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出迎え
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番のいない、身体を売るオメガを
”中古品のオメガ”と街の人はそういう
「レモ! 起きるんだ!」
「……ふあ」
翌朝早朝、店長の叫び声がした。
オメガたちが押し込まれて寝ている部屋で
昨日の夜、結局誰にも相手にされなかった僕は眠っていた。
「おい!すぐに起きるんだ!!大変だ!!」
「どーしたんですか」
部屋に入り込んできた店長を、皆が睨みつけてる。
僕は目をこすりながら身体をおこすと、汗をびっしょりかいた店長の手に捕まれた。
「き、 君を買いたいという人が来て……」
「へ?」
「とんでもない名門だぞっ とにかく身支度整えてすぐ下に降りてこいっ」
「は、はあ」
「いいか早く降りてくるんだぞ!! いつもみたいに愛想よくしてな」
「……」
店長は言うだけ言って、階段を駆け下りて行った。
部屋は嵐が去ったみたいに静かになる。
「おめでとう~、きっといい人だよ」
気楽そうに、昨日のオメガが笑った。
「ありがとう。でも、どんな人だろう?」
ぶかぶかの上着を脱ぎながら、疑いの晴れない心をなだめる。
周りに祝われながら、用意を終え階段を下りていく。酒場は閉まっていたけど、中に人の気配があった。
「あ~っ、お待たせいたしましたっ。彼がレモです」
僕を見つけた店長は猫なで声で、
燕尾服を着た初老の男性と、その奥にいる背の高い貴族の人に頭を下げている。
「彼でお間違えありませんか?」
「ああ」
燕尾服の男性は、冷ややかな目を僕に向けた。
「失礼。私、執事のハミルトンと申します」
「は、はい」
「バイロン家、次期当主メインス様の番として、お迎えに上がりました」
「……はい?」
首を傾げた僕の横で、店長が叫ぶ。
「ど、どうぞ! 今、首輪をはずしますので! そのままお連れください!あの!どうか報酬の方よろしくお願いいたします!!」
じっとハミルトンさんを見つめていると、慌ただしく店長が僕の首輪を外す。
涼しくなった首元を触っていると、奥に居た貴族の人が動き出した。
その顔──綺麗な顔立ちと、ブルーの瞳は
昨日話した、あの人だった。
着ている洋服の違いかもしれないけど、
家紋のついた法衣のようなローブをまとって、威厳を感じる。
彼は僕の正面に移動して、
無表情のまま目を伏せた。
「急で混乱させてしまい、申し訳ない」
「ええと、その……?」
戸惑っていると、手を握られた。
甘いお菓子みたいな香りが、また漂う。
この香り、なんだろう?
なんだか頭が回らなくなる。
「メインス様、議会の時間もあります。後の事は私にお任せください」
「ああ、そうだった」
ハミルトンさんは店長に何かを渡して、酒場の出口に向かって歩き出した。
「来てくれるか?」
メインスさんに見つめられ、僕は頷いた。
手を引かれ、彼の後をついていく。
店長が何か叫んでいるのもなあなあに、実感のないまま外へ連れ出された。
ほんとに買われたんだ、僕。
店を出てすぐ、道には馬車がとまっていて
僕はそこに乗った。
ふわふわの赤いクッションに座ると、隣に彼が来る。それから少しして、馬車がガタガタと動き出した。
「改めて、私はメインス・ネイシュタット・バイロンと言う。この国で行政の仕事をしている」
「そ、そのようなお方でしたかっ……」
メインスさん──名前、覚えた。
行政、と聞いて身体が強張る。
とんでもなく偉い人なんだと思う。
「楽に接してくれて構わない」
僕を見たメインスさんの口角が微かに上がった。
気遣ってくれているのかな。
「このまま家を案内したいところだが、仕事でな……後はハミルトンに任せてある。安心して付いていってほしい」
「は、はい」
とりあえず笑ってみたけど、引きつっていたかも。
「本当に、急ですまない。番を見つけたアルファの執着を許してくれ」
「……?」
無表情に戻ったメインスさんは、窓の方に向いた。
そういえば、アルファ性は番を見つけると、独占欲が高まるらしい。
そんなことを思い出しながら、僕も気まずくなって景色を見た。
数分で見慣れた市民街を抜け、大通りを渡る。
その先に一軒一軒の建物が大きい、高級住宅街が並んでいた。
まるで観光に来た気分だ。
更に馬車はその道を進んで、大きな石門の前に停止した。
「では、私はここで」
「あ、待ってください」
馬車を降りていくメインスさんの背中に声をかける
「あの、選んでくれてありがとうございます──いってらっしゃい」
「いってきます」
甘いお菓子の香りと、メインスさんの笑顔が朝日に照らされた。
一人で馬車に揺られ、更に数十分。
やっと止まったと思って見上げた空は、すっかり太陽が昇っている。
「こちらから、徒歩にございます」
「はい」
運転席から顔をのぞかせたハミルトンさんに案内され、石畳の長い階段を上がっていく。
気が付けばいつも窓から見ていた岩肌がすぐそばにある事に気が付いた。
「わー、綺麗……」
やっと登った先には、古城があった。
周囲は青々とした木々で彩られ、入口の前に噴水もある
「ご案内いたします」
ハミルトンさんについていきながら、僕は来た道を振り返る。
だいぶ高い所まで登って来たらしい。
住んでいた街並みが青空の下に広がっている。
酒場の屋根もその中にあるだろう。
なんだかすごい場所に来てしまった、
なんて思いながら、はぐれないように速足でハミルトンさんを追った。
”中古品のオメガ”と街の人はそういう
「レモ! 起きるんだ!」
「……ふあ」
翌朝早朝、店長の叫び声がした。
オメガたちが押し込まれて寝ている部屋で
昨日の夜、結局誰にも相手にされなかった僕は眠っていた。
「おい!すぐに起きるんだ!!大変だ!!」
「どーしたんですか」
部屋に入り込んできた店長を、皆が睨みつけてる。
僕は目をこすりながら身体をおこすと、汗をびっしょりかいた店長の手に捕まれた。
「き、 君を買いたいという人が来て……」
「へ?」
「とんでもない名門だぞっ とにかく身支度整えてすぐ下に降りてこいっ」
「は、はあ」
「いいか早く降りてくるんだぞ!! いつもみたいに愛想よくしてな」
「……」
店長は言うだけ言って、階段を駆け下りて行った。
部屋は嵐が去ったみたいに静かになる。
「おめでとう~、きっといい人だよ」
気楽そうに、昨日のオメガが笑った。
「ありがとう。でも、どんな人だろう?」
ぶかぶかの上着を脱ぎながら、疑いの晴れない心をなだめる。
周りに祝われながら、用意を終え階段を下りていく。酒場は閉まっていたけど、中に人の気配があった。
「あ~っ、お待たせいたしましたっ。彼がレモです」
僕を見つけた店長は猫なで声で、
燕尾服を着た初老の男性と、その奥にいる背の高い貴族の人に頭を下げている。
「彼でお間違えありませんか?」
「ああ」
燕尾服の男性は、冷ややかな目を僕に向けた。
「失礼。私、執事のハミルトンと申します」
「は、はい」
「バイロン家、次期当主メインス様の番として、お迎えに上がりました」
「……はい?」
首を傾げた僕の横で、店長が叫ぶ。
「ど、どうぞ! 今、首輪をはずしますので! そのままお連れください!あの!どうか報酬の方よろしくお願いいたします!!」
じっとハミルトンさんを見つめていると、慌ただしく店長が僕の首輪を外す。
涼しくなった首元を触っていると、奥に居た貴族の人が動き出した。
その顔──綺麗な顔立ちと、ブルーの瞳は
昨日話した、あの人だった。
着ている洋服の違いかもしれないけど、
家紋のついた法衣のようなローブをまとって、威厳を感じる。
彼は僕の正面に移動して、
無表情のまま目を伏せた。
「急で混乱させてしまい、申し訳ない」
「ええと、その……?」
戸惑っていると、手を握られた。
甘いお菓子みたいな香りが、また漂う。
この香り、なんだろう?
なんだか頭が回らなくなる。
「メインス様、議会の時間もあります。後の事は私にお任せください」
「ああ、そうだった」
ハミルトンさんは店長に何かを渡して、酒場の出口に向かって歩き出した。
「来てくれるか?」
メインスさんに見つめられ、僕は頷いた。
手を引かれ、彼の後をついていく。
店長が何か叫んでいるのもなあなあに、実感のないまま外へ連れ出された。
ほんとに買われたんだ、僕。
店を出てすぐ、道には馬車がとまっていて
僕はそこに乗った。
ふわふわの赤いクッションに座ると、隣に彼が来る。それから少しして、馬車がガタガタと動き出した。
「改めて、私はメインス・ネイシュタット・バイロンと言う。この国で行政の仕事をしている」
「そ、そのようなお方でしたかっ……」
メインスさん──名前、覚えた。
行政、と聞いて身体が強張る。
とんでもなく偉い人なんだと思う。
「楽に接してくれて構わない」
僕を見たメインスさんの口角が微かに上がった。
気遣ってくれているのかな。
「このまま家を案内したいところだが、仕事でな……後はハミルトンに任せてある。安心して付いていってほしい」
「は、はい」
とりあえず笑ってみたけど、引きつっていたかも。
「本当に、急ですまない。番を見つけたアルファの執着を許してくれ」
「……?」
無表情に戻ったメインスさんは、窓の方に向いた。
そういえば、アルファ性は番を見つけると、独占欲が高まるらしい。
そんなことを思い出しながら、僕も気まずくなって景色を見た。
数分で見慣れた市民街を抜け、大通りを渡る。
その先に一軒一軒の建物が大きい、高級住宅街が並んでいた。
まるで観光に来た気分だ。
更に馬車はその道を進んで、大きな石門の前に停止した。
「では、私はここで」
「あ、待ってください」
馬車を降りていくメインスさんの背中に声をかける
「あの、選んでくれてありがとうございます──いってらっしゃい」
「いってきます」
甘いお菓子の香りと、メインスさんの笑顔が朝日に照らされた。
一人で馬車に揺られ、更に数十分。
やっと止まったと思って見上げた空は、すっかり太陽が昇っている。
「こちらから、徒歩にございます」
「はい」
運転席から顔をのぞかせたハミルトンさんに案内され、石畳の長い階段を上がっていく。
気が付けばいつも窓から見ていた岩肌がすぐそばにある事に気が付いた。
「わー、綺麗……」
やっと登った先には、古城があった。
周囲は青々とした木々で彩られ、入口の前に噴水もある
「ご案内いたします」
ハミルトンさんについていきながら、僕は来た道を振り返る。
だいぶ高い所まで登って来たらしい。
住んでいた街並みが青空の下に広がっている。
酒場の屋根もその中にあるだろう。
なんだかすごい場所に来てしまった、
なんて思いながら、はぐれないように速足でハミルトンさんを追った。
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