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11.処刑の刻

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 遂に来た。来てしまった。
 抜き身のレイピアを手に近づいてくるアエルバートに恐怖しながら後ずさる。
 幸いにしてここは出入口の近くだった。会場から逃げ出すのが難しいということはない。しかし王子としてそれなりに鍛えているアエルバートと普通の小娘の私の体力差では距離を取ることが最も困難と言える。
 なんとか隙を見つけて逃げたいけれど。

「大人しくしていればすぐに済む」

 レイピアの剣先がすぐに届いてしまいそうな距離。
 死を待つだけなんて、ごめんよ!
 私は重いドレスを強く蹴って走り出した。しかし……。

「っ! 待て!」

 髪を掴まれて引きずり倒される。受け身も取れずに背中から床に叩きつけられた。
 周囲から悲鳴が上がる中、アエルバートの怒りの籠もった声が私に向けられる。

「なんという無様さ。潔く罰を受け入れもしない姿勢は醜いぞ」
「あうっ!」

 鋭い痛みが左肩を貫いた。レイピアの刺さる傷口が燃えるように熱い。逃げたいけど動けばさらに傷口を広げることになるせいで、ただ床でのたうち回るだけになる。

「痛いだろう。このレイピアには我が一族の特殊な毒が塗ってある。万が一この場から逃げおおせたとしても、この毒が必ず貴様の命を奪う」

 ど、毒⁉ アエルバートルートでのセラフィンの死因って毒殺になるの⁉
 仰向けのままアエルバートを見上げると、怒りの籠もった緑色の瞳と視線が合った。アエルバートにとって私はもはや害でしかないのだろう。
 毒というのは本当だったみたい。目が霞んできたし、頭も熱をもってぼんやりとする。

「意識が失ってからでは死を感じられないだろう。今すぐあの世へ送ってやる」

 私の様子を見たアエルバートが冷たく言い放った。レイピアが一度引き抜かれ、その切っ先が喉に照準を合わせる。
 もうダメ。このままここで死ぬしかないんだ。
 ストーリーで決まっていることは変えられない。ここでこうして死ぬのがセラフィンの運命だったんだ。
 ぎゅっと目を閉じて最期を待つ。
 ……けれど、予想した衝撃はいつまで経ってもやって来ない。
 おそるおそる目を開けると、誰かがアエルバートの腕を掴んで止めていた。
 エメラルドのような輝く髪とはちみつ色の瞳。それに見覚えのある眼帯。

「あなたは……」

 意識があったのはそこまでで、ふっと目の前が真っ暗になった。
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