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Scene08 ワインレッドの心

173 もっと恋を楽しんだり

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もっと恋を楽しんだり
もっと愛をささやいたり
忘れそうな思い出にずっと抱えているより
忘れてしまえば
楽になれるのに

でも、そんな簡単な話ではないことを恋次は知っている。

そこまで子供じゃない。

今以上にそれ以上に愛されるとしても。
この涙で滲んでいる瞳ではしあわせになれない。
あの消えそうなのに燃えていたワインレッドの心を持っていた少女は傷ついている。

恋次は何も出来ない自分が情けなくなる。

抱きしめても自分なんかが触れて喜ぶ人はいない。

愛しているだけでは
強くなれない。
気持ちだけでは強くなれない。

そもそも水面を愛しているのかすらわからない。
その前に愛が何かすらわからない。

人を傷つけるより傷つく方がいい。

優しさを求めても優しさを与えても。
何も得ることは出来ない。

でも、それをしないのは臆病者の言い訳なんだ。

守りたいという気持ちだけでも。
守れる力だけでもなにもできない。

ふたつ持っていても何も出来ない。

「ごめん」

恋次は涙を流す。

「え?」

水面が驚く。

「僕、何も出来てないや」

「そんなことないよ」

「でも、守れなかった。
 僕は君を傷つけてばかりだ」

水面は悲しくなった。
恋次にそんな思いをさせてしまったことに。

「うん」

「でも、守るから。
 今から僕は君を守るから。
 一秒でも水面さんが笑顔でいれるように。
 だから守るから。
 もう泣かせたりしないから」

恋次は勇気を出した。
人に触れることなんて許されない存在。
それが自分。
でもそんなのは嫌だ。
嫌われてもいい。
避けられてもいい。
気持ち悪がられてもいい。
君が傷つかないのなら……
水面が傷つかないのなら。

恋次は震える。

ゆっくり小さくそっと水面に触れる。

「恋次くん?」

「僕はちっぽけでカッコよくもない。
 強くもない。
 偉くもないし立派でもない。
 泣けと言われたら泣くしか出来ない。
 でも……」

恋次の鼓動が早くなる。
水面にもそれが伝わる。

それほどまでに水面は恋次に体を寄せていた。
恋次の体に飛び込んだまではいい。
男の人はここまでされたらエッチしたくなると思っていた。
でも恋次は少し震えていた。
恐怖?絶望?
そんなモノを感じてさせている?

そう思うと悲しくなった。
つらかった。

でも、少しでも恋次のぬくもりを感じていたい。
離れようか。
嫌われているのだから。

3・2・1!

でも離れたくない。

次こそは。

3・2・1・2・3・4・5・6。
配信記録達成。

そんな自分に嫌気がさす。

だから……

震える水面。
でも気づかない恋次。

いつもそう。
この人は鈍感。
私の気持ちになんか気づかない。
いつも清子ちゃんに夢中で。

恋次くんの周りにはイケメンが集まる。
だから自分は輝いていないと思っている。

いつもなにかに一生懸命で。
頑張っているのにいつも空回り。

へこんで傷ついて泣いて笑わなくて無愛想じゃないけれど。
いつもなにかに怯えている。

震える恋次くんに触れたらどうなるんだろう?
清子ちゃんのポジジョンになれたら恋次くんを離さないのに……
こんなに震えているのに私は何も出来ない。

泣きそうな自分。
というか少し泣いている自分。
少しと言うか凄く泣いている。

恋次くんが言っていることが頭に入らない。
でも感じる。

だから……

恋次くんの唇にキスをしようと顔を近づける。
恋次くんも私の唇にキスをしようと顔を近づける。

コツン。

おでことおでこがぶつかる。

ああ、なんだろう。
この間の悪さ。

でも……

水面はクスリと笑う。

恋次はきょとんとした顔をしている。

いいんだ。
いいんだ。
いいんだ。

私は恋次くんのこういうところが好きなんだ。

恋次くんの周りの人は真っ赤に燃えている。
太陽のようにギラギラ輝いている。
同じ赤でも恋次くんは不完全燃焼って感じがしている。
でも、それが私のよりどころなんだ。
どこか自分はモテないと冷静になっている恋次くん。
そして優しい恋次くん。
落ち着いている恋次くん。
冷静なのにおっちょこちょい。
傷ついたら傷ついた分だけ優しくなれるって言葉は恋次くんのためにある言葉だろう。

水面は少し意地悪なキスをした。
意地悪じゃないキスも。
意地悪なキスも知らない。

でも、チョンと唇で唇に触れる。

それが私にとっての意地悪なキス。
それが私の初めてのキス。

「でも、エッチはまた今度」

水面は小さく笑う。
恋次は顔を赤くさせる。

「ハグはいい?」

「今はハグの時間ってことで」

水面はそのまま恋次の胸の中で目を閉じる。
早く鼓動する恋次の胸の音。
その音がだんだんゆっくりとした心音になる。

水面はその鼓動に安心感を覚えた。
一生このまま抱かれていたい。
そう思った。
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