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生クリームにイチゴを添えて
僕を食べて
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落ち着かない……。
繁殖期を無事完遂した僕たちは、めでたく……人間風に言うと、ふ、夫婦になった。
僕も無事大人になれたし、妖精なのか精霊なのか分からない中途半端な存在から、ちゃんとした精霊になれた。
おねぇさん……カオルさんも、3日間に及ぶ長期出産を終えて、元気に朝食を作っている。
幸せいっぱいなんだけど……なんだけど。
カオルさんの態度がよそよそしいと言うか、何と言うか。
以前は、僕が朝食のお手伝いを申し出たら、抱きしめて頭を撫でてくれたのに……今は「ありがとう」だけで、抱っこも無しだし。いや、お礼はもちろん嬉しいんだけどね。彼女の役に立てるのは凄く嬉しい。
でも、僕が近づくと、身構えられるというか……変な緊張感が漂っていると言うか……。
もしかして、また何かしてしまったんだろうか?
繁殖期が終わった直後。二度と変な薬を使わないとか、膣内射精は1日3回までとか、思った事を素直に言うのは控えて欲しいとか、一緒に暮らす上での注意事項を決められた。
彼女が決めた事は、薬以外どれも守るのが難しいのだけど、今のところ何も違反はしていないはず。
フラウのアドバイスを真に受けて、初めてのえっちで、色々おしゃべりしすぎたみたいで。それが彼女の気に障ったのだと思う。
……フラウがいなかったら、僕たちがこうやって笑ってる事もないのだから、感謝はしているけど、でも気に食わない。何であんな余計なアドバイスに、素直に従ってしまったんだろう。
でも、思ったことを口にして、何もかも彼女に曝け出せる安心感や、興奮、快感を知ってしまうと、今さら我慢するのは難しくて。
何を話したらいいのか、分からなくなるのも……良くないのかな。
本当は初めて胎内に入った感動とか、その時の彼女がどれ程僕を魅了したのかとか、いっぱい伝えたいんだけど、言っちゃいけないらしい。
僕の世界がひっくり返って、全ての中心が彼女になったあの瞬間。おっぱいに顔を埋めて射精した時の、優しく僕を導いてくれた、あの感動を……彼女と分かち合いたい。彼女に知ってほしい。そう思うのは、いけない事なんだろうか?
誰でもない、彼女だからこそ、僕の感じた喜びの全てを言葉でちゃんと伝えたいし、ぼ、僕も聞きたいのだけど……。
もしかして……本当は、それほど気持ち良くなかったのかなぁ。
気持ちよかったのは、僕だけで、彼女には普通だったのかなぁ……。
あ、だめだ。なんか、考えてたら目眩がしてきた。胸がズキズキする。
何だか怖い……。
僕は本当に、もう彼女無しじゃ生きれない身体になったんだ……。伴侶ってみんな、こんな風になるのかな。それとも、僕が色々ありすぎて、おかしくなってるだけなのかな。普通は肉体の成長に引っ張られて、精神も大人になるって言われているけど、僕は僕のままだし。
いっそ彼女のお腹に入って産まれ直したい。
人間みたいに10ヶ月以上も彼女のお腹の中で育ててもらえたら、最高に幸せなんだけど。
……いいな……妖精は……彼女の胎内で育てて貰えて。
僕は、僕の精子になりたい。
「リーシュ、お皿運んでくれる?」
「っあ、うん!」
今日の朝食は、大好物のクリームたっぷりパンケーキ。
精霊に共通した嗜好品があるとしたら、それは「甘いもの好き」だ。僕たちは人間のように食べ物で太る事がないから、余計いっぱい食べてしまうのかもしれない。
こちらに来た時から、彼女も太らないのだけど、順番に説明しないと分からないと思うから、今は「太らないハーブティー」と一緒に甘いものを楽しんでいる。
もちろん「太らないハーブティー」なんて存在しないけど。
「今日は妖精さんたちが、イチゴを持ってきてくれたから豪華だよー!」
見ると、大粒のイチゴが綺麗に並んで透明な容器に入っている。白いシールがついた容器は、一目で妖精界にはない素材で出来ている物だと分かる。
「え、これどうしたの?」
僕がその辺に漂っている妖精たちに話しかけると、彼らはお互いの顔を見合わせて『もらった』と言って窓から飛び出して行ってしまった。
「あ、まって。誰から? ……?」
まあ、人界でまた勝手に取ってきたのかな?
そうこうしている内に、テーブルの端にはキラキラツヤツヤの大粒イチゴと、クリームを山のようにのせたパンケーキ。カモミールとレモングラスの香り漂うハーブティーが並んだ。
二、三人が余裕で座れるベンチの椅子。長方形のテーブルを挟んで、向かいに椅子が三脚。飴色で統一した家具の差し色に、グリーンのクッションをいくつか置いてあるそのベンチは、彼女が座る場所だ。
ベンチの横に椅子を置いて、彼女の斜め右、いわゆるお誕生日席に座るのが僕。
いつも通りベンチの横に椅子を移動しようと、手を背もたれに掛けたままふと考える。
今日も「あーん」は無いのだろうか……。
一緒に暮らしはじめて覚えた習慣。まるで鳥たちの給餌みたいで、最初は何だか恥ずかしかったけど、蕩ける様な表情と優しい声で「あーん」をされると、魔法にかけられたみたいに口が勝手に開いてしまう。たまらなく幸せだった。
彼女に食べさせてもらうと、同じ物を食べていたはずなのに、10倍は美味しく感じる。それに「あーん」と口を開ける彼女から、チラっと見える小さな白い歯や、ピンク色の柔らかそうな舌。「ん」の時にきゅっと閉じる唇は、ちょっぴりえっちで……いつもどきどきしてそわそわして、落ち着かない気持ちになった。
膝の上に乗せられて優しく何度も「あーん」してくれたのに。上手に食べれたねっていっぱい褒めてもらえたのに……。
またしてもらいたい。でも、あれから一回もしてもらってない。
……なんでだろう?
あっ、もしかして、あれは大きい方がやるものなの? だったら、今度は僕が彼女にしたら、喜んでもらえる?
そっか、僕は大きくなったから……抱っこも僕がする番なんだ。きっと、そうだ!
さっそく普段彼女が座っている場所に腰掛けて、彼女が僕の膝の上に乗ってくれるのを待った。
でも、彼女は僕と目が合うと何故か視線を逸らして、いつも僕が座るお誕生日席にするりと座った。
「え? あれ?」
また何か間違えたのかな?
戸惑いならが彼女の顔を見つめていると、フォークを持ちながら「いただきます」と言って、パンケーキを食べ始めてしまった。
「あの、カオルさん……。僕、何か間違えた?」
恐る恐る聞くと、口に入れたパンケーキをもぐもぐ咀嚼して、ごくんと飲み込んだ彼女は「たまには席を替えるのもいいね。ちょっと新鮮」と何でもない事のように言った。そして、パンケーキをナイフで小さく切って口に運ぶ。
僕は何だか泣きたくなった。いや、なんかもう、パンケーキを食べている姿も素敵だし、フォークを口に運ぶ仕草とか、唇についたクリームを舌でペロッと舐める所なんか、えっちで可愛くて仕方ないんだけど。
そんな姿を見ても心が躍らないくらい、もどかしくて悲しくなった。
変だな。上手く自分の気持ちをコントロールできない。
チラリと僕を見上げた彼女が、目を真ん丸く見開いた。
それから視線を彷徨わせて、膝に置いたナプキンを持って僕の頬にそっと当てた。
どうやら僕の目から涙が零れていたみたい。恥ずかしい……。こんな事で泣くなんて。ぜんぜん気が付かなかった。
「どうしたの? 具合悪いの?」
彼女が優しい声で、僕を見て声を掛けてくれる。
……僕を……心配してくれている!
そっと柔らかくて小さな手で、額をぺたっと触ってくれた。
あれ、嬉しい! 嬉しいっ!!
どうしよう……、さっきまで本当に悲しかったのに、彼女が僕を気にかけてくれただけで、嬉しくて幸せで叫び出してしまいそう!
触れられた額が熱い。顔が熱い。何だか息も苦しいし本格的におかしくなってしまったのかな。でも、幸せ。彼女に気遣ってもらえて、胸がいっぱいで……この気持ちを分けたい。彼女にこの気持ちごと食べてもらいたいっ!
「おいしいパンケーキになりたい!」
「は?」
あああ、違う。カオルさんを抱っこして、いっぱい褒めて、僕と同じ幸せを感じてほしかったんだった。
「間違った。あの、カオルさんにあーんがしたいです!」
怪訝な顔で見られるけど、何となく笑って誤魔化した。やっぱり食べたいとか、食べられたいとか思った事を口にしたら、注意事項に違反してしまうのかもしれない。気を付けないと。
「……わかった。はい、あーん」
「あ、いや、そうなんだけど、そうじゃなくて!」
彼女は席に座ったまま、ぱかっと口を開けた。焦って身体ごと彼女の方を向いたら、テーブルの脚に膝をバコッとぶつけた……痛い。
まだ身体の大きさに慣れていないから、最近あちこちぶつけてしまう。心配そうに僕の顔を覗き込む彼女に「大丈夫」と言って、ガタゴトとテーブルを前に出して、膝が当たらないように調節した。
振動でお皿からイチゴが一粒、テーブルの上にコロコロ転がったのを、とりあえずフォークでプスっと刺して、自分の口の中に放り込む。
適当に噛んで急いでゴクンと飲み込んでから、もう一度改めて、彼女に伝えてみる。
「ここに、座って欲しいの。それで、あーんさせてほしい」
「……え、そこ?」
真剣な顔で自分の右太ももの上を、ぽんぽん叩いた。彼女は何度も僕と、太ももを見比べていたから「ここ」とまた、膝を叩く。
「……わかった。分かったから、あまり見ないでね」
ふわっと彼女の頬がピンク色になって、どきっと心臓が跳ねた。あ、やっぱり僕と同じで、恥ずかしいのかも……でも「分かった」って言ってくれた。嬉しい。
どうしよう、鼓動が早くなって息苦しくなってきた。
彼女が立ち上がって僕の両足の間に移動する。少し屈んで、スカートの後ろを膝裏につけるように手で押さえてから、右の太ももにゆっくりお尻をつけた。
その仕草が、ものすごく色っぽくて……思わず唾をゴクンと飲み込む。
座り心地を調整するように、もぞもぞ動いて、収まりの良い所に座れたのか、ぴたっと彼女の動きが止まる。動く度にふわっと石鹸の良い匂いがして、益々鼓動が早くなってきた。まるで全身が心臓になったみたい。
これでいい? と窺う彼女の頬は、さっきより赤くて、ぷるっとした柔らかそうな唇が、ちょっとだけ開いている。
そして、頬に落ちた短い髪を、自然な仕草で耳にかける動作が、僕の心臓に追い討ちをかけ、顔が燃えるように熱くっていたたまれない。
思い切ってパンケーキの上のクリームを、左手のフォークで掬い、彼女の口にそろそろと近づける。
「……は、はい、あーん」
震える手の振動がフォークに伝わって、クリームがフルフル揺れている。
「あー……」
唇が開いて、真っ白い生クリームをのせたフォークが、彼女の真っ赤な口内に吸い込まれた。思わず僕も口を開いて、その姿を凝視する。
「んっ」
口を閉じたと同時に鼻から抜けるような声が漏れ聞こえた。
な、なに……これ……。
え、あーんって……こんなにえっちな事なの!?
僕は……ズボンに膨れた股間が擦れて、痛くなるほど勃起してしまった。
あれ? 僕がおかしいの? でも、でも、凄い……あ、クリームが唇についてる。え、えっちだ。カオルさんが、えっちすぎる!
「ぼく、カオルさんに食べられたい!」
「え、今度は何プレイ!? 嫌な予感しかしないんだけど!」
繁殖期を無事完遂した僕たちは、めでたく……人間風に言うと、ふ、夫婦になった。
僕も無事大人になれたし、妖精なのか精霊なのか分からない中途半端な存在から、ちゃんとした精霊になれた。
おねぇさん……カオルさんも、3日間に及ぶ長期出産を終えて、元気に朝食を作っている。
幸せいっぱいなんだけど……なんだけど。
カオルさんの態度がよそよそしいと言うか、何と言うか。
以前は、僕が朝食のお手伝いを申し出たら、抱きしめて頭を撫でてくれたのに……今は「ありがとう」だけで、抱っこも無しだし。いや、お礼はもちろん嬉しいんだけどね。彼女の役に立てるのは凄く嬉しい。
でも、僕が近づくと、身構えられるというか……変な緊張感が漂っていると言うか……。
もしかして、また何かしてしまったんだろうか?
繁殖期が終わった直後。二度と変な薬を使わないとか、膣内射精は1日3回までとか、思った事を素直に言うのは控えて欲しいとか、一緒に暮らす上での注意事項を決められた。
彼女が決めた事は、薬以外どれも守るのが難しいのだけど、今のところ何も違反はしていないはず。
フラウのアドバイスを真に受けて、初めてのえっちで、色々おしゃべりしすぎたみたいで。それが彼女の気に障ったのだと思う。
……フラウがいなかったら、僕たちがこうやって笑ってる事もないのだから、感謝はしているけど、でも気に食わない。何であんな余計なアドバイスに、素直に従ってしまったんだろう。
でも、思ったことを口にして、何もかも彼女に曝け出せる安心感や、興奮、快感を知ってしまうと、今さら我慢するのは難しくて。
何を話したらいいのか、分からなくなるのも……良くないのかな。
本当は初めて胎内に入った感動とか、その時の彼女がどれ程僕を魅了したのかとか、いっぱい伝えたいんだけど、言っちゃいけないらしい。
僕の世界がひっくり返って、全ての中心が彼女になったあの瞬間。おっぱいに顔を埋めて射精した時の、優しく僕を導いてくれた、あの感動を……彼女と分かち合いたい。彼女に知ってほしい。そう思うのは、いけない事なんだろうか?
誰でもない、彼女だからこそ、僕の感じた喜びの全てを言葉でちゃんと伝えたいし、ぼ、僕も聞きたいのだけど……。
もしかして……本当は、それほど気持ち良くなかったのかなぁ。
気持ちよかったのは、僕だけで、彼女には普通だったのかなぁ……。
あ、だめだ。なんか、考えてたら目眩がしてきた。胸がズキズキする。
何だか怖い……。
僕は本当に、もう彼女無しじゃ生きれない身体になったんだ……。伴侶ってみんな、こんな風になるのかな。それとも、僕が色々ありすぎて、おかしくなってるだけなのかな。普通は肉体の成長に引っ張られて、精神も大人になるって言われているけど、僕は僕のままだし。
いっそ彼女のお腹に入って産まれ直したい。
人間みたいに10ヶ月以上も彼女のお腹の中で育ててもらえたら、最高に幸せなんだけど。
……いいな……妖精は……彼女の胎内で育てて貰えて。
僕は、僕の精子になりたい。
「リーシュ、お皿運んでくれる?」
「っあ、うん!」
今日の朝食は、大好物のクリームたっぷりパンケーキ。
精霊に共通した嗜好品があるとしたら、それは「甘いもの好き」だ。僕たちは人間のように食べ物で太る事がないから、余計いっぱい食べてしまうのかもしれない。
こちらに来た時から、彼女も太らないのだけど、順番に説明しないと分からないと思うから、今は「太らないハーブティー」と一緒に甘いものを楽しんでいる。
もちろん「太らないハーブティー」なんて存在しないけど。
「今日は妖精さんたちが、イチゴを持ってきてくれたから豪華だよー!」
見ると、大粒のイチゴが綺麗に並んで透明な容器に入っている。白いシールがついた容器は、一目で妖精界にはない素材で出来ている物だと分かる。
「え、これどうしたの?」
僕がその辺に漂っている妖精たちに話しかけると、彼らはお互いの顔を見合わせて『もらった』と言って窓から飛び出して行ってしまった。
「あ、まって。誰から? ……?」
まあ、人界でまた勝手に取ってきたのかな?
そうこうしている内に、テーブルの端にはキラキラツヤツヤの大粒イチゴと、クリームを山のようにのせたパンケーキ。カモミールとレモングラスの香り漂うハーブティーが並んだ。
二、三人が余裕で座れるベンチの椅子。長方形のテーブルを挟んで、向かいに椅子が三脚。飴色で統一した家具の差し色に、グリーンのクッションをいくつか置いてあるそのベンチは、彼女が座る場所だ。
ベンチの横に椅子を置いて、彼女の斜め右、いわゆるお誕生日席に座るのが僕。
いつも通りベンチの横に椅子を移動しようと、手を背もたれに掛けたままふと考える。
今日も「あーん」は無いのだろうか……。
一緒に暮らしはじめて覚えた習慣。まるで鳥たちの給餌みたいで、最初は何だか恥ずかしかったけど、蕩ける様な表情と優しい声で「あーん」をされると、魔法にかけられたみたいに口が勝手に開いてしまう。たまらなく幸せだった。
彼女に食べさせてもらうと、同じ物を食べていたはずなのに、10倍は美味しく感じる。それに「あーん」と口を開ける彼女から、チラっと見える小さな白い歯や、ピンク色の柔らかそうな舌。「ん」の時にきゅっと閉じる唇は、ちょっぴりえっちで……いつもどきどきしてそわそわして、落ち着かない気持ちになった。
膝の上に乗せられて優しく何度も「あーん」してくれたのに。上手に食べれたねっていっぱい褒めてもらえたのに……。
またしてもらいたい。でも、あれから一回もしてもらってない。
……なんでだろう?
あっ、もしかして、あれは大きい方がやるものなの? だったら、今度は僕が彼女にしたら、喜んでもらえる?
そっか、僕は大きくなったから……抱っこも僕がする番なんだ。きっと、そうだ!
さっそく普段彼女が座っている場所に腰掛けて、彼女が僕の膝の上に乗ってくれるのを待った。
でも、彼女は僕と目が合うと何故か視線を逸らして、いつも僕が座るお誕生日席にするりと座った。
「え? あれ?」
また何か間違えたのかな?
戸惑いならが彼女の顔を見つめていると、フォークを持ちながら「いただきます」と言って、パンケーキを食べ始めてしまった。
「あの、カオルさん……。僕、何か間違えた?」
恐る恐る聞くと、口に入れたパンケーキをもぐもぐ咀嚼して、ごくんと飲み込んだ彼女は「たまには席を替えるのもいいね。ちょっと新鮮」と何でもない事のように言った。そして、パンケーキをナイフで小さく切って口に運ぶ。
僕は何だか泣きたくなった。いや、なんかもう、パンケーキを食べている姿も素敵だし、フォークを口に運ぶ仕草とか、唇についたクリームを舌でペロッと舐める所なんか、えっちで可愛くて仕方ないんだけど。
そんな姿を見ても心が躍らないくらい、もどかしくて悲しくなった。
変だな。上手く自分の気持ちをコントロールできない。
チラリと僕を見上げた彼女が、目を真ん丸く見開いた。
それから視線を彷徨わせて、膝に置いたナプキンを持って僕の頬にそっと当てた。
どうやら僕の目から涙が零れていたみたい。恥ずかしい……。こんな事で泣くなんて。ぜんぜん気が付かなかった。
「どうしたの? 具合悪いの?」
彼女が優しい声で、僕を見て声を掛けてくれる。
……僕を……心配してくれている!
そっと柔らかくて小さな手で、額をぺたっと触ってくれた。
あれ、嬉しい! 嬉しいっ!!
どうしよう……、さっきまで本当に悲しかったのに、彼女が僕を気にかけてくれただけで、嬉しくて幸せで叫び出してしまいそう!
触れられた額が熱い。顔が熱い。何だか息も苦しいし本格的におかしくなってしまったのかな。でも、幸せ。彼女に気遣ってもらえて、胸がいっぱいで……この気持ちを分けたい。彼女にこの気持ちごと食べてもらいたいっ!
「おいしいパンケーキになりたい!」
「は?」
あああ、違う。カオルさんを抱っこして、いっぱい褒めて、僕と同じ幸せを感じてほしかったんだった。
「間違った。あの、カオルさんにあーんがしたいです!」
怪訝な顔で見られるけど、何となく笑って誤魔化した。やっぱり食べたいとか、食べられたいとか思った事を口にしたら、注意事項に違反してしまうのかもしれない。気を付けないと。
「……わかった。はい、あーん」
「あ、いや、そうなんだけど、そうじゃなくて!」
彼女は席に座ったまま、ぱかっと口を開けた。焦って身体ごと彼女の方を向いたら、テーブルの脚に膝をバコッとぶつけた……痛い。
まだ身体の大きさに慣れていないから、最近あちこちぶつけてしまう。心配そうに僕の顔を覗き込む彼女に「大丈夫」と言って、ガタゴトとテーブルを前に出して、膝が当たらないように調節した。
振動でお皿からイチゴが一粒、テーブルの上にコロコロ転がったのを、とりあえずフォークでプスっと刺して、自分の口の中に放り込む。
適当に噛んで急いでゴクンと飲み込んでから、もう一度改めて、彼女に伝えてみる。
「ここに、座って欲しいの。それで、あーんさせてほしい」
「……え、そこ?」
真剣な顔で自分の右太ももの上を、ぽんぽん叩いた。彼女は何度も僕と、太ももを見比べていたから「ここ」とまた、膝を叩く。
「……わかった。分かったから、あまり見ないでね」
ふわっと彼女の頬がピンク色になって、どきっと心臓が跳ねた。あ、やっぱり僕と同じで、恥ずかしいのかも……でも「分かった」って言ってくれた。嬉しい。
どうしよう、鼓動が早くなって息苦しくなってきた。
彼女が立ち上がって僕の両足の間に移動する。少し屈んで、スカートの後ろを膝裏につけるように手で押さえてから、右の太ももにゆっくりお尻をつけた。
その仕草が、ものすごく色っぽくて……思わず唾をゴクンと飲み込む。
座り心地を調整するように、もぞもぞ動いて、収まりの良い所に座れたのか、ぴたっと彼女の動きが止まる。動く度にふわっと石鹸の良い匂いがして、益々鼓動が早くなってきた。まるで全身が心臓になったみたい。
これでいい? と窺う彼女の頬は、さっきより赤くて、ぷるっとした柔らかそうな唇が、ちょっとだけ開いている。
そして、頬に落ちた短い髪を、自然な仕草で耳にかける動作が、僕の心臓に追い討ちをかけ、顔が燃えるように熱くっていたたまれない。
思い切ってパンケーキの上のクリームを、左手のフォークで掬い、彼女の口にそろそろと近づける。
「……は、はい、あーん」
震える手の振動がフォークに伝わって、クリームがフルフル揺れている。
「あー……」
唇が開いて、真っ白い生クリームをのせたフォークが、彼女の真っ赤な口内に吸い込まれた。思わず僕も口を開いて、その姿を凝視する。
「んっ」
口を閉じたと同時に鼻から抜けるような声が漏れ聞こえた。
な、なに……これ……。
え、あーんって……こんなにえっちな事なの!?
僕は……ズボンに膨れた股間が擦れて、痛くなるほど勃起してしまった。
あれ? 僕がおかしいの? でも、でも、凄い……あ、クリームが唇についてる。え、えっちだ。カオルさんが、えっちすぎる!
「ぼく、カオルさんに食べられたい!」
「え、今度は何プレイ!? 嫌な予感しかしないんだけど!」
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