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2 婚約は破棄します、王家の有責で

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「むぐ、というわけでお父様、もぐ、申し訳ないのですが婚約の破棄を陛下にお申し出いただけますか? もちろんあちらの有責で」

 今のわたしは帰宅した正装姿そのままに、フォレスト侯爵……お父様の執務室に運ばせたアフタヌーンティーセットとあらゆるケーキやマカロンやフィナンシェを口に入れ、お茶で口をリセットしながら甘味をこれでもかとたんのうしつつ、お父様にことのあらましを説明しおえたところです。

 わたしのこれは一種のストレス解消でして、きびしい教養と多国語と異文化、複数の教義を持つ宗教などの教育、そのほかにはダンス、乗馬、剣技に弓道、暗器による自衛から重量のあるドレスとハイヒールでの館内徒競走も含まれます。食べたら動きますので太りません、ご安心を。

 こんな過密スケジュールですから、わたしには寝て忘れるだとか趣味をたしなむだとか、そういうストレス解消はありません。結果、小さいころからストレスがたまって爆発する前に甘味で心を癒しています。あ、このフィナンシェのアーモンドプードルの効き具合、絶妙ですね。後でおかわりしましょう。

 それを知っているのでお父様はわたしのストレス解消行動には何も言いませんが、話の内容にはわたしと同じく頭を痛めているようです。

 お行儀が悪いのもおとがめなしです。外ではちゃんとしているのと、お父様は領地の運営のほかに宰相としても働いています。第二王子について思うところがあったのはわたしだけではなく、結果わたしが飛び抜けて優秀でなければならないと思い至っての過密スケジュールでしたから。このくらいは許されなければ、人間壊れてしまいます。

「……言ってもせん無いことだが、お前はそれで構わないのか?」

 はて、構わないのか、とはどういうことでしょうか? フィーナ嬢の証言ひとつで証拠もないでっちあげを理由に、国中から集められた同年代の貴族の子息令嬢の前でわたしは婚約破棄を言いわたされました。

「逆にお尋ねしますが、これで婚約を破棄しなかった場合、ことがすんなり進むとお思いですか? お父様」

「…………非常にいまいましいが、思わないな」

 そう、もしこれで……バカだバカだとは思っていましたが、王家と侯爵家の婚約を王子ひとりの意思でもって人目のある場所で破棄を宣言しながら、婚約解消とならなかった場合、パーシバル殿下のお立場が悪くなります。

 あれだけ堂々と婚約破棄を、しかもまだ成立していない状態でほかのご婦人の肩を抱いて宣言しておいて、両家の間では無効です、では顔がたたないのは王家です。

 腹の黒い家臣も当然います、つけいる隙になることは間違い無いでしょうね。

「わたしが、むぐ、耐えてきたのは国のため、ひいては我が家のためです。クーデターなど、あぐ、起こされては全てが無意味。みにつけたことは無駄にはなりませんので、わたしのことは気にせず婚約は破棄しましょう。ただし、これまでにかかったわたしの養育費の8割と、んっく、もぐもぐ……、慰謝料として2割。その程度でかたむく王家ではございませんでしょう」

「我が家の育て方は婚約が決まった時点で間違ってはいなかったが……、そのだな、もう少しさめざめ泣くだとか、これまでの努力は、とか、あとはもう少し緊張感は持てないのか?」

 と、言われましても。問題となるのは今後の嫁ぎ先くらいで……それでも、王家有責の婚約破棄ならばそんなに支障もございませんし。

 そうですね……私が憂える事といえば、せいぜいこの国の未来くらいでしょうか?
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