8 / 22
8 レッスン開始……終了?
しおりを挟む
楽しいお茶会から数日。しばらくは邸に滞在されるというご両親がいる間に、パーティーにご一緒する事になった。
筆頭公爵家が出席するパーティーとなると、相当私より家格が上の方ばかり集まるはずだ。パーティー本番の2週間後までに、多少でもマナーやダンスを上達させたいとお願いした所、毎日盛装して通っておいで、とクロウウェル様に言われた。
公爵家の方が選んだ方に指導されるなら間違いない。ここからが私の苦労の始まりだわ、とアニーが日々街に赴いては仕込んでくるヘアメイクを施されて、私は気合いたっぷりに公爵家に通いはじめた。
感想。拍子抜けした。
たしかに我が家は子爵家ではあるけれど、長く続いている家系ではあるし、マナーもダンスも一通り習ってはきた。まさかそれが公爵家で通用するなどと誰が思うだろう。
マナー講師は私の姿勢の良さと歩き方は褒めちぎり、逆にテーブルマナーは少し手直しをされたくらいで。マナー講師は伯爵夫人だったのだけれど、いわく全ての基本は姿勢にあるらしく……運動神経だけはいいと自覚してはいたけれど、指先まで神経の通っている素晴らしい動作だと褒めてくれたので、あとは会話面の練習と称してカトリーヌ様を交えたお茶会になる日々だった。
ダンスの方も、踊ったことのないステップではあったのだけれど、これもまた姿勢から運動神経のよさが幸いして、厳しい指導とはならなかった。ダンス講師はバリス公爵家の執事さんで、クロウウェル様のご指導もなさっていたとか。
薄汗をかくことも無く、次々に新しいステップを覚えるのは楽しく、その楽しいが笑顔に繋がっていて表情も完璧だと褒められた。
しかし、さすがに怪しい。
これこそ仕込みでは無いだろうか? もしかして、私、今猿回しの猿のように踊らされているのでは? ダンスだけに。
マナーもダンスも問題ないからと、これまた練習が終わるとクロウウェル様やご両親とのお茶会。毎回美味しいお茶とお菓子が出てきて、私は当日までに太りはしないかとヒヤヒヤした。買ってもらったドレスは、まだ新品のものが山ほどある。
しかし、仕込みは仕込みでも、このお茶会こそが本当の仕込みだったらしい。
「君はよく勉強している。男性の会話に入っても違和感なく話せる女性はそういない」
「本当よ。それにちゃんと流行も抑えているのね。女性の会話でも困ることはないでしょう」
お茶会こそが本当の訓練だったようだ。
私はただ、穀倉地帯で育ったために、どの土地でも重宝される麦が、どの土地の何と交換されているのかを大雑把に覚えていて。父が事業をしていたから、事業経営の知識も多少知っているくらいで。もちろん自分が事業できるような知識はない。けれど、ダリアン様が振ってくださる話には確かについていけた。
流行はアニーが毎日お喋りして教えてくれているし、あの魔の10日間で最新のドレスはどんなものか、宝飾品は、靴は、とプロの売り込みを耳にタコができるほど聞かされたので、もちろん嫌という程理解させられていた。
は、と思ってクロウウェル様をみる。悪戯がバレたように笑っているが、少なくとも流行については、ドレスを贈ると言ってくれた時には予測していた事だったのだろう。
女性が男性と対等に事業や政治について話す必要はないが、ある程度理解して話を続けられるというのは社交という場では必要だ。相手を楽しませるのに、馬鹿でいてもいいのはもっと若い子だけだろう。
そして、女性の流行というのは移り変わりが激しい。雑誌を読んでいるとかならともかく、私はそれより外を歩き植物の知識をつけたりする方が好きだから……、見た目でも知識でもちゃんと恥をかかないように、クロウウェル様は仕込んでくださっていたようだ。
ここまでよくされて、パーティーでクロウウェル様に恥をかかせる訳にはいかない。
私はソツなく「ありがとうございます」と答えながら、寝る前にアニーとのおしゃべりの時間をもう少しもうけようと思った。
筆頭公爵家が出席するパーティーとなると、相当私より家格が上の方ばかり集まるはずだ。パーティー本番の2週間後までに、多少でもマナーやダンスを上達させたいとお願いした所、毎日盛装して通っておいで、とクロウウェル様に言われた。
公爵家の方が選んだ方に指導されるなら間違いない。ここからが私の苦労の始まりだわ、とアニーが日々街に赴いては仕込んでくるヘアメイクを施されて、私は気合いたっぷりに公爵家に通いはじめた。
感想。拍子抜けした。
たしかに我が家は子爵家ではあるけれど、長く続いている家系ではあるし、マナーもダンスも一通り習ってはきた。まさかそれが公爵家で通用するなどと誰が思うだろう。
マナー講師は私の姿勢の良さと歩き方は褒めちぎり、逆にテーブルマナーは少し手直しをされたくらいで。マナー講師は伯爵夫人だったのだけれど、いわく全ての基本は姿勢にあるらしく……運動神経だけはいいと自覚してはいたけれど、指先まで神経の通っている素晴らしい動作だと褒めてくれたので、あとは会話面の練習と称してカトリーヌ様を交えたお茶会になる日々だった。
ダンスの方も、踊ったことのないステップではあったのだけれど、これもまた姿勢から運動神経のよさが幸いして、厳しい指導とはならなかった。ダンス講師はバリス公爵家の執事さんで、クロウウェル様のご指導もなさっていたとか。
薄汗をかくことも無く、次々に新しいステップを覚えるのは楽しく、その楽しいが笑顔に繋がっていて表情も完璧だと褒められた。
しかし、さすがに怪しい。
これこそ仕込みでは無いだろうか? もしかして、私、今猿回しの猿のように踊らされているのでは? ダンスだけに。
マナーもダンスも問題ないからと、これまた練習が終わるとクロウウェル様やご両親とのお茶会。毎回美味しいお茶とお菓子が出てきて、私は当日までに太りはしないかとヒヤヒヤした。買ってもらったドレスは、まだ新品のものが山ほどある。
しかし、仕込みは仕込みでも、このお茶会こそが本当の仕込みだったらしい。
「君はよく勉強している。男性の会話に入っても違和感なく話せる女性はそういない」
「本当よ。それにちゃんと流行も抑えているのね。女性の会話でも困ることはないでしょう」
お茶会こそが本当の訓練だったようだ。
私はただ、穀倉地帯で育ったために、どの土地でも重宝される麦が、どの土地の何と交換されているのかを大雑把に覚えていて。父が事業をしていたから、事業経営の知識も多少知っているくらいで。もちろん自分が事業できるような知識はない。けれど、ダリアン様が振ってくださる話には確かについていけた。
流行はアニーが毎日お喋りして教えてくれているし、あの魔の10日間で最新のドレスはどんなものか、宝飾品は、靴は、とプロの売り込みを耳にタコができるほど聞かされたので、もちろん嫌という程理解させられていた。
は、と思ってクロウウェル様をみる。悪戯がバレたように笑っているが、少なくとも流行については、ドレスを贈ると言ってくれた時には予測していた事だったのだろう。
女性が男性と対等に事業や政治について話す必要はないが、ある程度理解して話を続けられるというのは社交という場では必要だ。相手を楽しませるのに、馬鹿でいてもいいのはもっと若い子だけだろう。
そして、女性の流行というのは移り変わりが激しい。雑誌を読んでいるとかならともかく、私はそれより外を歩き植物の知識をつけたりする方が好きだから……、見た目でも知識でもちゃんと恥をかかないように、クロウウェル様は仕込んでくださっていたようだ。
ここまでよくされて、パーティーでクロウウェル様に恥をかかせる訳にはいかない。
私はソツなく「ありがとうございます」と答えながら、寝る前にアニーとのおしゃべりの時間をもう少しもうけようと思った。
3
お気に入りに追加
1,168
あなたにおすすめの小説

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。
うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。
お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。
噂通りなのかしら…。
でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。
たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。
☆★
虫、の話も少しだけ出てきます。
作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。
☆★☆★
全25話です。
もう出来上がってますので、随時更新していきます。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる