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Scene08 ワインレッドの心

177 花火

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もしかして自分はもうすぐ童貞を卒業するのかな?
水面と?菜花と?
それとも両方と?
そんなことが頭をよぎる。

花火のラストスパート。

歓声があがる。
大きな声が聞こえる。
女の子の声だ。
それは聞き覚えのある子だ。

「キヨちゃん?」

恋次は思わず声を出してしまう。

「え?」

水面と菜花が顔を見合わせる。
ふたりも気づいたからだ。

恋次は周りを見渡す。
自分が先程聞いたのは歓声じゃなかった。

ナイフを持った男。
そして倒れている男。

「あー」

ナイフを持った男はケタケタ笑っている。

そしてそばに駆け寄る女の子。

「ヒロくん!!」

恋次の頭がフリーズする。
刺されたのはヒロくん?

戸惑う恋次に容赦なく現実は突き刺さる。
ナイフを持った男は聖子を蹴り飛ばす。

「きゃ……」

きれいな浴衣だった。
その浴衣がはだける。

ナイフを持った男は聖子の紙を鷲掴みにする。

「やめろ!!」

紘が聖子をかばうように抱きしめる。
ナイフを持った男は何度も何度も紘の背中をナイフで刺した。

恋次は動けない。
水面も声が出ない。
菜花も混乱している。

「ヒロくん!!ヒロくん!」

聖子が何度も紘の名前を呼ぶ。

「大丈夫か?怪我してないか?」

紘が優しく微笑む。

「ヒロくんは?ヒロくんは大丈夫じゃないよね?」

「なあ?最後にわがまま言っていいか?」

「え?」

「キスしてもいいか?」

「あ……」

聖子はすべてを悟った。

「いいよ」

聖子はそっと紘の唇にキスをした。

「サンキュ。聖子」

紘が小さく笑う。
ナイフを持った男は紘を蹴り飛ばす。
紘の体はそのまま動かない。

「ヒロくん……」

聖子は涙を流し動かない。

「あーあーあーあー」

ナイフを持った男がナイフを振り上げる。

動け自分!

恋次は震える脚で地面を蹴る。
そしてナイフを持った男に体当たりをする。

男はナイフを落とす。

「……キヨちゃん!逃げ……」

男は小さく笑う。

「予備って大事だよね」

男はそう言ってナイフをもう一本ポケットから出す。

周りの人達は何もしない。
スマホを持ち上げて操作をしている。

あー。死んだな。

恋次は思った。

でも、自分が死んだら聖子はどうなる?
もっと傷つくんじゃないか?

そう思った。
だからもう一歩体が進んだ。

「あ!!!!!」

恋次は男の顔を殴った。
何度も何度も何度も。

しかし男は怯まない。
恋次の体を蹴り飛ばしたあと。
再びナイフを恋次に振り上げようとしたとき。
そのふくよかな男が現れた。
康信だ。
康信はただのデブじゃない。
成績優秀、喧嘩も強く。
メンタルは爽やか。

康信は男の腕を掴むとそのまま投げ飛ばした。

そして男が地面に着くよりも早く動きそしてそのまま一本背負い。
そのまま男の体を拘束した。

警察が来る。

遅い到着だ。

「恋次」

聖子が離れた場所から小さく笑う。

「キヨちゃん?」

恋次は何かを悟る。

「ありがとう」

聖子はそう言ってナイフで自分の首を切った。

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