白い塔の聖女

藤の蜜

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僕だけの聖女

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 それから毎日、塔に通った。焼き菓子に、甘い果物やジュースを持って。絵本も何冊か差し入れた。女の人の好きな遊びは、わからないから、道に咲いた草花を摘んで贈ってみた。言葉は通じないけど、だんだん表情や仕草で、聖女がわかるようになってきた気がする。

 暴れない聖女は、本物の聖女みたいに優しい。いや本物の『聖女』だけど。僕だけに優しくしてくれる。僕がいないと、ご飯も着替えも無い聖女。話し相手も遊び相手もいない。それはなんだか、特別なことに思えた。最近少し『勇者』の訓練をさぼり気味だけど、どうせこの国は、いつも平和だ。

 魔物と言っても、せいぜいスライムやホーンラビットしか出てこない。だから、僕が訓練を少しくらいさぼっても、気にする必要ない。いつか現れる強い魔物も、大人になったら倒せばいい。今はいないんだから。

 聖女の膝に頭をのせて、昼寝するのは気持ちいい。優しく髪を撫でてくれる。言葉はぜんぜん通じそうにないけど、きっと聖女は僕が好きなんだ。僕も、僕だけの聖女が大好きになった。


 賢者は、相変わらず毎日「忙しい忙しい」って言いながら聖女の言葉が通じるようになる魔法を研究している。ときどき動物で魔法の実験をしては、変な生物を作り出す。今度は、人間で実験をすると言うので、僕は実験に付き合わないぞと言ってやった。

おしまい。
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