上 下
42 / 47

歪む想い

しおりを挟む
「いっ・・つっ・・。」

頬の鋭い痛みで目が覚めた。
僕は石作りの床に転がされている様だ。

・・さっきのは都合のいい夢かな・・お父さんに会えるなんて・・。

体中が打ち付けられた様に痛い・・床の冷たさが逆に心地いいや。
身動ぎした時、ジャラリと、やけに音が響いて、手足に枷をつけられている事に気が付いた。首にもご丁寧に魔力封じの枷がはめられている。
見張りかな?男が一人いる・・。

「あれを喰らって、その程度で済んでいるとは、流石賢者殿だ。」

男がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて覗き込んできた・・この人、シーア側で資料を用意していた人だ。

「あなたシーアの人だよね・・。」

「そうだよ『黒』殿。手荒なお招きを詫びた方がいいかな?」

短剣をひらひら見せつけながらの、上辺だけの謝罪に何の意味があるのさ、要らないよ。

・・深呼吸、深呼吸。
うん・・この人は、僕を直ぐにどうこうする気は無いみたいだ・・。
・・指は動く・・足も大丈夫・・体は痛いだけで大きな損傷の無い・・声は・・さっき出たか。考えもクリアだ。
封じられたのは魔法だけなら、まだ望みはある・・。

イヤーカフは砕けてるみたいだから、ロベリア達とは連絡取れないか・・あぁ心配して・・いや怒り狂ってるかなぁ?
お城の皆大丈夫かな・・。
・・うん、どうにかしてこの窮地を脱しないと、求婚事件の様に、またまた世界が危うい気がしてきたよ・・。

体力を温存しときたいから、首だけ動かして辺りを伺う。
ずいぶん薄暗い所だけど、狼の目には何の問題も無い。

神殿?遺跡?人の出入りはあるみたいだ、空気も淀んでないし床も手入れがしてある・・出入口は一ヶ所だけか・・巨大な彫像が置いてある。
ピカピカして黒曜石みたい。

・・遠くから、大人数の気配が近づいてきてるけど、音に乱れもない、助けじゃなさそう。

「・・僕を攫った理由は何?」

「贄だよ。この『黒喰い』に捧げるには黒殿ほど相応しい贄はいないだろう?」

男はうっとりとした表情で黒い彫像を撫でたかと思うと、手に持った短剣の柄を叩きつけた。
砕けた彫像の小さな欠片を指で摘まみ上げ魔力を流すと、石がうぞうぞと動きだした。ぽいっと床に投げ捨てる。
投げられたスライムは闇に紛れて、見えなくなった。

「これが黒スライムの正体。この『黒喰い』の欠片だ。私が実験の為に、あちこちに撒いてるんだよ。時限式に魔力を与える陣と一緒に撒いてあるから、私が怪しまれる心配もない。」

なるほど、だから気配もなく突然現れるのか・・。
この巨大な塊が『黒喰い』・・森で戦ったスライムが子犬に思えるね。
この大きさがスライム化したら・・。

『現世に戻ったら『黒喰い』を浄化しておくれ。あれはもうただの澱だけど、伝播するよ。世にあってはいけない物だ。あれが残っている限り兄者はここに囚われ続ける。』

・・お父さん。

「・・実験の成果がでているのに、『黒喰い』を滅せられてたまるか・・。私ならこの力を御し有意義に使ってみせる。私こそが力を持つに相応しいのだ・・安穏と無意味に生きる有象無象達とは私は違う・・。」

あぁ、この人の背に影が蠢いて見える。呪いを吐く様にぶつぶつ話す、その顔の半分が黒く歪んで見える。

― 忌避すべきは羨慕の想い
    妬むなかれ
    嫉むなかれ
    僻むなかれ   ―

この人自身が『黒喰い』に成りかけているんだ
叔父さんもこうやって『黒喰い』に?
そして禁忌を犯し、最後にはあの深い水底の暗闇に一人きり・・いや叔父さんにはお父さんがいた。
では、この人には・・?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ
ファンタジー
誰もが動物神の加護を得て、魔法を使ったり身体能力を向上させたり、動物を使役できる世界であまりにも異質で前例のない『蟲神』の加護を得た良家の娘・ハシャラ。 周りの人間はそんな加護を小さき生物の加護だと嘲笑し、気味が悪いと恐怖・侮蔑・軽蔑の視線を向け、家族はそんな主人公を家から追い出した。 お情けで譲渡された辺境の村の領地権を持ち、小さな屋敷に来たハシャラ。 薄暗く埃っぽい屋敷……絶望する彼女の前に、虫型の魔物が現れる。 悲鳴を上げ、気絶するハシャラ。 ここまでかと覚悟もしたけれど、次に目覚めたとき、彼女は最強の味方たちを手に入れていた。 そして味方たちと共に幸せな人生を目指し、貧しい領地と領民の正常化・健康化のために動き出す。

創星のレクイエム

有永 ナギサ
ファンタジー
 2024年、今や世界中の人々が魔法を使えるようになった時代。世界はレイヴァ―スが創設した星葬機構と、神代が創設した大財閥クロノス。この二陣営が己が悲願のために争っていた。  そんな中最強クラスの魔法使いである四条陣は、禁忌の力に飢えながらも裏の仕事をこなす日々を送っていた。しかし一人の少女との出会いをきっかけに、陣は見つけてしまう。かつてこの混沌に満ちた世界を生み出した元凶。サイファス・フォルトナーの遺産を。  元四条家次期当主としての因縁、これまで姿をくらませていたレーヴェンガルトの復活、謎の少女と結ぶ禁忌の契約。陣が辿り着く果ては己が破滅か、それとも……。これは魔都神代特区を舞台に描かれる、星を歌う者たちの物語。 小説家になろう様、アルファポリス様にも掲載しています。

踊れば楽し。

紫月花おり
ファンタジー
【前世は妖!シリアス、ギャグ、バトル、なんとなくブロマンスで、たまにお食事やもふもふも!?なんでもありな和風ファンタジー!!?】  俺は常識人かつ現実主義(自称)な高校生なのに、前世が妖怪の「鬼」らしい!?  だがもちろん前世の記憶はないし、命を狙われるハメになった俺の元に現れたのは──かつての仲間…キャラの濃い妖怪たち!!? ーーー*ーーー*ーーー  ある日の放課後──帰宅中に謎の化け物に命を狙われた高校2年生・高瀬宗一郎は、天狗・彼方に助けられた。  そして宗一郎は、自分が鬼・紅牙の生まれ変わりであり、その紅牙は妖の世界『幻妖界』や鬼の宝である『鬼哭』を盗んだ大罪人として命を狙われていると知る。  前世の記憶も心当たりもない、妖怪の存在すら信じていなかった宗一郎だが、平凡な日常が一変し命を狙われ続けながらも、かつての仲間であるキャラの濃い妖たちと共に紅牙の記憶を取り戻すことを決意せざるをえなくなってしまった……!?  迫り来る現実に混乱する宗一郎に、彼方は笑顔で言った。 「事実は変わらない。……せっかくなら楽しんだほうが良くない?」  そして宗一郎は紅牙の転生理由とその思いを、仲間たちの思いを、真実を知ることになっていく── ※カクヨム、小説家になろう にも同名義同タイトル小説を先行掲載 ※以前エブリスタで作者が書いていた同名小説(未完)を元に加筆改変をしています

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

異世界図書館の幽霊って私のことですか?

木漏れ日
ファンタジー
若槻美緒は活字中毒が高じて28歳になっても彼氏なし。ある朝会社にいこうと扉を開いたら、なんと異世界図書館に繋がってしまった。美緒は狂喜乱舞してそのまま図書館に住み着いたのだが、いつの間にか幽霊に間違われていることに気づく。実は美緒を召喚したのは、天才魔術師のセディで、美緒はセディの番だと言うのだが……。 陰陽の姫シリーズ『ざまぁに失敗したけれど辺境伯に溺愛されています』と連動しています。どちらからお読み頂いても話は通じます。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...