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Scene07 コインロッカーの女の子

167 希望の日に

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 頬がパンパンに膨れ上がるまで、姉は武さんに殴られた。

 痛い。
 痛い。
 痛いよ……

 姉は、逃げるように自分の部屋に戻った。

「鬱陶しいから、もう出てくるな!」

 武さんが怒鳴る。
 姉は怖くて怖くて怖くて!
 布団の中に潜り込んだ。

 布団の中に潜り込んで、耳を塞いだ。

 そして、いつしか眠っていた。

 目が覚めた時、夜になっていた。
 ほんの僅かな声だけど、ママの声が聞こえる。
 ママと武さんが、話している。
 姉は2人に見つからないようにそっと近づいた。

「なぁ、あのガキ邪魔なんだけど?」

「え?」

「理香だっけ?
 俺の子じゃないし……
 処分してくれないか?」

「処分って、ペットじゃないんだから……」

「子供なんて、いらないじゃないか……
 俺を取るか、ガキを取るか選んでくれよ……」

 ママは何も答えない。

「もちろん、俺を選んでくれるよな?」

「そうね……」

 どういう事?
 私、捨てられるの?
 由香も捨てられるの?

 姉は、そう考えると、怖くなった。

「じゃ、殺してくれるな?」

 武さんの言葉に姉は、凍りつく。

 コロス?
 コロスって何?

「それは、出来ない……
 由香は、貴方の子供なのよ?」

「でも理香は、俺の子供じゃない」

 ママは、何も言わない。
 ママは、ゆっくりと姉の方を見た。
 姉はママと目が合う。

 ママ?

「わかった……」

 え?

「その代わり武君……
 私と結婚してくれる?」

 武さんは、ケラケラと笑う。
 そして、こう言った。

「2人が死んだら考えてやるよ」

 ママは、嬉しそうに武さんの体を抱きしめた。

「わかった。
 明日の朝、2人を殺すわ……」

 その言葉を聞いた後怖くなって布団の中に潜った。

 殺す……?
 ママが、私を??

 怖くなった。
 怖くなった。
 怖くなった。

 怖くなって私は泣きたくなった。
 姉泣く前に私が泣いた。

「由香……?」

 姉は私の体を抱き上げた。

「由香……
 お腹すいたの?」

 私は、返事をしない。
 ただ泣くばかり。
 泣くしか出来ない。

 姉は私を連れて家を逃げるように出た。

 家では、ママと武さんが抱き合っている。
 だから、ママにも武さんにも気づかれなかった。

 私は、明日殺される。
 由香も、明日殺される。

 姉は、そう考えた。
 いっぱい、いっぱい、考えた。

 そして、姉は思いつく。

 由香を隠そう。

 姉は走った。
 一生懸命走った。

 私を隠せる場所。
 姉は知っている。
 絶対にばれない場所を知っている。

 それは……

 姉は、駅に向かって走った。
 家から駅まで結構な距離がある。
 だから、私はヘトヘトになった。
 そして、私はコインロッカーに私を隠した。

「由香……
 バイバイ……」

 私は、今眠っている。

 カギは、かけない。
 カギをかけてしまえば、警察の人が助けるのが遅れるかもしれない。
 そしたら、私は死ぬ。
 だから、姉はロッカーに鍵をかけなかった。

「由香……
 優しい人に拾われてね……」

 姉は走る。
 家に向かって走った。

 家に変えると、ママは武さんは、裸で抱き合っている。
 姉は、2人に気付かれないように自分の部屋に戻った。

 姉は、布団の中に潜り覚悟を決めた。
 姉も逃げればよかったのかもしれない。

 だけど、もしかしたらママは、自分を助けてくれるかもしれない。
 そんな淡い希望が、姉の胸の中にあった。
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