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19 聖域
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広場にグランドルム王国の正規兵と魔法兵がやってきた時には、とっくに決着がついていた。生きたまま捕らえたのは、私のためだろうと思う。たぶん、私に、身近な人が人を殺すのを見せないため。
人の死の傍にはいたけれど、たしかに誰かが誰かを殺すという所に居合わせた所はない。自分がそれにどれだけショックを受けるか想像もつかなかったけれど、ただ、人は無力化するより殺してしまう方が本当は感嘆だというのは知っている。
難しい事をやってのけて、彼らは私の言葉に顔を見合わせて声をあげて笑った。
「さ、立ってください、ルーシー様」
「ガウェイン様……、あの、何か変なことを言いましたか?」
差し出された手を取って立ち上がると、まだ薄く笑ったままの不思議な色合いの目でいいえ、と答える。
よく分からないけれど、でも、本当に怪我がなくてよかった。
正規兵の代表と騎士団長が話し合い、私たちは王城へと向かう事になった。国境沿いにこのまま彼らはスレイプニルの馬車で向かうらしい。力強いスレイプニルたちは、たびたび補給をうけながらもずっと働き詰めだが、まだ元気そうでよかった。
正規兵が国境から私を狙って侵入しようとしているのを、完全に追い返すために彼らは国境沿いに向かった。
「……なんだか、私がいると、戦いばかりが起こりますね」
飛び立った馬車を見上げて私がぽつりと呟くと、ガウェイン様の顔が曇った。
「あ、いえ、すみません。ただ、そうだな、と……あの、ガウェイン様?」
真剣な顔で彼の手が私の頬を包む。至近距離で見詰められて、思わず瞳に見惚れていると、表情と同じだけ真剣な声が小さく呟いた。
「貴女には、何の責もありません。貴女を責める者がいれば、私が剣でも言葉でも使って説き伏せましょう。……私がこれからは、貴女を守ります。必ず、守り抜きます」
「あ、あの……はい、おねがいします……?」
思わず顔が赤くなる。のぼせたような、頭にかっと血が上ってなかなか降りてくれないような、そんな感覚に襲われていると、周囲の騎士から野次が入った。
「いちゃつくのはもう少し安全な所にいってからがいいんじゃねーかなー?」
「そうだそうだ! それに飯た……ルーシー様を守ったのはお前だけじゃねーぞー!」
はっとして私たちは慌てて離れ、顔をそらした。横目でみたガウェイン様の顔も、耳まで赤くなっている。
「では、一先ず聖域にご案内します。この先のことはそこで……」
騎士団長と話していたグランドルム王国の正規兵の方がそう言ったので、私たちは彼らが乗って来た普通の馬車に揺られて王城へと向かった。
聖域は王城の奥にあるらしい。城の敷地に入ると王城をぐるりと回り込み、城を囲んでいた塀よりも高い塀に囲まれた円形……だと思う、とにかく広い事だけは分かる場所に馬車ごと門を潜って入って行った。
「本来、聖人聖女の為の場所ですが、皆さんは救国の英雄です。聖域で暫く体を休めてください」
案内を務める御者の方が馬車の中に向ってそう告げ、馬車は聖域の中にある様々な離宮のうち、一番広い離宮の前で止まった。
塀の内側には森があり、平野があり、花が咲き、穏やかな空気が流れている。空気が明らかに清浄で、馬車から降りてすぐに深呼吸をした。とても落ち着く場所だと、なんだか初めて自分の家に帰って来たという気持ちになった。
離宮は平屋だが、私たち全員が休むだけの部屋は用意されていて、中で働く人も白い清潔な服を着ていた。
私たちは国を出てからお風呂に入る暇も無かった。
「まずは湯浴みをお願いします」
誰も、その言葉に反対する人はいなかった。
人の死の傍にはいたけれど、たしかに誰かが誰かを殺すという所に居合わせた所はない。自分がそれにどれだけショックを受けるか想像もつかなかったけれど、ただ、人は無力化するより殺してしまう方が本当は感嘆だというのは知っている。
難しい事をやってのけて、彼らは私の言葉に顔を見合わせて声をあげて笑った。
「さ、立ってください、ルーシー様」
「ガウェイン様……、あの、何か変なことを言いましたか?」
差し出された手を取って立ち上がると、まだ薄く笑ったままの不思議な色合いの目でいいえ、と答える。
よく分からないけれど、でも、本当に怪我がなくてよかった。
正規兵の代表と騎士団長が話し合い、私たちは王城へと向かう事になった。国境沿いにこのまま彼らはスレイプニルの馬車で向かうらしい。力強いスレイプニルたちは、たびたび補給をうけながらもずっと働き詰めだが、まだ元気そうでよかった。
正規兵が国境から私を狙って侵入しようとしているのを、完全に追い返すために彼らは国境沿いに向かった。
「……なんだか、私がいると、戦いばかりが起こりますね」
飛び立った馬車を見上げて私がぽつりと呟くと、ガウェイン様の顔が曇った。
「あ、いえ、すみません。ただ、そうだな、と……あの、ガウェイン様?」
真剣な顔で彼の手が私の頬を包む。至近距離で見詰められて、思わず瞳に見惚れていると、表情と同じだけ真剣な声が小さく呟いた。
「貴女には、何の責もありません。貴女を責める者がいれば、私が剣でも言葉でも使って説き伏せましょう。……私がこれからは、貴女を守ります。必ず、守り抜きます」
「あ、あの……はい、おねがいします……?」
思わず顔が赤くなる。のぼせたような、頭にかっと血が上ってなかなか降りてくれないような、そんな感覚に襲われていると、周囲の騎士から野次が入った。
「いちゃつくのはもう少し安全な所にいってからがいいんじゃねーかなー?」
「そうだそうだ! それに飯た……ルーシー様を守ったのはお前だけじゃねーぞー!」
はっとして私たちは慌てて離れ、顔をそらした。横目でみたガウェイン様の顔も、耳まで赤くなっている。
「では、一先ず聖域にご案内します。この先のことはそこで……」
騎士団長と話していたグランドルム王国の正規兵の方がそう言ったので、私たちは彼らが乗って来た普通の馬車に揺られて王城へと向かった。
聖域は王城の奥にあるらしい。城の敷地に入ると王城をぐるりと回り込み、城を囲んでいた塀よりも高い塀に囲まれた円形……だと思う、とにかく広い事だけは分かる場所に馬車ごと門を潜って入って行った。
「本来、聖人聖女の為の場所ですが、皆さんは救国の英雄です。聖域で暫く体を休めてください」
案内を務める御者の方が馬車の中に向ってそう告げ、馬車は聖域の中にある様々な離宮のうち、一番広い離宮の前で止まった。
塀の内側には森があり、平野があり、花が咲き、穏やかな空気が流れている。空気が明らかに清浄で、馬車から降りてすぐに深呼吸をした。とても落ち着く場所だと、なんだか初めて自分の家に帰って来たという気持ちになった。
離宮は平屋だが、私たち全員が休むだけの部屋は用意されていて、中で働く人も白い清潔な服を着ていた。
私たちは国を出てからお風呂に入る暇も無かった。
「まずは湯浴みをお願いします」
誰も、その言葉に反対する人はいなかった。
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