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6 第一王子との出会い
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絶望的な表情を浮かべたパーシバル殿下を残し、わたしは一礼をしてサロンを失礼しました。
お母様たちのところに合流するつもりで、何度もおとずれた慣れた王宮を歩いていましたが……先ほどの話のバカらしさを思い出して、ちょっと道を外れてしまいました。
見覚えのない廊下に出てしまいましたね。
少し照明の抑えられた暗い廊下で、ひとつの部屋の扉の横に明かりが灯されていました。
へたに歩き回るより、人がいるなら聞いた方が早いでしょう。こういった照明をおさえている所は使用人の使う通路や部屋である場合がほとんどです。
ですので、わたしもここには使用人がいるものと思って扉をノックしました。使用人用にしては立派な扉でしたが、王宮ですからね。そんな事もあるでしょう。
「……入れ」
おや? とは、思いましたが、おおかた執事などの取りまとめ役の使用人なのでしょう。低い若い男の声ですが、よほど優秀な方なのでしょうと思って扉を開けて、あ、これはまちがえたわ、と悟りました。
中はひろびろとした貴人の部屋です。大きなソファに香木のテーブル、壁一面のガラス窓、そこから大きなテラスに出られるようになっています。
今は煌々とした月明かりをふんだんに取り込んで、ほのかに明るく部屋の中を照らしていますが、他に明かりはついていません。
執務机と天蓋つきの大きなベッド、お手洗いやバスルーム、あれはウォークインクローゼットですかね。扉がいくつかあります。
「……申し訳ありません、道に迷いまして、使用人の部屋かと思いお声がけしてしまいました。失礼しま……」
「君は……!」
失礼します、と言う前に、この部屋の主人は気だるげに座っていたソファから身体を起こしてわたしを凝視しています。
わたしは、この部屋の主人の検討がだいたいつきました。王宮でこのような部屋を与えられている人間、そして、隠すような暗い廊下。
第一王子その人でしょう。
病弱という噂とは違い、彼はとても背が高く、肩はひろく鍛えられていて、顔立ちは薄暗いのではっきりとは分かりませんでしたが、いぶした銀の髪に暗闇の中に溶け込むような青い瞳の、少し色白で影のあるお姿をしています。
パーシバル殿下は陛下譲りの金髪碧眼でどこまでも明るい太陽のような見た目をしていますが、目の前の方は王妃様譲りですね。
王妃様はもう少し明るい銀髪に夏の空のような薄い青い瞳ですが、それを濃くしたような色合いの、わたしよりいくつか歳上の男性です。
「ずっと……、ずっと君を待っていた、ナターシャ嬢……! ずっとこうして、会いたかった……!」
……わたしは第一王子様とは初対面のはずですが、なぜこんなことを言われているのでしょうか。
彼はわたしに近付いてきます。わたしはなぜか逃げようとか、部屋を出ようという気にはなれませんでした。
足がすくんだわけでもありません。いくら鍛えているとしても、殿方ひとりに遅れをとるような鍛え方はしておりません。暗器も癖で持ち歩いています。
彼はわたしの前に跪くと、わたしを見上げました。その顔に思わず心臓が跳ねてしまいます。
憂いのある美形。知性ある瞳。そして、熱のこもった視線。
「私の名はアルフォンス・スタンレイ。この国第一王子だ。ナターシャ・フォレスト嬢、幼い頃から……ずっと貴女をお慕いしていました」
そう告げると、彼はあまりに自然に、わたしの手を取ってその甲に口付けました。
お母様たちのところに合流するつもりで、何度もおとずれた慣れた王宮を歩いていましたが……先ほどの話のバカらしさを思い出して、ちょっと道を外れてしまいました。
見覚えのない廊下に出てしまいましたね。
少し照明の抑えられた暗い廊下で、ひとつの部屋の扉の横に明かりが灯されていました。
へたに歩き回るより、人がいるなら聞いた方が早いでしょう。こういった照明をおさえている所は使用人の使う通路や部屋である場合がほとんどです。
ですので、わたしもここには使用人がいるものと思って扉をノックしました。使用人用にしては立派な扉でしたが、王宮ですからね。そんな事もあるでしょう。
「……入れ」
おや? とは、思いましたが、おおかた執事などの取りまとめ役の使用人なのでしょう。低い若い男の声ですが、よほど優秀な方なのでしょうと思って扉を開けて、あ、これはまちがえたわ、と悟りました。
中はひろびろとした貴人の部屋です。大きなソファに香木のテーブル、壁一面のガラス窓、そこから大きなテラスに出られるようになっています。
今は煌々とした月明かりをふんだんに取り込んで、ほのかに明るく部屋の中を照らしていますが、他に明かりはついていません。
執務机と天蓋つきの大きなベッド、お手洗いやバスルーム、あれはウォークインクローゼットですかね。扉がいくつかあります。
「……申し訳ありません、道に迷いまして、使用人の部屋かと思いお声がけしてしまいました。失礼しま……」
「君は……!」
失礼します、と言う前に、この部屋の主人は気だるげに座っていたソファから身体を起こしてわたしを凝視しています。
わたしは、この部屋の主人の検討がだいたいつきました。王宮でこのような部屋を与えられている人間、そして、隠すような暗い廊下。
第一王子その人でしょう。
病弱という噂とは違い、彼はとても背が高く、肩はひろく鍛えられていて、顔立ちは薄暗いのではっきりとは分かりませんでしたが、いぶした銀の髪に暗闇の中に溶け込むような青い瞳の、少し色白で影のあるお姿をしています。
パーシバル殿下は陛下譲りの金髪碧眼でどこまでも明るい太陽のような見た目をしていますが、目の前の方は王妃様譲りですね。
王妃様はもう少し明るい銀髪に夏の空のような薄い青い瞳ですが、それを濃くしたような色合いの、わたしよりいくつか歳上の男性です。
「ずっと……、ずっと君を待っていた、ナターシャ嬢……! ずっとこうして、会いたかった……!」
……わたしは第一王子様とは初対面のはずですが、なぜこんなことを言われているのでしょうか。
彼はわたしに近付いてきます。わたしはなぜか逃げようとか、部屋を出ようという気にはなれませんでした。
足がすくんだわけでもありません。いくら鍛えているとしても、殿方ひとりに遅れをとるような鍛え方はしておりません。暗器も癖で持ち歩いています。
彼はわたしの前に跪くと、わたしを見上げました。その顔に思わず心臓が跳ねてしまいます。
憂いのある美形。知性ある瞳。そして、熱のこもった視線。
「私の名はアルフォンス・スタンレイ。この国第一王子だ。ナターシャ・フォレスト嬢、幼い頃から……ずっと貴女をお慕いしていました」
そう告げると、彼はあまりに自然に、わたしの手を取ってその甲に口付けました。
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