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本編

第14話:森の様子(1)

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 ユリウスたちは野次を飛ばしてくる冒険者たちへと「悪かったって」と謝りながら、受付裏の部屋へと足を踏み入れた。

「お前ら、あの量の魔物は直ぐに買い取りの値段出ないから、少し待てよ」
「ああ。話していたら丁度良いぐらいだろう?」
「俺も承知の上だ」

 こんな時なので仕方がないが、あんなに一度に持ち込んで逆に申し訳ないなと、ユリウスは思った。

「にしても相変わらず、ここは茶の一つも出てきやしねーな」

 ソファーにユリウスたちと並んで座ったサリトが突然そう言い出す。ユリウスたちも、そういえば棚にティーポットなどがちゃんと揃えられている割に、自分たちも出されたことがないなと考えた。

「あ? んなもん冒険者に出してどうする。本来ここは来客用の部屋なんだよ。作法も分からん冒険者にいちいち茶を出して、カップを割られでもしたら堪らん」
「「確かに/な」」

 皆は納得して頷いた。

「だろーが。......いや、そっちの三人は似合いそうだが」

 ドレードはじーっとユリウスたちのことを見つめた。

 似合いそうもなにも、美しい作法でお茶を飲むのは王侯貴族の仕事の一部だ。ネルは元孤児だが、今はエルハルドのとこの養子。尚更作法はちゃんとしていないといけない。ちょっとした腕の角度でもズレていれば良い笑いものになってしまうのだった。

 只でさえサリトには色々と勘づかれているのに、余計なことを言うなと、ユリウスはドレードへ視線を送った。

「あ......っん、んで、森の様子はどうだったんだ」

 ドレードは誤魔化すように、部屋のいかにも高級そうなソファーにドカっと勢い良く座りながら、言う。

 ユリウスは溜息を吐きつつ話し出した。

「かなり生態系が崩れてきているぞ。まず、森の低ランク冒険者でも訪れるれるような場所でブラッドマウスと遭遇した」

 あそこはまだ、森の入り口から少し離れただけの場所だった筈だ。ブラッドマウスと遭遇した際、ユリウスたちは何も言わなかったが、本来あの魔物というのは森の中心辺りで遭遇する奴らなのだ。

「数は?」
「六十匹近くだったか?」
「ああ。魔法が使えるユーリが居てくれて助かったよ」

 ドレードとサリトは目を見開いた。

「そんなもん、Bランクレベルじゃないのか! お前らCランクが良く無事だったな......って、これは愚問か」

 サリトはジト目になった。

「何度も言うが、ほんっとお前ら何者なんだよ......」
「「家族で一緒に行動している冒険者」」
「そういう事が聞きたかったんじゃない! ハモるなッ!」

 ユリウスたちは問われたことに答えただけだ。解せない。勿論、答えたのは設定上の立場だったが。

「まあ特にチートなのはお前だお前、ユーリ」

 自分に向かって指されたサリトの指を「マナーが悪い」と、ユリウスははたき落とした。

 ユリウスとしては、チートだの最強だの天才だの本来の立場柄言われ慣れているが、嬉しいと思ったことが無かった。それは、大抵が社交辞令やおだてるための言葉だということもある。だが、ユリウスは自分が努力して手に入れた能力を、一言で簡単に表現される事が単に気に入らなかったのだ。

「はあ......話を戻せ。森の様子だろ?」
「あ、そうだブラッドマウス! お前、いくら魔法が使えても六十匹は大変だったろ?」

 ユリウスは討伐した際のことを思い出していた。

「......そうでもなかったけどな。ブラッドマウスは素早い代わりに小さいから、オリジナル魔法で一網打尽にした」
「六十匹を一網打尽って、大規模魔法でも使ったのか!?」
「いや? そんな事したら森が不必要に荒れるだろう」

 大規模魔法では無いとなると、魔法を行使する為には目標をハッキリと認識しなければならない。六十匹の魔物の位置を一匹一匹ハッキリと認識するのは、ユリウスとてさすがに不可能だった。そこで彼は、この世界の至る所にいる精霊たちに協力してもらい、ブラッドマウスの位置を一匹残らず正しく認識し、魔法を行使したのだ。

「精霊様はそんなに沢山いるのか!」
「ああ、煩いくらいにな」
『煩いってヒドーイ!』
『俺たち役に立ってるだろー!』
『もう、ユーリなんて知らないって言っちゃうよ!』
『よーだっ!』

 ユリウスは頬に精霊たちがまとわりつき、小さな手でペちペちと叩かれる感触を感じ、顔を顰めさせた。頬を膨らませる精霊たちは可愛いらしが、如何せんくすぐったいし、耳元でギャーギャー騒がれると煩い。

「悪かった悪かった」ユリウスは適当に謝った。

『『適当!!』』

 やはり、そんな謝罪じゃ精霊様たちは許してくれないようだ。益々騒いでいる。

「......で、次にサリトさんはどんな魔物たちと遭ったんだ」

 ユリウスは無視を決め込んだ。
 
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