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歪む想い
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「いっ・・つっ・・。」
頬の鋭い痛みで目が覚めた。
僕は石作りの床に転がされている様だ。
・・さっきのは都合のいい夢かな・・お父さんに会えるなんて・・。
体中が打ち付けられた様に痛い・・床の冷たさが逆に心地いいや。
身動ぎした時、ジャラリと、やけに音が響いて、手足に枷をつけられている事に気が付いた。首にもご丁寧に魔力封じの枷がはめられている。
見張りかな?男が一人いる・・。
「あれを喰らって、その程度で済んでいるとは、流石賢者殿だ。」
男がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて覗き込んできた・・この人、シーア側で資料を用意していた人だ。
「あなたシーアの人だよね・・。」
「そうだよ『黒』殿。手荒なお招きを詫びた方がいいかな?」
短剣をひらひら見せつけながらの、上辺だけの謝罪に何の意味があるのさ、要らないよ。
・・深呼吸、深呼吸。
うん・・この人は、僕を直ぐにどうこうする気は無いみたいだ・・。
・・指は動く・・足も大丈夫・・体は痛いだけで大きな損傷の無い・・声は・・さっき出たか。考えもクリアだ。
封じられたのは魔法だけなら、まだ望みはある・・。
イヤーカフは砕けてるみたいだから、ロベリア達とは連絡取れないか・・あぁ心配して・・いや怒り狂ってるかなぁ?
お城の皆大丈夫かな・・。
・・うん、どうにかしてこの窮地を脱しないと、求婚事件の様に、またまた世界が危うい気がしてきたよ・・。
体力を温存しときたいから、首だけ動かして辺りを伺う。
ずいぶん薄暗い所だけど、狼の目には何の問題も無い。
神殿?遺跡?人の出入りはあるみたいだ、空気も淀んでないし床も手入れがしてある・・出入口は一ヶ所だけか・・巨大な彫像が置いてある。
ピカピカして黒曜石みたい。
・・遠くから、大人数の気配が近づいてきてるけど、音に乱れもない、助けじゃなさそう。
「・・僕を攫った理由は何?」
「贄だよ。この『黒喰い』に捧げるには黒殿ほど相応しい贄はいないだろう?」
男はうっとりとした表情で黒い彫像を撫でたかと思うと、手に持った短剣の柄を叩きつけた。
砕けた彫像の小さな欠片を指で摘まみ上げ魔力を流すと、石がうぞうぞと動きだした。ぽいっと床に投げ捨てる。
投げられたスライムは闇に紛れて、見えなくなった。
「これが黒スライムの正体。この『黒喰い』の欠片だ。私が実験の為に、あちこちに撒いてるんだよ。時限式に魔力を与える陣と一緒に撒いてあるから、私が怪しまれる心配もない。」
なるほど、だから気配もなく突然現れるのか・・。
この巨大な塊が『黒喰い』・・森で戦ったスライムが子犬に思えるね。
この大きさがスライム化したら・・。
『現世に戻ったら『黒喰い』を浄化しておくれ。あれはもうただの澱だけど、伝播するよ。世にあってはいけない物だ。あれが残っている限り兄者はここに囚われ続ける。』
・・お父さん。
「・・実験の成果がでているのに、『黒喰い』を滅せられてたまるか・・。私ならこの力を御し有意義に使ってみせる。私こそが力を持つに相応しいのだ・・安穏と無意味に生きる有象無象達とは私は違う・・。」
あぁ、この人の背に影が蠢いて見える。呪いを吐く様にぶつぶつ話す、その顔の半分が黒く歪んで見える。
― 忌避すべきは羨慕の想い
妬むなかれ
嫉むなかれ
僻むなかれ ―
この人自身が『黒喰い』に成りかけているんだ
叔父さんもこうやって『黒喰い』に?
そして禁忌を犯し、最後にはあの深い水底の暗闇に一人きり・・いや叔父さんにはお父さんがいた。
では、この人には・・?
頬の鋭い痛みで目が覚めた。
僕は石作りの床に転がされている様だ。
・・さっきのは都合のいい夢かな・・お父さんに会えるなんて・・。
体中が打ち付けられた様に痛い・・床の冷たさが逆に心地いいや。
身動ぎした時、ジャラリと、やけに音が響いて、手足に枷をつけられている事に気が付いた。首にもご丁寧に魔力封じの枷がはめられている。
見張りかな?男が一人いる・・。
「あれを喰らって、その程度で済んでいるとは、流石賢者殿だ。」
男がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて覗き込んできた・・この人、シーア側で資料を用意していた人だ。
「あなたシーアの人だよね・・。」
「そうだよ『黒』殿。手荒なお招きを詫びた方がいいかな?」
短剣をひらひら見せつけながらの、上辺だけの謝罪に何の意味があるのさ、要らないよ。
・・深呼吸、深呼吸。
うん・・この人は、僕を直ぐにどうこうする気は無いみたいだ・・。
・・指は動く・・足も大丈夫・・体は痛いだけで大きな損傷の無い・・声は・・さっき出たか。考えもクリアだ。
封じられたのは魔法だけなら、まだ望みはある・・。
イヤーカフは砕けてるみたいだから、ロベリア達とは連絡取れないか・・あぁ心配して・・いや怒り狂ってるかなぁ?
お城の皆大丈夫かな・・。
・・うん、どうにかしてこの窮地を脱しないと、求婚事件の様に、またまた世界が危うい気がしてきたよ・・。
体力を温存しときたいから、首だけ動かして辺りを伺う。
ずいぶん薄暗い所だけど、狼の目には何の問題も無い。
神殿?遺跡?人の出入りはあるみたいだ、空気も淀んでないし床も手入れがしてある・・出入口は一ヶ所だけか・・巨大な彫像が置いてある。
ピカピカして黒曜石みたい。
・・遠くから、大人数の気配が近づいてきてるけど、音に乱れもない、助けじゃなさそう。
「・・僕を攫った理由は何?」
「贄だよ。この『黒喰い』に捧げるには黒殿ほど相応しい贄はいないだろう?」
男はうっとりとした表情で黒い彫像を撫でたかと思うと、手に持った短剣の柄を叩きつけた。
砕けた彫像の小さな欠片を指で摘まみ上げ魔力を流すと、石がうぞうぞと動きだした。ぽいっと床に投げ捨てる。
投げられたスライムは闇に紛れて、見えなくなった。
「これが黒スライムの正体。この『黒喰い』の欠片だ。私が実験の為に、あちこちに撒いてるんだよ。時限式に魔力を与える陣と一緒に撒いてあるから、私が怪しまれる心配もない。」
なるほど、だから気配もなく突然現れるのか・・。
この巨大な塊が『黒喰い』・・森で戦ったスライムが子犬に思えるね。
この大きさがスライム化したら・・。
『現世に戻ったら『黒喰い』を浄化しておくれ。あれはもうただの澱だけど、伝播するよ。世にあってはいけない物だ。あれが残っている限り兄者はここに囚われ続ける。』
・・お父さん。
「・・実験の成果がでているのに、『黒喰い』を滅せられてたまるか・・。私ならこの力を御し有意義に使ってみせる。私こそが力を持つに相応しいのだ・・安穏と無意味に生きる有象無象達とは私は違う・・。」
あぁ、この人の背に影が蠢いて見える。呪いを吐く様にぶつぶつ話す、その顔の半分が黒く歪んで見える。
― 忌避すべきは羨慕の想い
妬むなかれ
嫉むなかれ
僻むなかれ ―
この人自身が『黒喰い』に成りかけているんだ
叔父さんもこうやって『黒喰い』に?
そして禁忌を犯し、最後にはあの深い水底の暗闇に一人きり・・いや叔父さんにはお父さんがいた。
では、この人には・・?
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