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22 公爵と辺境伯は結婚する
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「……、言葉が出てこないことがあるというのを、自分で経験するのは初めてだ」
セルゲウス様が迎えに来てくれた夕闇の中、煌々と焚かれた篝火の真ん中で青のドレスに身を包んだ私を見て、彼は口許を抑えて呟いた。
そのまま目の前に跪かれる。私は、この後の言葉を知っている。けれど、それは知っているだけ。
緊張で心臓がはちきれそう。見上げて来る美しい顔が、いつもは涼しいアメジストの瞳が、熱を帯びている。
「バーバレラ・ドミニク辺境伯。私と、結婚してください」
「よろこんで、セルゲウス・ユージーン公爵」
差し出された手を取って、満面の笑みで返事を返す。生まれる前からの知らなかった約束、彼は私の夢を壊す事なく、それでいながら、一度見ただけの私をずっと想ってくれていた。
王都に居る間、慣れない社交界での戦いを、ずっと助けてくれた人。
これからの人生を、私も彼を助けながら歩んでいきたい。私は助けられてばかりのつもりは無い。
その性格も、絶対にもう見抜かれているだろう。だから、彼は私の前でだけは柔和で優しくて、少し砕けてくれている。
手を取り合って馬車に乗る。華やかな王城での夜会場に踏み込み、第二王女を交えた王室の方々にご挨拶をする。
「結婚が決まりました」
「! そうか、おめでとう! ユージーン公爵、そして、ドミニク辺境伯」
私たちは違う爵位、違う名前を持つ夫婦になる。それになんの不満も無い。むしろ、最高の気分だ。
陛下のお祝いが、本当に嬉しい。
「おめでとう、バーバレラ。本当に、本当に嬉しいわ。ユージーン公爵、あなたにも、おめでとう」
「はい、長年の私の姫との結婚が叶って、本当に嬉しいです」
本物のお姫様の前で私を姫と言ってはばからないところは尊敬するが、少々くすぐったくもある。
今日のフレデリカ王女は、とても可愛らしかった。小花を散らした黄緑の優しい色合いのドレスに、白い花のコサージュを付けて、とても初々しい。それでいて、目には知性が浮かんでいる。
きっと、素敵な方と結婚する事になるだろう。馬に好かれる人だもの。
挨拶を辞して、夜会でセルゲウス様の紹介で私も挨拶をして回り、ダンスの時間がきた。
初めてのダンスだ。うまく踊れるか心配だったが、セルゲウス様の微笑を見ていたらなんだか安心してしまった。
「大丈夫、君は踊れる。野生馬を飼い慣らすよりもずっと簡単さ」
「まぁ。……でも、そうですね。私も王都で、セルゲウス様の隣で一緒に歩んでいきたいので、踊り熟してみせます」
私は自分で言ってから恥ずかしくなって、セルゲウス様の肩のあたりばかり見ていたのだけれど、ちゃんと踊れたらしい。一度もステップは間違えなかったし、足も踏まなかった。
そしてダンスを終えて顔を上げると、セルゲウス様がはにかんで言う。
「愛している、バーバレラ。両親に感謝だ、そしてあの日、君を見染めた自分に。君のような素晴らしい伴侶で、本当によかった」
セルゲウス様が迎えに来てくれた夕闇の中、煌々と焚かれた篝火の真ん中で青のドレスに身を包んだ私を見て、彼は口許を抑えて呟いた。
そのまま目の前に跪かれる。私は、この後の言葉を知っている。けれど、それは知っているだけ。
緊張で心臓がはちきれそう。見上げて来る美しい顔が、いつもは涼しいアメジストの瞳が、熱を帯びている。
「バーバレラ・ドミニク辺境伯。私と、結婚してください」
「よろこんで、セルゲウス・ユージーン公爵」
差し出された手を取って、満面の笑みで返事を返す。生まれる前からの知らなかった約束、彼は私の夢を壊す事なく、それでいながら、一度見ただけの私をずっと想ってくれていた。
王都に居る間、慣れない社交界での戦いを、ずっと助けてくれた人。
これからの人生を、私も彼を助けながら歩んでいきたい。私は助けられてばかりのつもりは無い。
その性格も、絶対にもう見抜かれているだろう。だから、彼は私の前でだけは柔和で優しくて、少し砕けてくれている。
手を取り合って馬車に乗る。華やかな王城での夜会場に踏み込み、第二王女を交えた王室の方々にご挨拶をする。
「結婚が決まりました」
「! そうか、おめでとう! ユージーン公爵、そして、ドミニク辺境伯」
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陛下のお祝いが、本当に嬉しい。
「おめでとう、バーバレラ。本当に、本当に嬉しいわ。ユージーン公爵、あなたにも、おめでとう」
「はい、長年の私の姫との結婚が叶って、本当に嬉しいです」
本物のお姫様の前で私を姫と言ってはばからないところは尊敬するが、少々くすぐったくもある。
今日のフレデリカ王女は、とても可愛らしかった。小花を散らした黄緑の優しい色合いのドレスに、白い花のコサージュを付けて、とても初々しい。それでいて、目には知性が浮かんでいる。
きっと、素敵な方と結婚する事になるだろう。馬に好かれる人だもの。
挨拶を辞して、夜会でセルゲウス様の紹介で私も挨拶をして回り、ダンスの時間がきた。
初めてのダンスだ。うまく踊れるか心配だったが、セルゲウス様の微笑を見ていたらなんだか安心してしまった。
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「まぁ。……でも、そうですね。私も王都で、セルゲウス様の隣で一緒に歩んでいきたいので、踊り熟してみせます」
私は自分で言ってから恥ずかしくなって、セルゲウス様の肩のあたりばかり見ていたのだけれど、ちゃんと踊れたらしい。一度もステップは間違えなかったし、足も踏まなかった。
そしてダンスを終えて顔を上げると、セルゲウス様がはにかんで言う。
「愛している、バーバレラ。両親に感謝だ、そしてあの日、君を見染めた自分に。君のような素晴らしい伴侶で、本当によかった」
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