうですね、と言って、神谷さんに電話を掛けて、内容を伝えて受話器を置くと、部長が私の席にやってきた。
「お疲れ様、お客様の評判が良くて助かっていますよ。ところで、鈴原さん、今日の夜、少し時間ある?」
「?はい、何の予定もありませんが。残業ですか。」
「飯食いながら少し話があるんだが、いいかな。」
「勿論、大丈夫です。」
──部長から話をふってくれた!
終業後、私は待ち合わせの場所に向かった。
・・・
部長の知り合いがやっているという料理店で、雑談をしつつ、おすすめの和食ご膳をご馳走になり、お腹がいっぱいになった所で切り出した。
「部長、新人歓迎会の時はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!それと…これ…。」
(払ってくれたのは部長でありますように、と、)お金を入れた封筒を差し出した。
「封筒の中身、確認するよ?」
中身を見た部長は、はぁ、とため息をついて私に封筒を戻した。
「これを私に寄越すという事は、あれから杉崎と話していないんだな?」
「……もしかして、ホテルの宿泊代を払ってくれたのは……?」
「杉崎課長だな。飲み会の後、3人でタクシーに乗ったが、杉崎が1人で送るってきかないから、私は先に降りたんだ。」
「!!」そんな………。
「そういう訳だから、謝罪と感謝は杉崎にしてくれ。」
「部長~!私、一体どうすればいいんですかぁ~?」
「杉崎にも困ったもんだよな。鈴原さんの事あんなに気にしてるのに。」小さな声で呟く。
「部長?何かおっしゃいました?」
「鈴原さん、君達二人、どうして何も話さないのかな。」
「私にも分からないんです。課長は私を嫌いみたいです。」
「くくっ。嫌いな子をあんなにムキになって送る奴なんかいないだろう。」
「だったら、どうしてあんなに私を睨むんですか。」
「それは、本人に聞いてみないと。何誤解してるのか知らないが、鈴原さんはこんなに分かりやすいのにな。」
「……部長も私の事変に誤解してませんか…。」
「ははは、兎に角、杉崎と話をしてみろ。なーんだ、そんな事だったのかってなるんじゃないか?」
「……。話、ですか………。はい、そう、ですね。分かりました。何とかやってみます。
さっきのとは別で……、これは今日の分と飲み会の時のお礼で気持ちです。早く帰らないと、奥様が待ってますよね。部長、今日はお時間どうもありがとうございました。」
「いやいや、今日は私の奢りだよ。それに、お礼の言葉だけで十分だ。でも、もしも杉崎と上手く話せたら、その時はちゃんと報告してくれよ。」
「………はぃ…。」蚊のなくような声で返事をした後、再度、ご馳走様とお礼を言って、私は家に帰った。
12
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ずぶ濡れで帰ったら置き手紙がありました
宵闇 月
恋愛
雨に降られてずぶ濡れで帰ったら同棲していた彼氏からの置き手紙がありーー
私の何がダメだったの?
ずぶ濡れシリーズ第二弾です。
※ 最後まで書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる