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20 嘘八百令嬢の心を王太子は掴んだ
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それぞれ着飾ったリリィクインの面々は、家柄や美貌、知性、社交性という点を最低限はクリアしているだけあって、皆が皆大輪の花を咲かせているようだった。
私は自分の髪が瑠璃色なので、あえて赤に近い紫のドレスだ。宝飾品ともちょうど合っていてよかったとほっとする。私も、このシャンデリアの下で大輪の花になれているといい。
黄色、水色、赤、紫とそれぞれドレスもアクセサリーも違うが、普段以上に着飾った全員はそれぞれにとても綺麗だと素直に思う。
立食形式で、疲れたら座るためのソファはある。ある種の慰労会も兼ねている。
最後にランドルフ殿下が入場してきた。全員がグラスを持って、乾杯をする。
一人一人に声を掛けていくランドルフ殿下から、さり気なく私は距離を取った。どうせなら最後に声を掛けて欲しいと思う。ダンスに誘われるかどうかは、その後のことだから。
ドキドキしながら令嬢一人一人に笑いかけて御礼を言っていく姿を横目に見ていた。何を話しているかまでは聞こえないけれど、ランドルフ殿下もリリィクインの全員と向き合って、ちゃんと会話をしている。
最初に会った時とは別人のように、その姿は威厳もあって堂々としていた。他の令嬢も、驚いている様子だ。
いよいよ私の番がくる。私は、決意を固めるために胸元のガーネットを見た。ランドルフ殿下が誰を選ぶかを私が決めることは出来ないが、私の気持ちをランドルフ殿下に伝えることはできる。
「ソニア嬢」
「はい」
足音が近付いてきて、そして、私のことを名前で呼んだ。あまりに自然だったので素直に答えてしまったが、他の令嬢の顔が驚きで固まっている。
もしかして、名前で呼ばれたのは私だけだったのだろうか?
満面の笑顔でランドルフ殿下は私を見ている。私も、この一月の期間を労わられて終わるのだろうか。
もし、そうならば、今が最後のチャンスだ。
「ランドルフ殿下、私から先に発言する無礼をお許しください」
「構わない。何だろうか」
これまで、嫌なことや間違ったことをした時も、最後には嘘を……出まかせや屁理屈と言ってもいいかもしれない……吐いて、笑い話にしてきた私だ。
けれど、もしこれで気持ちを受け容れてもらえなくても、これを笑い話にするような真似はできない。断られれば、一生それを引きずるかもしれない。
それでもちゃんと、正面から、この笑顔に応えて私は気持ちを伝えなければならないだろう。
自分に嘘を吐かないために。
「心より、お慕い申し上げております、ランドルフ殿下。お気持ちを、……真実の、素直な気持ちを、今一度どうしてもお伝えしたくて」
私は今、目が金色に変わっているだろうと思う。緊張、真剣、照れ、羞恥、そして、張り裂けそうな程の好意で頭がいっぱいだ。
ランドルフ殿下は私の瞳をまっすぐ見詰めたまま、視線をそらさずに私の前に跪いた。
「ソニア嬢、私は君を王太子妃として迎えたい。どうか、リリィクインとしては最後の、そしてこの先一生を共にするための最初のダンスを、私と踊って欲しい」
いつも、笑っているのが好きだった。自分も、周りも。
なのに私は、頭にいっぱいだった感情があふれ出して、涙を零しながら差し出された手を取る。
「はい、喜んで、ランドルフ殿下」
他のリリィクインたちの表情を見る余裕はなかったが、目の端に、少しだけ残念そうに笑うメイベル様の姿が移ったように思う。けれど、私はランドルフ殿下から目を離す事ができなかった。
イリア様からお借りしたガーネットの光を揺らめかせながら、私は満足そうな笑顔の殿下と共に、晩餐会の会場の真ん中で、最後で、最初のダンスを踊った。
私は自分の髪が瑠璃色なので、あえて赤に近い紫のドレスだ。宝飾品ともちょうど合っていてよかったとほっとする。私も、このシャンデリアの下で大輪の花になれているといい。
黄色、水色、赤、紫とそれぞれドレスもアクセサリーも違うが、普段以上に着飾った全員はそれぞれにとても綺麗だと素直に思う。
立食形式で、疲れたら座るためのソファはある。ある種の慰労会も兼ねている。
最後にランドルフ殿下が入場してきた。全員がグラスを持って、乾杯をする。
一人一人に声を掛けていくランドルフ殿下から、さり気なく私は距離を取った。どうせなら最後に声を掛けて欲しいと思う。ダンスに誘われるかどうかは、その後のことだから。
ドキドキしながら令嬢一人一人に笑いかけて御礼を言っていく姿を横目に見ていた。何を話しているかまでは聞こえないけれど、ランドルフ殿下もリリィクインの全員と向き合って、ちゃんと会話をしている。
最初に会った時とは別人のように、その姿は威厳もあって堂々としていた。他の令嬢も、驚いている様子だ。
いよいよ私の番がくる。私は、決意を固めるために胸元のガーネットを見た。ランドルフ殿下が誰を選ぶかを私が決めることは出来ないが、私の気持ちをランドルフ殿下に伝えることはできる。
「ソニア嬢」
「はい」
足音が近付いてきて、そして、私のことを名前で呼んだ。あまりに自然だったので素直に答えてしまったが、他の令嬢の顔が驚きで固まっている。
もしかして、名前で呼ばれたのは私だけだったのだろうか?
満面の笑顔でランドルフ殿下は私を見ている。私も、この一月の期間を労わられて終わるのだろうか。
もし、そうならば、今が最後のチャンスだ。
「ランドルフ殿下、私から先に発言する無礼をお許しください」
「構わない。何だろうか」
これまで、嫌なことや間違ったことをした時も、最後には嘘を……出まかせや屁理屈と言ってもいいかもしれない……吐いて、笑い話にしてきた私だ。
けれど、もしこれで気持ちを受け容れてもらえなくても、これを笑い話にするような真似はできない。断られれば、一生それを引きずるかもしれない。
それでもちゃんと、正面から、この笑顔に応えて私は気持ちを伝えなければならないだろう。
自分に嘘を吐かないために。
「心より、お慕い申し上げております、ランドルフ殿下。お気持ちを、……真実の、素直な気持ちを、今一度どうしてもお伝えしたくて」
私は今、目が金色に変わっているだろうと思う。緊張、真剣、照れ、羞恥、そして、張り裂けそうな程の好意で頭がいっぱいだ。
ランドルフ殿下は私の瞳をまっすぐ見詰めたまま、視線をそらさずに私の前に跪いた。
「ソニア嬢、私は君を王太子妃として迎えたい。どうか、リリィクインとしては最後の、そしてこの先一生を共にするための最初のダンスを、私と踊って欲しい」
いつも、笑っているのが好きだった。自分も、周りも。
なのに私は、頭にいっぱいだった感情があふれ出して、涙を零しながら差し出された手を取る。
「はい、喜んで、ランドルフ殿下」
他のリリィクインたちの表情を見る余裕はなかったが、目の端に、少しだけ残念そうに笑うメイベル様の姿が移ったように思う。けれど、私はランドルフ殿下から目を離す事ができなかった。
イリア様からお借りしたガーネットの光を揺らめかせながら、私は満足そうな笑顔の殿下と共に、晩餐会の会場の真ん中で、最後で、最初のダンスを踊った。
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