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Scene08 ワインレッドの心

178 恋の予感

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テレビの速報が流れる。

[大阪府枚方市でナイフを持った男が男子高生を刺殺。女子高生は意識不明の重体]

情報が錯誤する。

恋次は何もできない。

警備体制や男の前科。
刑事責任能力。

そんなものはどうだっていい。

憶測と推測で流れるTwitterのログ。

そんなものもどうでもいい。

幼なじみが死んだ。

人が誰かに殺される。

そんなものはいつでもどこでも起きることなんだ。
でも、身近な人が死ぬ。
それはとてもつらいことなんだ。

恋次は祈る。
聖子は助かってくれ……
助かって欲しい。

助かって。
その時なんて言えばいい?
なにを話せばいい?

何も思い浮かばない。

恋次は手術室のランプを見ることもできない。
自分はまたベッドの上。
何もできない自分に涙さえ流れない。

「恋次」

聖子の声が聞こえる。

「また泣いているの?」

「泣いてなんかないよ」

「嘘下手だよね」

聖子が笑う。

「ごめんね」

恋次は謝る。

「なんで謝るの?」

「守れなくてごめん」

「恋次さ、悪くないのに謝るのよくないよ」

「でも……」

恋次は言葉をやめた。
この会話が終わるってことは、もう聖子と会うことはできないだろう。
そう思った。

「会話は続けよう」

「うん」

「水面のこと。
 よろしくね。
 菜花さんのことも大事にね」

「なんでそんなことをいうの?」

わかっている。
わかっているんだ。

「『またね』って言わない。
 『また』がないことを知っているから」

「もう逝っちゃうの?」

「お腹を出して寝るなよ!」

恋次は目を覚ます。
恋次の目には涙が溜まっていた。

「僕は……」

隣には菜花がじっと恋次を見ている。

「菜花さん?」

「……」

菜花は何も言わない。

「どうしたの?」

「本当は君のことをぎゅっと抱きしめたい。
 つらいねってハグしたい」

菜花は目を真っ赤にさせてそういった。

「……そっか」

水面がそっと恋次の部屋に現れる。

「聖子ちゃん……」

「逝ってしまったんだね」

「恋次くん?」

水面もまた目を赤くしている。

「さっきね。
 きよちゃんが夢に現れたんだ。
 少し話をしたんだ。
 最後は、『お腹を出して寝るなよ』って」

「聖子ちゃんらしいね」

水面は大粒の涙を流した。

「うん」

恋次は決めた。
強くなろうと。

もう誰も傷つけられない。
そんな世界にしたい。

そう思った。

――夜の堤防

「夜はきままにあなたを踊らせるだけ」

安志は歌う。

「少年よ。
 その歌を知っているのかい?」

おじさまが安志に尋ねる。

「安全地帯はソウルソングです」

「そうかい」

「友達が死にました」

「うん」

「ばあちゃんが安全地帯さんの歌が好きでしてずっと聞かされてました」

安志はそのままおじさまと会話をして気を紛らわせた。
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