3 / 22
3 婚約話がまとまっていました
しおりを挟む
「リナ、こちらへ。さ、公爵様にお礼なさい。お前を屋敷まで運んで下さったのだから」
「お元気そうでよかった。どこにも異常は無いと医者から聞いてはいましたが、こうして立って歩けるのなら大丈夫そうですね」
はい、おかげさまで。ですが、公爵様が上着を脱いでシャツにカマーベルトだけの姿でいらっしゃるという事は……ばっちり私は公爵様の上に落っこちたのでしょう。
私を叱るどころか機嫌良く呼ぶお父様の隣にならび、深く礼をして公爵様にお礼を言った。
「この度は危ないところを助けていただいた上、屋敷まで運んでくださり、まこ、誠に申し訳ありませんでした、ありがとうございます……!」
噛んだ上に声が震える。自分で言っていてなんだが、成人してから『自ら登った木から落ちて』このお礼を言う貴族の令嬢など私くらいなものだろう。恥ずかしい。中々顔はあげられない。
すると、クスクスと楽しげに笑った公爵様が顔を上げて、と促してきた。耳まで真っ赤な私は恐る恐る顔を上げると、本当に美しい彫刻もかくやという造形のお顔が、心から楽しそうに笑っている。
この笑顔が私が木から落ちたせいでなければ素直にときめけるのに、私の自業自得の羞恥心がまさってときめくどころではない。が、気分を害されていないようでホッとした。促されてお父様の隣、バリス公爵様のお向かいに座る。
「大丈夫、君は羽根のように軽かったし、木の枝に座る姿は絵画のようだったよ」
「………………お褒めに預かり光栄です」
褒められてる、よね? 私の心が王都の社交界でスレているのでなければ、これは嫌味ではなく褒め言葉のはず。
少し考えてから返事をしてご尊顔を覗くように見ると、心からそう思っているような優しい眼差しが返ってきた。これは、本当にそう思って……私にそう思わせてくれようとしている。気にしなくていい、と。
なぜ筆頭公爵様ともあろうお方が私にこんなによくしてくれているのか、そもそもなぜこの土地に来ていたのかを聞く前に、少し酔って気分の良くなったお父様が爆弾発言を落とした。
「という事でリナ、お前を婚約者にとバリス公爵様がおっしゃってくださっている。公爵家への嫁入りともなると学ぶことも多い、バリス様は数日後王都に帰られるそうだから、お前も行って花嫁修行してきなさい」
「そういう事になったんだ、リナ嬢。来てくれるね?」
来てくれるかな、という質問でもなく、来てくれるよね、という期待でもなく、来てくれるね、という確認。
これをこの場で断る理由も道理も育て方もされていない私は、公爵様とお父様の間で取り決めとなった婚約に、ただ小さく頷くしかできなかった。
本当にもう一度フェードアウトしてしまいたいくらい、私は混乱している。
一度失礼をして、また晩餐の時に、と部屋に戻る事にした。その間、ずっと公爵様の視線がついてきた気がするけど、気のせいよね?
「お元気そうでよかった。どこにも異常は無いと医者から聞いてはいましたが、こうして立って歩けるのなら大丈夫そうですね」
はい、おかげさまで。ですが、公爵様が上着を脱いでシャツにカマーベルトだけの姿でいらっしゃるという事は……ばっちり私は公爵様の上に落っこちたのでしょう。
私を叱るどころか機嫌良く呼ぶお父様の隣にならび、深く礼をして公爵様にお礼を言った。
「この度は危ないところを助けていただいた上、屋敷まで運んでくださり、まこ、誠に申し訳ありませんでした、ありがとうございます……!」
噛んだ上に声が震える。自分で言っていてなんだが、成人してから『自ら登った木から落ちて』このお礼を言う貴族の令嬢など私くらいなものだろう。恥ずかしい。中々顔はあげられない。
すると、クスクスと楽しげに笑った公爵様が顔を上げて、と促してきた。耳まで真っ赤な私は恐る恐る顔を上げると、本当に美しい彫刻もかくやという造形のお顔が、心から楽しそうに笑っている。
この笑顔が私が木から落ちたせいでなければ素直にときめけるのに、私の自業自得の羞恥心がまさってときめくどころではない。が、気分を害されていないようでホッとした。促されてお父様の隣、バリス公爵様のお向かいに座る。
「大丈夫、君は羽根のように軽かったし、木の枝に座る姿は絵画のようだったよ」
「………………お褒めに預かり光栄です」
褒められてる、よね? 私の心が王都の社交界でスレているのでなければ、これは嫌味ではなく褒め言葉のはず。
少し考えてから返事をしてご尊顔を覗くように見ると、心からそう思っているような優しい眼差しが返ってきた。これは、本当にそう思って……私にそう思わせてくれようとしている。気にしなくていい、と。
なぜ筆頭公爵様ともあろうお方が私にこんなによくしてくれているのか、そもそもなぜこの土地に来ていたのかを聞く前に、少し酔って気分の良くなったお父様が爆弾発言を落とした。
「という事でリナ、お前を婚約者にとバリス公爵様がおっしゃってくださっている。公爵家への嫁入りともなると学ぶことも多い、バリス様は数日後王都に帰られるそうだから、お前も行って花嫁修行してきなさい」
「そういう事になったんだ、リナ嬢。来てくれるね?」
来てくれるかな、という質問でもなく、来てくれるよね、という期待でもなく、来てくれるね、という確認。
これをこの場で断る理由も道理も育て方もされていない私は、公爵様とお父様の間で取り決めとなった婚約に、ただ小さく頷くしかできなかった。
本当にもう一度フェードアウトしてしまいたいくらい、私は混乱している。
一度失礼をして、また晩餐の時に、と部屋に戻る事にした。その間、ずっと公爵様の視線がついてきた気がするけど、気のせいよね?
1
お気に入りに追加
1,162
あなたにおすすめの小説
【完結】想い人がいるはずの王太子殿下に求婚されまして ~不憫な王子と勘違い令嬢が幸せになるまで~
Rohdea
恋愛
──私は、私ではない“想い人”がいるはずの王太子殿下に求婚されました。
昔からどうにもこうにも男運の悪い侯爵令嬢のアンジェリカ。
縁談が流れた事は一度や二度では無い。
そんなアンジェリカ、実はずっとこの国の王太子殿下に片想いをしていた。
しかし、殿下の婚約の噂が流れ始めた事であっけなく失恋し、他国への留学を決意する。
しかし、留学期間を終えて帰国してみれば、当の王子様は未だに婚約者がいないという。
帰国後の再会により再び溢れそうになる恋心。
けれど、殿下にはとても大事に思っている“天使”がいるらしい。
更に追い打ちをかけるように、殿下と他国の王女との政略結婚の噂まで世間に流れ始める。
今度こそ諦めよう……そう決めたのに……
「私の天使は君だったらしい」
想い人の“天使”がいるくせに。婚約予定の王女様がいるくせに。
王太子殿下は何故かアンジェリカに求婚して来て───
★★★
『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』
に、出て来た不憫な王太子殿下の話になります!
(リクエストくれた方、ありがとうございました)
未読の方は一読された方が、殿下の不憫さがより伝わるような気がしています……
とりあえず天使な義弟に癒されることにした。
三谷朱花
恋愛
彼氏が浮気していた。
そして気が付けば、遊んでいた乙女ゲームの世界に悪役のモブ(つまり出番はない)として異世界転生していた。
ついでに、不要なチートな能力を付加されて、楽しむどころじゃなく、気分は最悪。
これは……天使な義弟に癒されるしかないでしょ!
※アルファポリスのみの公開です。
拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
死にたがり令嬢が笑う日まで。
ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」
真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。
正直、どうでもよかった。
ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。
──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。
吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる