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伝言

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「自分の能力なのに、練習とかするんだ。」

「とりあえず、ぶっ倒れない様にね。自分でシャットダウンできるのが目標かな。」

遊びの為のささやかな力は、日常生活に支障をきたすばかりの、不便極まりない代物となってしまってる訳だ。千夏がひょいと袖口をめくる。

「これつけてれば、聞こえないのにね。」

そう言って、(とっておいたのか?)最後に残っただし巻き卵をほおばり、この後購買に買い出しにいくべきか真剣に悩み始めた。
呪符が編み込まれている組紐は、紅色のミサンガにしか見えない。
平穏に暮らしていける様にー願いが込められている点では、同じだなぁ、と進まない箸を見ながら、ぼんやり思った。

ふいに陰ったなと思うと、落とした目線の先につま先が入り込んでくる、誰か前に立っている?顔をあげると、見覚えのある男子が美和を見下ろしている。
授業中、やたらと姿勢正しいのが印象に残っている生徒である。

「藤木さん。これ、購買部で尾長先輩に頼まれた。」

手には購入部の紙袋。中から焼きそばパンが顔を覗かせている。ごぞごぞと、紙パックのコーヒーを取り出し、「ん。」と、美和の目の前に突き出す。

「尾長?きら先輩?」

「違う。夜彦先輩。後、放課後、被服室に来るように言付かった。じゃ俺飯まだだから。」

必要最低限の事を告げ、お礼を言おうとした美和の返事も待たずに、くるりときびすを返し、足早にすたすたと去っていった。

「えーと、今の男子の名前は?」

手渡されたコーヒーにはマジックで『礼』と、一文字書いてあった。

「守山 保、とっつきにくそうだけど、いつもあんな感じで悪気はないから。文武両道を地で行く優等生。剣道部のホープ。」

うん、やっぱり購買部に行こうと頷く千夏、さては焼きそばパンに刺激されたな。

「そういえば、守山くん、属性なんだっけー?」

「自分で言ってるのは聞かないなぁ。飛行通学してるし、名前が『守る』に『山』だから、烏天狗とかじゃない?」

「あーそれっぽいねー。」

「でしょー。」
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