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第五章 愛情

嫉妬

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秋が過ぎ、もうすぐ厳しい冬に差し掛かった12月初旬。
学校の休み時間に、麻衣子がみんなに
「ごめーん!明日から3日間学校休むから」
っと突然言い出した。
「どうしたの?どっか悪いの?」
「ううん。ちょっと東京に行ってくるの」
「えぇ!何で?誰と?」
「ひとりだよ?」
「いや‥何しに行くの?」
みんなが驚いた!どちらかと言うと、麻衣子は積極的に行動するタイプではなく、みんなのあとを付いてくるタイプで、ひとりでましてや東京に行くなんて信じられなかった。
「あのね、どうしても会いたい人がいて、その人も会ってくれるみたいだから…」
恋は嫌な予感がした。
「麻衣子。まさかまぁ兄の事じゃないよね?」
「……」
「麻衣子?」
「じゃあ、そういう事だから、よろしくね~
そう言って麻衣子は走って行った。
「ウソでしょ?」
恋はムッとした。黙ってるってことは、何か企んでいるに違いないと。
「恋、大丈夫?」
美紀が心配そうな顔をしていた。
「大丈夫なわけ!…ごめん…取り乱しちゃった」
「友達に黙って、しかも兄と慕う人でしょ?身内にそういう事するかな」
「……」
「恋…」
恋はとても嫌な気持ちになり、その日は早退した。
「ただいま…」
「えぇ~どうしたの?おかえり…」
恋はムスッとしていた。
「どうしたの恋ちゃん!むくれた顔して?」
関口さんが驚いた顔で聞いたr
「え!どうしてわかったの?」
「そんなむくれ顔で帰ってきたらわかるわよ」
「うぅ…実はね…」
恋は事の詳細を関口さんに説明した。
「へぇ~!麻衣子ちゃんって積極的だね」
「でもさぁ、今までのあの娘では考えられないんだよ」
「いや~恋愛の強さってそういうところよ」
関口さんは自慢げに答えた。
「佳奈さんも同じ経験ある?」
「そりゃあ、あるわよ!こう見えて人生経験豊富よ」
「こう見えてって…」
「好きな人が出来て、もうその人の事しか考えられなくなって、居ても立っても居られない気持ち…」
関口さんは何かを思い出しているように上を向いて、
「わかるなぁ~!うん!青春ですなぁ~」
「もう!なんで佳奈さんが黄昏てるの!?」
「あ…ごめん、ごめん」
「でも…そういうものなの?恋愛って…」
「じゃあさ、恋ちゃんは今まぁやんさんに会いたい」
「会いたいけど…」
「どうしても?」
「どうしてもって…まぁ兄にも都合があるし…」
「そこ!そこだよ!恋ちゃん!」
突然おっきな声を出した関口さんに、恋はビクッとした。
「なに!どうしたの?佳奈さん」
「恋ちゃんにはまだ勇気がないのよ。でも麻衣子ちゃんには勇気がある!そこの違い」
「勇気?」
「そう!恋愛ってね、勇気なの。『この人にどうしても逢いたい!』ってなって、勇気を出して逢いに行くの」
「でも…」
「キツイこと言っちゃうかもしれないけど、恋ちゃんは都合とかって言い訳して逃げてるの!いい?確かに恋ちゃんのお兄さん代わりだったかも知れない。けどそんなの関係ないでしょ?だってふたりには血の繋がりがないんだから、恋愛の感情が生まれても何もおかしい事はないよ」
「…そうかなぁ…」
「そうよ!麻衣子ちゃんにまぁやんさん、取られてもいいの?」
「…やだ…」
「だったら、恋ちゃんが次に取る行動は?」
「…まぁ兄に電話してくる!」
恋は部屋まで走って行った。
「もう、世話の焼ける子ねぇ。ふふふ」

恋はカバンをベッドに放り投げると、自分もベッドに飛び乗った。
すかさず携帯を出すも、すぐにまぁやんへ電話かけることが出来なかった。
(きっかけはなんて言おうかな…)
特別な理由がなくて、電話を躊躇していた。
その時に、さっき関口さんが言っていた言葉を思い出した。
『そう!恋愛ってね、勇気なの』
(勇気か…よし!)
恋は覚悟を決めてまぁやんに電話した。
📱「プルルルル~プルルルル~」
📱「はいよ!」
📱「まぁ兄、今話せる?」
📱「あぁ。大丈夫だ。ちょうど夜に電話しようと思ってたんだ」
📱「あっ!そうだったの?」
📱「麻衣子ちゃんがこっちにくるって聞いてる?」
📱「うん。今日聞いた。明日からそっちに行くんだって?」
📱「らしいな。なんか大学の下見に来るついでに相談に乗って欲しい事があるって言ってな。会う事になってるんだわ」
(大学の下見?麻衣子、大学って東京希望だっけ?)
📱「そうなんだ。麻衣子の相談ごとってなんだろう?」
📱「俺もそれ、聞いたんだよ。でも会ってから話すっていうんだよ。お前、心当たりあるか?」
(おそらく告白だろうけど、それを言うのは、麻衣子にとって、裏切り行為だよな…)
📱「ごめん。まぁ兄。心当たりはないなぁ」
📱「そっか…まぁ聞くだけ聞いてみるわ」
📱「その内容、わかったら教えて?」
📱「お前が口外しないって約束するならな」
📱「まぁ兄との約束は絶対守るよ!」
📱「わかった。おっと会議がはじまる!またな!」
📱「ごめんね。お仕事中に。またね」
恋は電話を切った。
(ちゃんと話せなかったなぁ…)
恋は麻衣子がまぁやんと会ったあとに電話が掛かってくる事を信じて待つことにした。

翌日、麻衣子は学校を休んだ。
本当にまぁ兄に会いに行ったようだ。
恋は美紀にも、結果が出るまで内緒にしようと思った。
「結局さぁ、麻衣子って何で東京行ったんだろ?」
「会いたい人がいるって言ってたよね?それって誰だと思う?」
「もしかして、恋が言った通りでまぁやんさん?」
「えーもしかして告白?」
恋の表情が不安と不機嫌が織り混ざった顔をしていた。
「ちょっと!あんた達!恋の気持ちにもなってあげなよ!不謹慎過ぎじゃん!」
美紀が噂をするみんなに向けて言い放った。
「あ…ごめん…美紀…」
「謝るのは私じゃないでしょ!」
「ごめんね。恋ちゃん」
「ううん…いいの…」
恋はみんなに向けて無理に笑顔を振り撒いた。
「恋、ちょっとこっち来て?」
美紀が恋の手を引っ張って、教室から連れ出した。
「美紀?どうしたの?痛いって!」
美紀は無言で恋を引っ張って行った。
体育館の倉庫…昔よく恋達がたむろっていて、授業をサボってた場所だ。
「恋、ここ座んな」
美紀は体育館倉庫の運動用マットが積み重なった場所に腰掛けて、隣に来るように急かした。
「美紀…なんか、恐いんですけど…」
「いいから!早く!」
恋は美紀の隣にちょこんと座った。
「恋…あんたねぇ。いい加減自分の気持ちに正直になったらどうさ!」
「う~…わかってるよ。でもさ…」
「でも何だよ」
恋は足をぷらんプランプランさせながら
「もしよ?もしわたしがまぁ兄に想いを伝えたとするでしょ?まぁ兄に変な目で見られたら嫌だなって思っちゃうと、なかなか勇気が出なくて…」
「確かに…兄を愛する妹…って…変だな?」
「ちょっと美紀!」
「はははは!冗談。でもあんた、ずぅ~っと片想いで終わるわけ?」
「いや…キッパリ諦めようと思ってる。初恋なんて、そんなものでしょ?」
「恋…」
「仮に麻衣子がまぁ兄と付き合うことになったとしても、わたしは応援する」
「あんたって…なんていい子なの…」
美紀は恋の頭をポンポンした。
「えへへ…さぁーて!わたしも新しい恋愛探そうかな?」
「知ってる?あんた、案外モテるらしいよ」
「へ?うそ?」
「男からも…女からも…」
美紀が恋に向かって舌舐めずりした。
「ちょっと美紀…笑えないって…」
ふたりで笑い合いながら、教室に戻った。
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