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3 婚約話がまとまっていました

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「リナ、こちらへ。さ、公爵様にお礼なさい。お前を屋敷まで運んで下さったのだから」
「お元気そうでよかった。どこにも異常は無いと医者から聞いてはいましたが、こうして立って歩けるのなら大丈夫そうですね」

 はい、おかげさまで。ですが、公爵様が上着を脱いでシャツにカマーベルトだけの姿でいらっしゃるという事は……ばっちり私は公爵様の上に落っこちたのでしょう。
 私を叱るどころか機嫌良く呼ぶお父様の隣にならび、深く礼をして公爵様にお礼を言った。

「この度は危ないところを助けていただいた上、屋敷まで運んでくださり、まこ、誠に申し訳ありませんでした、ありがとうございます……!」

 噛んだ上に声が震える。自分で言っていてなんだが、成人してから『自ら登った木から落ちて』このお礼を言う貴族の令嬢など私くらいなものだろう。恥ずかしい。中々顔はあげられない。
 すると、クスクスと楽しげに笑った公爵様が顔を上げて、と促してきた。耳まで真っ赤な私は恐る恐る顔を上げると、本当に美しい彫刻もかくやという造形のお顔が、心から楽しそうに笑っている。

 この笑顔が私が木から落ちたせいでなければ素直にときめけるのに、私の自業自得の羞恥心がまさってときめくどころではない。が、気分を害されていないようでホッとした。促されてお父様の隣、バリス公爵様のお向かいに座る。

「大丈夫、君は羽根のように軽かったし、木の枝に座る姿は絵画のようだったよ」
「………………お褒めに預かり光栄です」

 褒められてる、よね? 私の心が王都の社交界でスレているのでなければ、これは嫌味ではなく褒め言葉のはず。
 少し考えてから返事をしてご尊顔を覗くように見ると、心からそう思っているような優しい眼差しが返ってきた。これは、本当にそう思って……私にそう思わせてくれようとしている。気にしなくていい、と。

 なぜ筆頭公爵様ともあろうお方が私にこんなによくしてくれているのか、そもそもなぜこの土地に来ていたのかを聞く前に、少し酔って気分の良くなったお父様が爆弾発言を落とした。

「という事でリナ、お前を婚約者にとバリス公爵様がおっしゃってくださっている。公爵家への嫁入りともなると学ぶことも多い、バリス様は数日後王都に帰られるそうだから、お前も行って花嫁修行してきなさい」
「そういう事になったんだ、リナ嬢。来てくれるね?」

 来てくれるかな、という質問でもなく、来てくれるよね、という期待でもなく、来てくれるね、という確認。
 これをこの場で断る理由も道理も育て方もされていない私は、公爵様とお父様の間で取り決めとなった婚約に、ただ小さく頷くしかできなかった。

 本当にもう一度フェードアウトしてしまいたいくらい、私は混乱している。
 一度失礼をして、また晩餐の時に、と部屋に戻る事にした。その間、ずっと公爵様の視線がついてきた気がするけど、気のせいよね?
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