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第2章 神々の運命

第43話 魔法の性質

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 カレンとヘラクレスが率いる部隊は敵に向けて突撃を開始した。
 その勢いは凄まじく、魔獣だろうと巨人だろうと容赦なく打ち倒されていく。

「すごい、あの数の敵をあんなにあっさりと倒すなんて……」

 中でもカレンとヘラクレスに至ってはたった一撃で敵を屠っており、後方にいる優香が通る頃には敵がほとんど残っていなかった。

「優香さん!直に転移魔法の下に着きます。用意を」
「しゃあッ!転移魔法の周辺にいる敵は俺が根絶やしにするぜ!」
「はい、お願いします!!」

 優香たちの進む先には不気味な紫色の光を放つ渦が存在していた。それこそロキの使った転移魔法である。
 その転移魔法の周囲は、転移してきたばかりであろう魔獣と巨人たちで溢れかえっていた。
 それを確認したヘラクレスは一人飛び出し、拳に纏う強大な力を敵に向けて放った。

「地表を穿ち、空を飛べーー”英雄の鉄拳イロアス・カノン”!!!」

 放たれた英雄の一撃は凄まじく、転移魔法の周囲に群がる敵を一掃してしまう。
 優香は敵がいなくなったのを見計らい、その身に風を纏って飛翔し、転移魔法の下まで辿り着いた。

「頼むぜお嬢!!」
「はいッ!!」
「我々は優香さんを中心に円状に展開、転移魔法の無力化が完了するまで優香さんを守ります!」

 敵は左右にある転移魔法からも現れる。そのため部隊はすぐさま動き出し、優香の身を守った。
 また、優香も転移魔法を無力化するためその手に白く輝く魔法陣を展開させる。

(これが、ロキの転移魔法。私の使う転移魔法よりずっと複雑だ。でも魔法を構成する基礎の部分はそんなに変わらないみたいだ)

 まず優香はロキの転移魔法について解析した。
 解析によって得た情報から転移魔法の構成を読み解いていく。

(やっぱりそうだ。ロキは北欧神話の神様だから私の持つ”魔導王”の力と性質が似てるんだ。これなら私でもなんとか……)

 優香の持つ力である”魔導王”とロキは共に北欧神話の神。
 そのためロキの使う魔法と優香の使う魔法はとてもよく似た種類の魔法だった。

「ヘラクレスさんッ!左右の敵が我々の存在に気づいたようです!」
「ああ、なんとしてもお嬢を守り抜くぞッ!!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉッッ!!!」」」

 左右にある転移魔法から現れた敵は優香たちの行動に気づき、それを止めようと動き出していた。
 このまま左右両方の敵と戦えば挟み撃ちになってしまう。一刻も早く転移魔法を無力化し戦闘に備えなければならない状況だった。

(みんな私のために……いや、勝つために必死に戦ってる。なら私も……私に出来ることを全力でやらなきゃ!)

 優香はロキの転移魔法を解析したことによって得た情報を元に、展開していた魔法陣を一度分解し再構築する。

(細かい調整が凄く難しい。でも、これが出来ればロキの転移魔法を無力化させられるんだ。絶対成功させなきゃ……)

 分解された白い魔法陣は再び形を成していく。
 そしてついに完成された魔法陣は、最初に展開したものと模様が反転した魔法陣だった。

(で、出来たッ!!後はこれをロキの転移魔法に組み込んでいくだけだ!)

 優香は完成した魔法陣を紫色の渦に押し込んでいく。
 すると紫色の渦が逆回転し始め、やがて渦にヒビが入っていき隙間から真っ白な光が差し込んでくる。

「もう、少しッ……」

 優香は力を振り絞る。その瞳には不思議な模様が浮かんでいた。
 紫色の渦のヒビが細かくなっていく。
 そしてついに、ロキの転移魔法はガラスが割れるようにして砕け散った。

「や、やった……ロキの転移魔法をッ……無力化したッ!!」
「よっしゃあッ!!さっすが姉御の見込んだ人だぜ!」
「よくやってくださいました優香さん!これでこの戦いを有利に運べます!」

 ロキの転移魔法の無力化に成功した優香は地べたにへたり込んでしまった。
 転移魔法は高度な魔法のため解析するには相当な集中力がいる。さらに自らの魔法陣を組み替えるのも緻密な作業だったため、優香は心身ともに疲弊しきっていた。

「ヘラクレスさん!今のうちに左右の敵を制圧しましょう!優香さんはここで休んでいてください。左右それぞれ敵の数が減ってきたら再び転移魔法を無力化していただきたいのです。お願いできますか?」
「はいっ!任せてください!」
「よしお前らッ!左右の敵を根絶やしにし、姉御が帰って来る前にこの戦いを終わらせるぞッ!」
「では優香さん、また後ほど」

 中央の転移魔法が無力化されたことにより、敵の数が大幅に減った。
 カレンたちは作戦通り部隊を二つに分け、左側をカレンが右側をヘラクレスが率いて進んでいった。

「はぁ……はぁ……よ、よかった。私もちょっとは役に立てたかな?神斗」

 その時だった。
 地面に座って休んでいた優香の頭上から何かが降ってきた。正確に言えば、何者かが降りてきた。

『おうおう、やってくれよったなぁ?小娘よ』
「え……な、なんで貴方がここに?」

 疲れ果てていた優香の目の前に現れたのは、北欧神話の世界から転移してきたロキだった。
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