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Scene07 コインロッカーの女の子

161 コロッケ

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 パパが作ってくれた料理は、コロッケだった。
 外がサクサクで、中はホクホク。
 美味しかった。

 ママも美味しいって言っていた。
 だけど、その表情は寂しげで悲しげだった。

 ママは、涙を流しながらコロッケを食べていた。

「ママ、どうして泣いているの?」

「静どうしたんだい?」

「なんでもないの……
 なんでもない……なんでもないの……」

 ママは、ボロボロと涙をこぼした。

「そっか……」

 パパは、ママの傍に座るとママの体を抱きしめ優しく撫でた。
 ママの涙は、止まる事はなかった。

 パパは、優しくママを包み込み。
 優しく撫でた。

 何も言えない。
 何も言えなかった。

 ただ見ているしか出来なかった。
 スプーンで、コロッケをすくった。
 それを口に運ぶ。

 美味しい。

 心の中の鐘が鳴った。
 パパもママの顔に笑顔が戻る。
 このまま笑顔が戻るんだと思っていた。

 だけど、現実は姉には優しくは無かった。

 それから3ヶ月が過ぎた。
 パパとママと一緒にご飯を食べていた時。
 ママが、照れくさそうに言った。

「出来ちゃったみたい」

「え?」

 パパの表情が一瞬固まる。

 何ができたのだろう?
 ご飯かな?
 あれ?
 でも……ご飯は、今食べてるよ?

「赤ちゃん出来ちゃったみたい……」

「ほ、本当に?」

 パパが、嬉しそうに笑う。

「……うん。
 3ヶ月だって……」

「そっか……!
 男の子?女の子?」

「まだ、わかんないよ」

 ママが、苦笑いを浮かべる。

「理香良かったな!
 お前、お姉ちゃんになるんだぞ!」

 お姉ちゃん?
 お姉ちゃんってなんだろう?

 姉は、首を傾げた。

「妹か弟が出来るんだぞ?
 理香、もっと喜べ!
 家族が増えるんだぞ?」

 パパは、姉の体を抱きしめ、物凄く嬉しそう。

 パパのしあわせは、姉のしあわせ。
 ママのしあわせは、姉のしあわせ。

 だから、しあわせせいっぱいのはずなんだけど何故だろう?

 姉は、素直に喜ぶ事は出来なかった。
 何故だかは、わからない。
 姉の中で何かが音を立てずに壊れた。

 パパとママが、抱き合う。

 それは、とてもしあわせそうな顔だった。
 だから、しあわせになりたい。
 だけど、自分はしあわせにはなっていない。

 何故か涙が零れた。

 しあわせの音が、音を立てて崩れていく……
 そんな気がしたから……

「理香……?」

 ママが、姉を抱きしめる。

「なんにも不安な事なんてないから……」

「そうだぞ……
 パパは、ママと理香を一生守って見せるからな?」

 パパが、涙をティッシュで拭いてくれる。

 それでも、消えない。
 この不安はなんだろう?

 姉は、泣いた。
 わんわん泣いた。

 涙が枯れて疲れ果てるまで泣いた。
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