上 下
162 / 186
Scene07 コインロッカーの女の子

163 崩壊の鐘が鳴る

しおりを挟む
 赤ちゃんが産まれた。
 なのにパパは、怒っている。

「どういう事なんだ?」

「……ごめんなさい」

「謝罪を聞きたいんじゃない!
 どうして、A型の君とAB型の僕からO型の子供が産まれるんだ!?」

 パパは、いつも飲まないビールを一気に飲み干すと缶を机に叩きつけた。

「……ごめんなさい。
 ごめんなさい。ごめんなさい」

「もういい……!!」

 パパは、立ちあがった。

「パパ、何処に行くの?」

 パパは、怖い顔で姉を睨むとママにこう言った。

「理香は、本当に僕の子なのかい?」

 パパは、何を言っているのだろう?
 姉には、理解できない。

「当たり前じゃない!」

 ママは、涙をボロボロ流しながら答えた。

 パパが、ママを泣かしている。
 パパは、ママを苛めているの?

「パパ!ママを苛めちゃダメ!」

 姉は、パパに怒鳴った。

 パパは、むっとした顔をして仕事部屋に入っていった。

「パパ、どうして怒っているの?」

 ママは、何も答えない。

 赤ちゃんが泣いている。
 大きな声で泣いている。

「赤ちゃん泣いてるよ……?」

「そう……ね……
 赤ちゃんは、泣くのが仕事だから……」

 ママは、そう言うとゆっくりと赤ちゃんを抱きしめた。
 そして、ママは赤ちゃんにミルクをあげた。

「赤ちゃんの名前はないの?」

「この子の名前はね、『由香』よ」

「ゆか?」

「そう、由香よ……」

 ママは、そう言って由香ちゃんの頬を撫でた。
 と、その時だった。

 パパが、鞄を持ってママの前に立った。

「僕は、ここをでるよ」

「え?」

「離婚届は、今度送る。
 君は、理香と由香の本当の父親の所に行ったほうがいいよ」

「理香の父親は、貴方よ!」

「それもどうか怪しい……」

「そんな!
 お願い信じて、理香は貴方が父親なの!
 あの人とだって一度しか……」

「一度はあったんだね……」

 パパが、怒鳴る。
 パパは怒っているけど泣いている。
 ママは、何も言わない。

 ただ、ママも静かに泣いた。
 パパは、そんなママを尻目に部屋を出た。

「パパ!」

 姉は、走った。
 パパの元へ走った。
 だけど、姉から見た玄関は果てしなく遠く。
 パパから見た玄関は果てしなく近かった。

 追いつけなかった。
 届かなかった。
 願い虚しく。

 パパは、姉の前に現れることはなかった。
しおりを挟む

処理中です...